わざわいのモト
ジェレミアは悩んでいた。
―――ルルーシュ様に、なんと報告をすれば・・・よいのだろうか?
ルルーシュに依頼された内部調査は、命令を受けてから僅か数十分で終了してしまった。
それにもかかわらず、ジェレミアは調べ上げた(?)噂の真実をルルーシュに報告することを躊躇った。
どうすればいいのか、一晩寝ずに考えて、気がつけば、噂の真相をつき止めてから丸一日以上の時間が経過していた。
そして今、内偵の途中経過の報告を求められたジェレミアは、昨日命令を受けたときと同じように、ルルーシュの前で片膝を折って畏まっている。
授業を終えてクラブハウス内にある私室に戻ったルルーシュは、窮屈な学生服の上着を脱ぎ捨て、優雅に脚を組んで椅子に腰掛けながら、ジェレミアを見下ろしていた。
その姿を前にして、ジェレミアの胸中はそれまで以上に複雑さを増した。
―――・・・い、言えるはずがない・・・。
「ゼロが・・・ルルーシュ様が、私の愛人などというとんでもない噂が、黒の騎士団内部に広まっています」などとは、口が裂けても言えるはずがなかった。
そもそも、そんな途方もない噂が流れ出た原因に、ジェレミアは思い当たるフシがある。
夜中にジェレミアがルルーシュの部屋に忍びんで、眠っている主に襲いかかったことは紛れもない事実だったし、どこからその話が組織内に漏れたのかはわからないが、タイミング的にもそれ以外に、噂の元となる事実にジェレミアは心当たりがなかった。
―――酔っていたとは言え、私はなんということをしてしまったのだ・・・。
酔いが醒めた後に、ルルーシュに厳しく叱りつけられるまでもなく、ジェレミアは自分の仕出かした暴挙に、全身から血の気が引いたことを、覚えている。
しかし、まさか自分の犯した愚行が、こんな事態を招こうとは、そのときのジェレミアには考えも及ばなかったのだ。
しかも、ジェレミアは一度ならず二度までも、ルルーシュの部屋に忍び込んでいる。
噂の真相を知ったルルーシュに、「お前の所為だ」と責められても、これはもう、ジェレミアに弁明する余地は微塵もない。
言葉で責められるくらいならまだしも、激怒したルルーシュにどんな酷い仕打ちをされることか・・・。ジェレミアはそれを恐れているのだ。
それならばいっそのこと、「使いない奴」とルルーシュに思われても、ディートハルトの口から聞いたことをなかったことにしてしまおうかとも考えたのだったが、ルルーシュを前にして、ジェレミアのその勇気は崩れかけている。
嘘を吐いたことをルルーシュに見破られれば、更なる悲惨な憂き目がジェレミアを待ち構えているのだ。どちらにしても、ジェレミアに安息の明日はない。
下手をすれば、明日の太陽を拝むことすらできない可能性もあるのだ。
血の気の失せた白い顔を深く俯けているジェレミアを、ルルーシュはその胸の内を覗き見るように、じっと見つめている。
ジェレミアは覚悟を決めなければならなかった。
「どうだ?なにかわかったか?」
目の前で畏まっているジェレミアに問いかけるルルーシュの声は静かだったが、それがかえってジェレミアの恐怖を煽った。
だから、
「は・・・はい。実は、その・・・ちょ、調査の方が思いの他難航致しておりまして・・・」
そう答えたジェレミアは、目先の恐怖を先延ばしすることを選択したのだ。
しばらく、ルルーシュにじっと見つめられて、ジェレミアは自分の吐いた嘘が見抜かれてしまうのではないかと、生きた心地がしなかった。
もしも嘘が見抜かれてしまったら、無理矢理にでも口を割らされて、ジェレミアが予想する最悪のパターンに陥るのは必至だ。
しかしルルーシュは、
「そうか・・・」
と、少し残念そうに呟いただけで、ジェレミアが嘘をついていることを少しも疑っていないようだった。
