3極菅パワーアンプと多極管パワーアンプ

3極菅パワーアンプの特徴
内部抵抗rpが低く増幅率μが小さいことで,そのためにつぎの ような利点と欠点を生じます.
すなわち,rpの低いことは出カトランスでおこる 歪を少なくし,良好な低域特性を得やすくして います.
これはNFアンプの低域特性の調整にとって望ましいことです.
またダ ンピングやレギュレーションの点でも好都合ですが,高域特性を悪化させる傾向 があります.
また電源部が貧弱であるとハムを生じやすい欠点もあります.
つぎにμの小さいことは,出力管の利得が少ないということで,同じ出力を出 すのに,大きなグリッド入力が必要なわけです.
そのため,大きな信号をひずみ なく送り出さねばならない前段のドライバが苦しいことになるし,NFBループ 内の利得を減らしている点は,3極管の最大の欠点といえます.

3極菅の最適負荷の値は,だいたいrpの2〜3倍にえらぷのが普通ですが, 出力段の最終負荷,すなわちボイスコイルのインピーダンスが,400Hzで測っ た公称値よりもつねに増大する傾向があるために,出力管の負荷も周波数によっ ては最適値をはずれ,多いとぎには数倍にも増大することになります.
実際には 最終負荷の変動以外に,出力トランスのインピーダンス特性も加わるので,出力管の 負荷の変動の模様はもっと複雑になりますが,負荷の値が変動したばあいの 出力と高調波ひずみ(HD)の関係を代表的な3極管2A3についてみると、 第1-26図のようになります.

全体の傾向として,高調波ひずみ(HD)の大部分は第2高調波H2で,第3高調波H3は多くありません.
とくに負荷が 最適値よりも大きくなった範囲では,第3高調波H3はほとんどなくなっており,これは混変調歪IM の点で望ましいことです。
奇数次高調波の発生は混変調歪IMをおこしやすく,混変調歪IM を5%にとどめるためには,第3高調波H3は0.8%以下でなけれぱならないのです,
第2高調波H2のような偶数次高調波は, 混変調歪IMに対する弊害が比較的少ないうえに,プ ッシュプル(PP)方式の採用によって打ち消されてしまうので,第2高調波H2の存在は大 きな欠点とはいえません.

このようなひずみ率の傾向をもっていること は,3極管の大きな長所の一つで,その理由はつぎとおりです.
真空管の性質を あらわすEp-Ip特性をみると,第1-27図のように,3極管のものは,バイア スの深い部分でEg曲線の間隔が狭い特徴があって,最適負荷値2.5kΩの負荷直 線(ロードライン)から出力波形を求めると,正弦波のいっぽうの山が圧縮された 形となります.

第1-28図のEg-Ip特性から出力波形を求めても同じ結果が 得られますが,このほうがひずみの状態が明瞭にわかります.
もしもEg-lp特性の 負荷曲線が,点線で示すように直線ならば,文字どおり非直線ひずみは生じませんが, 実際の特性は実線のように湾曲し,3極管のものはバィアスの浅い部分が割合に 直線に近く,カットオフ部分の湾曲が著しくなっています.

このようないっぽうの湾曲が著しい特性曲線は,H2を発生することを物語っ ているので,ひずんだ出力波形は,点線で書かれている基本波H1に, H2とわず かのH3が加わったものとしてあらわすことができます.
H2が多いほど出力波 形の上下非対称ははなはだしくなり,通常総合ひずみ率δ=5%のときを3極管 の無ひずみ最大出力としています.

さて,第1-26図にもどって,3極管の負荷が増大すると,総合ひずみ率δが減少するとと もに,出力も低下します.
負荷が増大するのは,おもにスピーカの低域共振点fo と,周波数の高い範囲ですから,3極管では,よいダンピング特性で低域共振点foの共振を 制動すると同時に,低域共振点foでの出力を低下することにより,ボンボンした音が抑制さ れて目立たなくなります.
しかし,低いrpは,出力トランスのリーケージ・イ ンダクタンスL'の存在によって,高域のf特性を悪化させますから,これと出力 の低下と重なって高音をいっそう出にくくしてしまい,いわゆるハイの欠けたあ まい音になってしまいます.
しかし,このことはL'の少ない出力トランスを使用 し,高域でインピーダンスの増大しないスピーカを用いれば解決することですか ら,3極管の本質的な欠点とはいえません.

5極管パワーアンプの特徴
5極管はビーム管とともに,rpが非常に高く,そのほかあらゆる傾向が3極 管と逆になっています.
まず利得が高いから小さいグリッド入力の割に大出力が 出せます.
能率がよいから経済的です.
これらの利点がある反面, Hi-Fiにとって致命的と,いえるほどの数々の欠点をもっているのも5極管です.
高rpにもとづく欠陥としてはつぎのものがあります.
1)前節で述べたとおり,良好な低域特性が得にくい.
2)出力インピーダンスZoが大きく,定電流駆動の傾向があるため,ダンピ ングとレギュレーションがよくない.
3)大きなZoにマッチした出力トランスの設計・製作が容易でない.
4)出力トランス自体でおこるひずみが大きい.

5極管パワーアンプのもう一つの特徴は,その特性曲線の形状です.いま,6F6(42)を例に とり,第1-29図によってEp-Ip特性をみることにします.

最適負荷である7kΩ の負荷直線上において,縦軸に近い範囲の,肩特性(あるいはKnee)といわれ る各Eg曲線が下方に曲っている部分は,平行等間隔が保たれていません.
ま た横軸に近い部分,すなわちカットオフ付近でも間隔がつまっていますから,出 力波形は正弦波の上下の山がつぶれた形になります.
Eg-Ip特性では,第 1-30 図のように負荷曲線がS字形になっており,3極管にくらべて直線部分が短いわ けですから,ひずみ率が増えそうなことは容易に想像できます.

上下の山がつぶれた出力波形は,これを波形分析すると,出力波形よりも振幅 の大きな基本波H1に相当量(約7%)のH3が加わったものと,実効的に等し いことがわかります.
このように5極管のひずんだ出力は,振幅の大きな正弦波 と出力の大きさが等価となるので,その出力の大きさを公称出力として表示した ばあいには,無ひずみ出力が大きいかのように思われ,
ひどく能率のよい球のよ うに誤解を招くことがあります.
最大出力の基準がちがうためか,欧州系の5極管は,特にこの傾向が大きいようです.
NFBをかけてひず みを少なくし,出力波形をきれいな正弦波にしたとき,最大出力を調べてみると, 公称出力の70%程度にしかならないことがあるので,
5極管の最大出力をみ るぱあいには,この点に注意しなければなりません.

Eg-lp特性のS字形は, H3の発生を表示しているのであって,カットオフ 付近の湾曲は,空間電荷が原因で,どの球にもあることで,これを避けることはでき ませんが,S字を形づくっている上方の湾曲部は,スクリーン・グリッドに分 流する電子流が原因で,5極管特有のものです.
この特異性は,Ep-Ip特性でみると肩特性がなだらかなところにあらわれ ていて,ビーム管の肩特性とくらぺると,その相異がはっきりします.
S字形の 上下の対称性がくずれているばあいには,出力にさらにH2その他が加わること を示しています.
5極管の負荷が最適値をはずれて変動したばあい,出力やひず みの模様は第1-31図のようになります.

この6F6の例では, H2がゼロとなる負 荷インピーダンス7kΩを最適値と規定していますが, H3は前述のように相当量 あって決して少なくありません.
シングルの最適負荷を,H2がゼロの点にえら んだのは,出力トランスの1次側を流れるプレート電流によつてコアが磁化され るとH2を発生するので,H2の総和をもっとも少なくするためと思われます.
負荷が 7kΩをはずれると,H2は急激に増大しますが,総合ひずみ率δは5kΩ付近のほうがもっとも少 なくなっています.
しかし,出力管の負荷はつねに最適値より増大する傾向にあ るので,H2とH3,それに総合ひずみ率δは増加するいっぽうで,とくにPPでも打ち消すことが できないH3が増えることは, IMの点できわめて好ましくありません.
このように NFBの救済なしでは5極管パワーアンプはほとんど使いものにならないということになります.

ピーム菅パワーアンプの特徴
4極管の電極構造を改良してできたビーム管は,各種の点で5極管に似ているので, 多極出力管として,いっしょに扱われることが多いのですが,
5極管と違うとこ ろを6L6の例についてみますと,第1-32図のようになります.