「昨日の今日で、成果を期待するのはやはり無理があるか・・・」
「・・・も、申し訳、ございません・・・」
「まぁ、いい・・・。引き続き内偵を進めてくれ」
「は、はい。・・・それでは、私はこれで失礼させていただきます」
そう言って、立ち上がりかけたジェレミアの耳に、部屋の扉が開く音が聞こえた。
退室するために後ろを振り返れば、そこにはロロと咲世子が訝しそうな顔をしながら立っている。
しかし、それに構っている余裕は、今のジェレミアにはない。
嘘がバレる前に、一刻も早くルルーシュの視線から逃れなければならないのだ。
足早に立ち去ろうとするジェレミアをじっと見つめているロロの不愉快そうな顔を横目に見ながら、敢えてそれを無視して、たった今二人が入ってきた扉の方へと足を進める。
「ジェレミア卿!」
突き刺すようなロロの声が、ジェレミアを呼び止めたのはそのときだった。
一刻も早く部屋の外へと逃げ出したいジェレミアだったが、名前を呼ばれて足を止めなければ、ルルーシュの疑念を招くことは必定と判断したジェレミアは、内心では舌打ちしたいほど苛立ちながらも、それを面には出さずに立ち止まり、感情を隠した顔をロロに向けた。
「なにか、私に用でも?」
焦る心を隠しながら平静を装って、不自然なほどに落ち着き払った声で問いかけたジェレミアは、ルルーシュの視線を気にするあまり、その声が酷く冷たいものになっていることに、まったく気づいていない。
それがロロの神経を逆撫でさせていることにも、ジェレミアは当然気づいてはいなかった。
不愉快顔を卑屈に歪めて、長身のジェレミアを見上げるロロの瞳に浮かぶ憎悪にも、ジェレミアはまったく動じていない。
ロロにはそれがますますおもしろくなかったのだろう。
ずいと、一歩ジェレミアの前に足を踏み出すと、軽蔑するような視線を向けた。
「貴方は、ご自分の立場と言うものを理解しているのですか?」
「立場・・・とは?」
「貴方の所為で、組織内での兄さんの立場が悪くなるということを、考えたことはあるのですか?」
そんなことはロロに言われるまでもなく、ジェレミアはしっかりと自分で自分の立場と言うものを理解をしているつもりだ。
理解しているからこそ、ジェレミアは滅多に黒の騎士団には顔を出さないし、でしゃばった真似は一切しない。
「貴方の所為で、兄さんが窮地に立たされていることを・・・貴方は知っているのですか!?」
捲くし立てられて、ロロのその言葉に思い当たるフシのないジェレミアだったが、それ以上に、それまで黙って二人の遣り取りをを見守っていたルルーシュが、不審の表情を浮かべている。
「・・・ちょっと待てロロ。俺は別に、窮地に陥ってなどは・・・」
「に、兄さんまで、こんな男の肩を持つつもりなのですかッ!?」
「そ、そんなつもりはないが・・・」
しかし、実際にルルーシュはロロの言うように、黒の騎士団内で窮地の立場には立たされているとは、少しも感じていない。
それを話したところで、嫉妬に駆られているロロの口は止まらなかった。
「黒の騎士団の中で、ジェレミアが兄さんの・・・ゼロのパトロンだというおぞましい噂が、まことしやかに流れていることを、兄さんは知っているのですか!?」
「な、なんだとッ!?」
唐突に、ロロの口から出た思いもかけない言葉に、絶句したルルーシュだったが、ジェレミアの驚愕は更にその上を行っていた。
ジェレミアがディートハルトから聞いた噂とは全然違っているのだ。
「お待ちください」
半狂乱で取り乱しているロロと、驚きと戸惑いを隠せないでいるルルーシュ、それになにがどうなっているのか、状況が理解できていないジェレミアの間に割って入ってきたのは、それまでひっそりと部屋の隅に控えていた咲世子の声だった。
「私の聞いた噂とは少し違うようですが・・・?」