図のEp-lp特牲で,各Eg曲線の水平部分が縦軸近くまで伸び,下方への曲り が急角度となって,肩特性がよくなっています.
そのために同じ電源電圧に対し, さらに大きな出力をとり出すことができ,
5極管よりも能率がよくなります.また 各Eg曲線の平行等間隔の範囲が広いので,
バイアスの浅い部分で波形の山がつ ぶれる欠陥が少なくなっています.
つまりH3の発生が少なく,IMの点でビーム 管のほうがすぐれていることになります.

第1-33図のEg-Ip特性をみると負 荷特性の上方の湾曲は3極管と5極管の中間にあたる形で,
出力波形に含 まれたHDは,特牲の形から想像されるように,H2が多くてH3はわずかです.

第1・34図は,負荷が変動したばあいの出力やひずみの関係を示 したもので,
最適負荷値2.5kΩでのひずみの状態は,まえの結果と 同様,H2が大部分となっています.
負荷が増大したばあいに5極管と 相違するところは,H2とδが減少する点だけで,H3の増加すること は同じですから,PP方式の採用によってH2を打ち消し,
さらにNFBをかけてH3 を減少させるとともにダンピングやレギュレーショを改善しなければなりません.

多極管に対する管内負帰還の効果
これまでみてきたところからわかることは,NFBをかけない状態では,3極 管が直線性,f特性,ダンピングなどの面でもっともすぐれており,
多極管は高 い忠実度をうる目的には,ほとんど絶望的です.
すぐれているとはいっても,3 極管PPでIMの点で合格でぎるのは,動作点が直線性範囲を出ない,ごく小 出力のばあいに限られ,
大出力で良好な特性を望めば,NFBのない3極管は多極 管と同様に落第ということになります.
したがって,Hi-Fiとするためには, どの出力管を使おうとNFBは不可欠です.

NFBをかければ,多極管でも大部分の欠陥がのぞかれ,3極管と同程度あるい はそれ以上の性能となりうるとの主張があります.
これは一応もっともなことで あります.しかし,多極管使用の目的である高利得にできる利点が,大分失なわ れるばかりでなく,
合理的に多量のNFBをかけることの苦心が,大きなウエイ トをもつようになります.
すなわち,安定なNFBのために,必要とする周波数範 囲よりも,はるかに広い範囲にわたって適当な設計をしなくてはなりません.
ま た,多極管のおかげで電源部の費用を節約できたかわりに,安定で品質のよい部 品を揃えなければならないので,
そのほうに多くの費用がかかり,結局全体の費 用節約にはならないのです.
多極管のNFアンプでは,このような代償をはらう 必要があるということを忘れてはなりません.

NFBは特性の悪さを救うために かけられても効果はもちろんありますが,
特性のよいアンプにほどこしたばあいに は効果はさらに大きいものですから,安易にHi-Fiが得られるという点で, 3極管のほうが多極管よりすぐれているということができます.

たしかに多段にわたって多量のNFBをかけるのは簡単なことではありません がNFB方式には,いろいろな規模のものがあり,
小規模のNFB,たとえば1 段帰還とか・管内帰還のような局部帰還(ローカル・フィードバック)をうまく用 いると・多極管の出力段の特性を大きく改善できます.
こうすれば特性改善の出 力段を含めて,多段のNFBが,3極管のばあいと同じくらい容易になります.こ れが多重帰還(Multiple Loop Feedback略してMLF)方式の狙いであり,利点で あって,
この意味からポピュラーな管内帰還を眺めておく必要があると思います.

ウルトラ・リニア接続パワーアンプ
略してUL接続,正しくは分布負荷接続といいます.
Hafler, Keroes両氏によ って発表されたもので,そのときのアンプにつけた超直線性という肩書きか らこの名が生まれています.
すばらしい名称の割に,実体はそれほどでなく,ス クリーン・グリッドに適当な負荷インピーダンスを与えて,少量のNFBをかけ たに過ぎません.

第1-35図に示す回路は,出力管 に6L6を用いた例です.
B電源とプレート間の巻 線の44%,インピーダンス比で19.5%のタップをス クリーンに接続したものが原回路で,
このばあいの NF量は5dB弱です.その結果, rpは実効的に3 kΩ程度に低下します.
利得や非直線ひずみの低減 はNF量に等しく約半減するだけですが, rpが1/10 以下に下がるのは,きわめて好ましいことであり,
高rpによる多極管の欠陥が一挙に除かれ,良好な低域特性が期待できます.
し たがって,安定なNFアンプの設計がそれだけ容易になるといえましょう.

最大出力が,NFBなしの多極管,つまり俗にいう裸のときと同じに取り出せる かどうかは少しく疑問で,
普通のNFBならば,入力を増せば裸のばあいと同一 の出力が出せるわけですが,UL接続ではバイアス電庄を変更しない限り,大き な入力をグリッドに入れることができません.
というのは,裸のときすでに最大 グリッド入力電圧に等しくバイアス電圧をとって,最大出力を取り出せるように してあるからです.
バイアスがもとのままなら,UL接続によって最大出力は約 5dB減,1/3程度に減少してしまう勘定になりますが,原回路で裸のときと,ほ とんど変わらない最大出力が得られたと報告しているのは,スクリーン電圧をだ いぶ高くえらんだためと思われます.

3極管接続パワーアンプ(3結)
スクリーン・グリッドにかかるNFBを100%にしたものが3極管接続です.
そこで,NFBの当然の結果である,利得の減少や等価内部抵抗の低下というこ とがおこり,直線性は向上します.
しかし,本来の3極管以上に改善されること はなく,とくに能率はよくないばあいが多いのですが,それでも一部の5極管の3 結は,比較的すぐれた能率をもっているようです.
まえのUL接続と同様に NFBであっても多極管なみの最大出力はとれず,プレート損失の制限のため. 多極管のときの1/3〜1/4くらいしか出力を取り出せないといわれています.

家庭用アンプでは,能率はあまり問題にしなくてもよいので,
少し不経済なと ころをがまんすれば,中出力以上の多極管を3結にすることにより,内部抵抗, プレート電流,最大出力の点で,家庭用として手頃な3極出力管が得られます.
この種のうちには,中級の出力トランスと組み合わせて,バランスしたf特性と なるものが多いので,利用価値は少なくないでしょう.

シンダル方式とプツシュプル方式パワーアンプ
プッシュプル(PP)の出力回路が,シングル方式よりもすぐれていることに間 違いありません.
どちらをとるか決めるのは,特性の良否からでなく,必要とす る出力の大きさと経費によるべきです.
シングルは,回路が簡単で多量のNFBが 比較的容易にかけられるのが取りえで,そのかわり小出力です,
PP方式は,大 きな無ひずみ出力を取り出せますが,回路が複雑であり,そのために,どうして もNFBが多段にわたることになるので,シングルのばあいよりも,技術的にむ ずかしい点があります.

4Wを境にして,それ以下の出力でよいときはシングル,
それ以上はPP をえらぷという考え方もあるようですが,実際問題として,
シングルに向いた出 力トランスが,わりあいに入手しにくいことを考え合わせると,出力トランスの 品質と相談する必要があるといえます.
シングルで大出力を狙うばあいには, 出力管と出力トランスの組合せや回路方式について,よりいっそうの検討をしな ければなりません.

シングル方式パワーアンプの利点と欠点
利点は上に述べたとおりですが,シングルの欠点を一口でいえぱ,PP方式の 利点をもたないことだといってもよいくらいです.ただ,PPの利点という のはそれほど数多くはありません.その一つは,出力トランスの1次側を流れ るプレート電流によって,コアが磁化されるかされないかの違いがあります.も う一つは,中点タップつきの1次コイルで,逆位相の電圧を合成するか,あるい はまったくそういうことをしないかの相違だけです.

第1の相違点は,シングルはコアの直流磁化があるために,交流に対する導磁 率μが低下し,1次インダクタンスL1が減少してしまいますから, 低音特性が悪化します.同時に動作点が磁化特性の非直線部分におよ ぶために,出力波形はひずみ,偶数次高調波を発生します.