小首を傾げながら、普段と変わらない飄々とした咲世子の声に、一番血の気が引いたのはジェレミアだっただろう。
混乱する頭で、組織内に流れている噂が複数あると理解したジェレミアは、ディートハルトから聞いた噂が咲世子の口から飛び出すのではないかと、気が気ではないのだ。
今ロロが口にした「パトロン説」より、ジェレミアが聞いた「愛人説」の方がルルーシュの怒りが大きいことは間違いなのだ。
オロオロと狼狽しながら、視線を彷徨わせる不審極まるジェレミアの様子に気づくことなく、ルルーシュは咲世子の方を注視している。
僅かな沈黙の間にも、絶望の闇がじわりじわりとジェレミアを侵食する。
「咲世子、お前の聞いた噂とはどんな噂だ?構わないから話してみろ」
ルルーシュに促されて、咲世子は小さく頷いた。
「私が耳にした噂は・・・あくまでも噂ですので、お気になさるほどのことではないとは思いますが・・・」
そう断っておいて、
「実は・・・ゼロが女性で、ジェレミア卿はその色香に惑わされて仲間になったのだと・・・私はそう言った風な噂を耳にいたしましたが・・・?」
「ああ、それなら僕も知っているよ。兄さんは体の線が細いから、以前からゼロが女性なんじゃないかって噂があって、それに尾鰭がついただけの話だろう?咲世子は遅れているんだよ。僕が聞いた噂の方が絶対に最新だし、・・・でも、どっちにしてもジェレミア卿の所為でゼロに関するとんでもない噂が広まっているのは事実だ!」
さばけた口調でそう言った咲世子の言葉と、それを補足するようなロロの駄目押しの一撃に、ルルーシュは顔を引き攣らせている。
「・・・では、私が聞いた噂はなんだったのだ・・・?」
ジェレミアは、もうなにがなんだかわからなくなってしまって、混乱する頭を抱え込みながら、ぼそりと独り言のように呟いた。
それは混乱する胸中にあるジェレミアの疑問が思わず口に出てしまったものであったのだろうが、その小さな呟きを聞き逃さず、敏感に反応を示したのは、はやり噂の当人なのは当然のことだろう。
訝しげな顔をしているルルーシュにじろりと睨まれて、ジェレミアは己の失態に気がついたが、後の祭りである。
慌てて口を塞いだジェレミアの目の前に迫ったルルーシュは仁王立ちになり、襟元を掴み上げて、射抜くような視線でジェレミアを睨みつけた。
「お前が聞いた噂とは、どんな話だ?」
声は恐ろしいほど穏やかで、口許は笑っているが、目は笑っていない。
誤魔化すことも白を切りとおすことも一切許さない、ルルーシュの鬼気迫る迫力に、ジェレミアごときが太刀打ちできるはずがないのは百も承知だったが、それでもジェレミアは必死に口を噤んだ。
―――言ったら殺される・・・確実にルルーシュ様に殺されてしまう!!
顔面蒼白になりながら恐怖に顔を引き攣らせて、歯を食いしばって口を噤むジェレミアの様相は、正に生と死を賭けた必死さが窺える。
傍から見れば、それは大袈裟すぎるほどのリアクションなのだろうが、本人はいたって真面目なのだ。
襟を掴むルルーシュの手の力が徐々に増して、ジェレミアを見上げる表情に険しさが露になる頃、そろそろと足音を忍ばせながら、気配を消して壁際を這うようにして出口へ向かう、ロロと咲世子の姿がジェレミアの視界に入った。
一旦怒り出すと手がつけられなくなる、ルルーシュの性格を熟知している二人が、ルルーシュがジェレミアに気をとられている隙に、この場から逃走を図ろうとしていることは明らかだ。
ちらりと、一瞬、ルルーシュに攻め立てられているジェレミアに視線を向けたロロの瞳が、「いい気味」と言わんばかりに意地悪く笑っていた。
ルルーシュは二人の逃走にまったく気づいていない。
平穏の楽園へと続く扉の向こうに二つ影が呑み込まれると、ジェレミアはいよいよ窮地に陥った。
助けを求める相手は、もはやこの限られた空間にはいないのだ。