第2の相違点においては,
シングルでは逆位相の信号を出力トランスで合成す るというようなことはありません.
したがって前段で発生したひずみやハムは, 出力側に素通りしてしまうし,信号による交流電流が電源部に流れ込むので電 源部を通して,前段に帰還されモーターボーティングをおこす危険性もあります.
また,B電源のリプルはプレート回路を流れ,出力トランスを通して出力側にあ らわれ,ハムとなります.
しかし,このような現象は,もともと当然のものであ り,とくに欠点とするのは不当であるかも知れません.

PP方式パワーアンプの利点と欠点
その特徴は第1-36図に示すように,対称に接続 された一対の真空管のグリッドに,等振幅,逆位相 の電圧が加えられ,中点タップつきの出力トランス で出力が合成されるもので,
等価回路は第1-37図 のように,内部抵抗が2rpで増幅率が2μの1個の 真空管とみることができます.

シングル方式の欠点を裏返せば,PP方式の利点 となりますが,おもなものをあげると,

出力トランスでのコアの直流磁化が打ち消さ れるから,μが大きくとれ,トランスの非直線ひず みは減って,奇数次高調波が残るだけとなる.
つま り,L1の減少がないので,小形のコアを用いても, 良好な低域特性が得られます.

出力管から生じた偶数次高調波と,それにと もなう結合音が,トランスにおいて相殺されるため に,無ひずみ出力が増大します.
その理由が,第1 -38図です.奇数次高調波とそれにともなう結合音 に対しては,第1-39図に示すように打消し効果はありません,

偶数次高調による振幅ひずみがなくなるために,つぎに述べるよう なAB級, B級の動作が使えるので,
1本あたりの出力は増大して,能率 を高めることができます.

B電源にあるリプルは,出力トランスで打ち消されて,出力にあら われません.

一対の出力管のプレート電流は,等振幅,逆位相ですから,その変化分 は打ち消され,B電源に信号電流が流れ込まないので,電源電圧は変動を受けませ ん.
したがって,前段との間にデカップリング回路を必要としません.
だいたい以上のようになります.欠点としては,一対の真空管の グリッドに,等振幅,逆位相の入力電圧を与えなければならないことで

位相反転回路がどうしても必要となります.
ところで, 出力段から位相反転回路にNFBをかけると,回路の バランスを狂わせることになるので,反転回路をNFBのループ内に含め,反転 回路の前にもどすのが望ましいわけです.
このために,NFBを多段にわたってか ける結果,発振や不安定の危険性が多いことになります.
そこでPP方式を採用 し,多段のNFBに成功するには発振や不安定の防御策を十分心得てかからね ばなりません.

出力段の動作クラス
普通の電圧増幅やシングル方式の電力増幅には,A級が用いられます.
A級の 動作は,第1-40図のEg-Ip特性に示すように,グリッド入力の振幅がEg=Oか らカットオフ点の範囲内にはいっており,入力電圧の 全期間をとおし,Ipがゼロにならないのが特徴です.

カットオフ点に達するまで入力を大きくすると,前に 述ぺたように,H2の発生が多くなるので,
いくぷん ひかえ目にします.入力電圧はEg=Oを越えません から,原則としてグリッド電流Igは流れません.
Ig が流れない状態を示すのに添字1をつけ,第1-41図 のように流れる動作に対しては添字2をつけます.
そ こでIgが流れないばあいはA1級であり, Igが流 れるばあいはA2級となります.

A2級はIgのためにグリッドで入力波形がつぶ され,クリッピングをおこしますから,
普通Hi-Fi 用には,使いものにならないと思ってよいでしょ う.そこでとくにことわらない限り,A級といえ ばA1級を指します.
バイアス電圧を深くして,カットオフ点のごく 近くにえらんだとすれば,第1-42図のように,Ip はほとんど半サイクルの間しか流れません.

この 動作をB級と呼び,出力波形は半波整流のような 形となります.
このばあいも,Igの有無によって,B1級と B2級の2種に分けられます.

第1-43図に示すように,
バイアスはB級よりもさらに深く,カットオフ点以下にな っていて,Ipが半サイクルよりも短い期間しか流れない動 作を,C級といいます.

これにもC1級とC2級の2種があり,普通C級と いえばC2級を意味しています.
A2級がシングルに不適であるのと同じよう に,B級, C級もシングル方式には,無縁の動作であるといってよいでしょう.
A級とB級の中間の動作,たとえば第1-44図の位置に,バイア ス値がえらばれていると,半サイクルはIpが完全に流れますが,他の半サイク ルの一部でIpは停止します.