「ジェレミアッ!!」
ルルーシュの激しい怒号が部屋の外まで響き渡って、まんまと脱出に成功した二人は顔を見合わせて首を竦めた。
部屋の中では、ルルーシュの大暴走が始まっているに違いない。
その予測どおり、ルルーシュに髪を引っ張られ、顔を殴られたり引っかかれたり蹴りを入れられたりし、挙句の果てには手当たり次第に物を投げつけられたジェレミアは終に観念して、口を割った。
「い、言います・・・正直に申し上げますから、ど、どうか・・・落ち着いてください!」
ジェレミアの声に、物を投げる手をようやく止めたルルーシュは、肩で大きく息を吐いている。
ふらふらとよろめきながら、近くにあった椅子を引き寄せると、疲労困憊の体を投げ出すように腰掛けた。
乱れた息を整えて、足組をし、じろりとジェレミアを一瞥する。
僅かな沈黙の後、ルルーシュの無言の威圧に耐え兼ねて、ルルーシュの前で膝を折ったジェレミアは諦め切った顔を上げることなく、自分の聞いたゼロに関する噂を語り始めた。
視線を床に向けたまま、ディートハルトから聞いた話のあらましを口にしながら、諦めの境地に追い込まれたジェレミアは、自分でも驚くほど冷静だった。
淡々とした口調で、全てを語り終えたジェレミアを、ルルーシュは黙ってじっと見つめている。
目視しなくても、不機嫌な顔を更に歪めたルルーシュの表情が、ジェレミアには容易に想像ができた。
息苦しいほどの重い沈黙の後、「ジェレミア」と、低く名前を呼ばれて、おずおずと顔を上げたジェレミアの顔面に、冷たく硬い物質が押し付けられて、突然のことにそれがルルーシュの靴の底だと気づくまでに、数秒の時間を要した。
ぐりぐりと顔を踏みつけられても、ジェレミアは無抵抗のまま、ルルーシュの気が済むのを無言で待っている。
しばらくして、靴底が離れると、ルルーシュの引き攣った笑みが、ジェレミアの開けた視界に映し出された。
「どうせお前が・・・誰かにべらべらとあのことを、自慢げに話をしたんじゃないのか?」
侮蔑するようにそう言ったルルーシュの言う「あのこと」が、なにを指しているのか一瞬理解できずに、ジェレミアは返答に詰まった。
「否定しないってことは、図星か?・・・お前のことだ、話す相手といえばヴィレッタくらいしか思い当たらないがな・・・。しかし、まさかお前がこれほど馬鹿な奴だとは思わなかった・・・俺の寝込みを襲ったばかりか、それを自慢話にして他人に話すとは・・・」
「ちょ、ちょっとお待ちください!わ、私はそのようなことは、していません!ル・・・ルルーシュ様の寝込みを襲ったのは事実ですが・・・それを誰かに話すなど・・・するはずがないではありませんか!!」
「では、どこからそんな噂が広まったというのだ!?お前以外に考えられないではないか!」
「し、しかし・・・私は本当に誰にも話しをしてはいませんし、忍び込むところを誰かに目撃されたということもありません」
真剣な面持ちで訴えかけるジェレミアの言葉に嘘がないことを見てとったルルーシュは、再び沈黙して首を捻った。
ジェレミアが嘘を吐いていないとしても、本人の気づかないところで、ジェレミアがこの部屋に忍び込むところを、偶然目撃されていた可能性も考えられる。
しかし、ゼロの正体がルルーシュであるということを知らない人間に見られたのなら、今度のような噂には結びつかない。
組織の中に限って噂が広まっている以上、目撃者は内部の人間で、且つ、ゼロの正体を知っている者となると、該当者は限られている。
例え、そのうちの誰かに見られていたのだとしても、ジェレミアがルルーシュの部屋を訪問することは別に不自然なことではないのだから、このようなとんでもない噂にはならないはずなのだ。
―――・・・では一体、どこからこの噂は流されたのだ?