半サイクル以下のIp停止期間をもったものがA B級で,Igの有無でAB1級とAB2級に分けられます.
またAB級とB級は, 必ず1か2の添字をつけて,動作を明確に示さなければなりません.

A級プツシュブル ここでA級とは,A2級ではクリッピングのためにH3を多く生じますから,い うまでもなくA1級のことです.
A1級PPなら,シングル方式のときと等しいプレート電圧,スクリ ーン電圧,バイアス電圧を与えてやればよく,またプレート電流,スクリーン電流は2倍になります. プレート・プレート間の負荷抵抗はシングルの2倍にえらびます.

第1-45図の回路で,V1のIp1の変 化は第1-46図の上半部に示した形であらわされ,
V2の球のIp2の変化が下半部に示されています.
なぜ2本の球の特性をこのように組み合わせたかというと,2本の球は対 に動作をしており,そのバイアス電圧は等しく,
グリッドには等大,逆相 の入力が加えられて,おのおののIpの増減の方向が逆だからです.
2本の のIpの変化を合成すれば振幅が2倍の出力電流波形が得られ,出力はシ ングルの2倍になります.

2本使って2倍の出力を得ているのですから,1 本あたりの出力はシングルのばあいと同じであり,
能率も変わりません. しかし,PP方式の効果によって偶数次高調波が除去され,実際には大きな 無ひずみ出力をとり出すことがでぎます.
また,Eg-Ip特性曲線で,カットオフ点付近の湾曲部は, H2が急増するので, シングルでは使えなかった部分ですが,
PPでは第1-47図のようにカットオフ 点に達するまで,入力電圧を大きくできますから,このことからも出力はさらに 増大することになります.

この図の状態は,これよりもバイア スを深くするとIp=Oのときができてしまい,AB級となるので, A級とし ては限界の動作です.
A級は他の動作にくらべてひずみがもっとも少なく, Ipの停止期間がなく,
Ipは常時一定のため,電源が簡単なものでもよいの で,アンプの出力や能率が小さくてもよいばあいは,A級で働らかせるのが 望ましいのです.

AB1級プッシュプル
A級よりもバイアスを深くとってあ るので,第1-44図のように,入力電圧の山のいっぽうがカットオフ点をこし, 出力波形はいっぽうの山がつぶれて,H2を多量に含んだ形となります.
もちろ ん,このようなものをシングルで使うことはできないので,PP方式に用いるこ とになります.
第1-38図のIp-t特性でみられるとおり,2本の球が等しけれ ば,おのおのの球から発生する第2高調波成分は,振幅が等しく位相が逆なので, 合成すればたがいに打ち消しあいます.
同様にして,偶数次高調波とそれにとも なう結合音は,すべて消失してしまいますが,
奇数次高調波成分は同相であるた めに,残存してしまいます. このばあい,A級に比較してバイアスが深いため,無信号時のIpが少なく, 消費電力が減るので,能率が高められます.

1サイクル中にIpの停止期間があ ることは,プレート損失を減少させることになります.
したがって,プレート電圧 を高めることができ,その結果同一の出力管を用いても,有効動作範囲が広げ られ,出力の増大が可能となります.
しかし大出力を出せる反面,第1-44図からわかるように, Ipの停止期間があ り,2本の球のIpの和は時々刻々変化し, Ipは出力の犬きさによっても違い ます.
またB電源電圧は変動を受けやすいので,電源インピーダンスの低いもの でないと,最大出力が低下します.
AB1級でセルフバイアス方式を用います と,Ipの増大によってバイアスが深くなり, Ipの増大を抑止するように働くため, これも出力を減少させることになります.

AB2級およびB級プッシュプル
出力と能率はA級,AB級, B級の順序で増大しますが,ひずみもこの順序で 悪化します.
グリッド電流Igを流すAB2級やB2級は,出力管の励振段の設計 製作が容易でありませんし,電源部もむずかしくなりますので,ひずみの点だけ でも,Hi-Fi用には不適当なものです.
一部優秀な大出力管があり,大出力 が欲しければ,これらの球をAB1級で動作させればよいわけです.

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