終には腕組をして真剣に考え込んでいるルルーシュを、微動だにしない姿勢でジェレミアがじっと見守っている。
その視線に気づき、ルルーシュは憮然とした顔をジェレミアに向けた。
噂の出所を詮索する前に、ジェレミアが酔っ払ってあんな馬鹿なことをしなければ、こんなことにはならなかったはずなのである。
「お前の所為で・・・」
そう呟いて、突然椅子から立ち上がったルルーシュは、反射的に逃げの態勢に入ったジェレミアの髪を強く掴み上げた。
「お前の軽率な行動の所為で、とんでもないことになってしまったのだぞ!責任を取ってもらおうか?」
「せ、責任・・・と言われましても・・・」
嫌な予感に恐れ戦くジェレミアを見下ろすルルーシュの瞳が、意地悪く笑っている。
「俺がお前の愛人ではなく、お前が俺の愛人だと、世間に知らしめれば済むことではないか?そうだろう?」
「ちょ・・・お、お待ちください!それでは何の解決にもならないではないですか」
「そんなことはない。少なくとも、俺のプライドは守られる」
「そ、それでは・・・私の立場はどうなるのですか?」
「お前の立場など、俺の知ったことではない。玩具から愛人に格上げしてやろうと言っているんだ。喜ぶべきではないのか?それとも、俺の愛人では不服があるとでも?」
不服があるとかないとか、そう言う問題ではないのだ。
どう切り返せばいいのか戸惑っているジェレミアの体を床に押しつけて、ルルーシュの手がジェレミアの上着を脱がせにかかった。
「こ、こんなところで・・・冗談ではありません!誰かに見られたらどうするのですか!?」
部屋の扉の鍵はかかっていないはずだ。
ジェレミアは本気で慌てている。
「見せつけてやればいいだろう。それこそ願ったり叶ったりだ」
本気とも冗談ともつかないルルーシュの言葉に、ジェレミアは蒼ざめた。
絶対的な主君の言葉でも、ジェレミアの貞操観念はそこまで落ちぶれていない。
襟にかけられたルルーシュの手首を掴んでそれを阻むと、怪我をさせない程度の力加減で押し戻す。
「・・・俺に逆らうのか!?」
「当たり前です!いくらルルーシュ様のお言葉でも、従えることと従えないことがございます!!」
そう言って、床に押しつけられた体を意図も簡単に起き上がらせると、ルルーシュの両の手首を掴んだまま、逆にジェレミアがルルーシュの体を床に押さえつけた。
もがいても暴れても、ルルーシュがジェレミアに力で敵うはずはない。
抵抗を諦めて、自分を押し倒している男を睨みつけると、ジェレミアは困ったような顔でルルーシュを見下ろしている。
迂闊にルルーシュを開放すれば、どんな無謀な行動をおこすか知れたものではないのだ。
そのままの格好で睨み合うこと数十秒。実際はそんな短い時間だったのだが、ルルーシュが冷静さを取り戻すのを待つジェレミアには、もっと長い時間に感じられた。
しかし、その睨み合いは、ルルーシュが冷静に戻る前に、突然の扉の開く音で終止符が打たれた。
人の気配に気づき、二人がほぼ同時に扉の方へと視線を向ければ、片頬を引き攣らせた女性教師が、扉の前で呆然と立ち尽くしている。
「・・・・・・・・・・お・・・お前達、真昼間から・・・なにを・・・して、いる・・・のだ?」
「ヴィ・・・ヴィレッタ・・・?こ、こ・・・これは・・・これは違うのだ!」
不審のまなざしを二人に向けているヴィレッタに、ジェレミアは慌てふためいた。
その下敷きになっているルルーシュは、ヴィレッタがなにを勘違いしているのかを悟って、おもしろくなさそうな顔を横に背けている。
この状況では、どう釈明してみても、ヴィレッタの誤解を解くのは難しいことを、ルルーシュは理解しているのだ。
逆に、言い訳をすればするほど、誤解を深めることになりかねない。
突然のとんでもない場面に遭遇してしまったヴィレッタは、一瞬頭を抱えて、状況を整理しようと試みたようだが、混乱した頭は上手く情報を処理することができないらしく、この場を取り繕うために無理に作った訳のわからない引き攣った笑顔を二人に向けて、よろめくように、一歩二歩と後ずさった。
「ヴィレッタ、待ってくれ!私の話を・・・」
ジェレミアの虚しい呼びかけにも反応を示さず、無言で部屋の扉を閉めてしまったヴィレッタが、この状況をどう解釈したのかは、ルルーシュにもジェレミアにも、容易に想像がつく。
「・・・・・・・・・・お前の所為だぞ」
言われて、返す言葉もなく、ジェレミアはヴィレッタの出て行った扉を、呆然として見つめた。