赤と、白と、黒。
どちらが好きかと訊かれ――

悩んだ後、白。

特に理由はない。
ただ、ショートケーキを食べていたからとは、とても言えない。


なぜかワクワクした顔のJr.の突如沈んだ顔に、眉をひそめただった。


唐突に訊かれて、しかも三択で。
だって。好きなのはだから。





■ しろがね







「え〜と。あと、買い残しないかな?」


紙袋の中をごそごそとのぞき、メモと比べて、確認する。


「あ。買い残し、めっけ」


最重要のもの。
KOS-MOSに食べさせるためのもの。
シオンたちと食べていたショートケーキを、不思議そうに見つめて、


「どんなものなのですか?」


うれしかった。
なにかに興味を持ってくれたことが。

残念なことに、食べ終わったあとに言われてしまい、分けてあげることが出来なかったため、買出しついでにケーキ屋さんに寄り道しようと思っていたのだ。
デュランダル内部でも別段不便もなかったが、やはり外に出たかった。


(それに、改造関係のパーツを購入しただなんて先輩に知られたら、それこそ部屋の外側から鎖で出入りを規制されちゃう)


いつも、何かと目を光らせられているようなシオンの眼鏡に、苦笑する。
だから。息抜きもかねての買出し。


ひとりで行動するのは、久しぶりのような感じがする。
割と人懐っこいは、デュランダルで知らない人はいないほど、会話をしていた。
それは、百式にしたってそう。
ちょっとしたクセや姿で、見分けて。
誰一人、同一視したりしない。
だからか。みんなに好かれている。


「この辺だったかな。ガイナンさんオススメのケーキ屋さん」


人気のお店! というわけでもないらしいが、知る人ぞ知る店らしい。


「たしかに、一般受けするような場所に立ってはいないわね」


看板で確認し、が苦笑した。
裏小路に入った場所。
まさに、知る人ぞ知る。


「やっていけるのかしら?」


小ぢんまりとした店内に入り、目的のものを購入。
店主は、人のよさそうなおじいさんだった。


「職人さんぽかったな〜」


種類は多いほうではなかったが、思わず自分の分も買ってしまったほど、おいしそうなデコレーションだった。


「ありがとうございました」


背中から聞こえた店主の声に、ペコリとお辞儀し――


「おっと……?」


目の前を通った小さな子供に、危なく激突するところだった。

銀の髪に、褐色の肌。
少女は、そっとを見つめてきた。


「わ。お人形さんみたい……」

どことなく、モモに似ていると思った。


「ここのケーキ屋さんに御用時?」

ふるふると首を振る。


「この先にお家?」

これまた首を振られて肯定された。


「……じゃあ……迷子…………?」

反応なし。


本人も、よくわかっていないらしい。
こんな裏小路に、他に用事もないだろう。

迷子に決定。


「じゃあ。お母さん、捜そっか」


苦笑して、少女の手を握った。


「お名前は?」
「…………」

「じゃあ、どっちから来たの?」
「…………」

「…………」
「…………」

(困った。お話できなそうな感じではないんだけど……)


沈黙が、イヤ。


(心細いのかも。しかも、初対面だし、話もしづらいのかな?)


立ち止まったに、少女も立ち止まる。
ゆっくりと、少女が見上げた先に――


「お嬢ちゃん。ケーキでも食べない?
あ。大丈夫。怪しくない、怪しくない。
さっきぶつかりそうになったお店で買ったケーキだよ。
裏もなにもないから安心してよ。ほら、あそこにベンチがあるから、一休みしよう?
待っている間、お母さん、探しに来てくれるかもよ?」


ケーキの入った箱を、少女の前にぶらさげ、微笑む。


(弁解するような会話、かえって怪しかったかしら……?)


胸中では、反省。
それでも、手を引く先に黙って着いて歩いてくれる少女に、ほっと胸をなでおろした。
かばんに入っていたウェットティッシュで手を拭き、自分用に買ったケーキを渡す。
不思議そうにケーキを見つめる少女。

「ショートケーキは嫌い?」
「…………」

首をかしげる。


「食べ物、食べ物」

はじめて見たのかと、少し不安になったは説明した。
じっと、ケーキを見つめていた少女は――
ぺろりと、なめるようにくちびるを近づけた。
動きが、止まる。


「おいし?」

こくん、とうなずく。


(か〜わ〜い〜い〜!)

思わず、手を組んで喜んでしまう。

(KOS-MOSに渡して、こんな反応を得られるかどうか謎だけど……
いや、KOS-MOS自体に可愛さを求めるのもどうかしてた)

視線を外し、自分自身の考えに苦笑した。
となりでは、少しずつケーキを食べ始める少女。

乱れた髪を、そっと耳にかけてやる。
ビクッと身を震わして、を見つめてきたが。
ん? と、微笑みかけてやると、やがて無表情に食べ始めた。

「……さてと。お母さん、どこかな〜?」


Jr.に調べてもらえば早いだろうか?
それとも、デュランダルに連れて行くことこそ、誘拐に近い行為だろうか?

悩む。

食べ終えたゴミをゴミ箱に捨て、口についたクリームを拭いてやっていると――
少女に、反応があった。
の後ろ。


「お母さん?」


振り返って――
見えたのは、足。


「キルシュヴァッサー……こんなところにいたのか」


声に、ゆっくりと見上げる。


「お母さんですか?」
「そう見えるか?」

「見えないですね」


笑い、立ち上がる。

ガイナンに似た容貌の青年。
だが。違う。髪の色が白いことではない。
まとう雰囲気が、狂気に近い。


「お父さん」


ピッと、人差し指を立てる。


「お前、バカだろう?」

「バカじゃないですよ。
そうじゃなくて! 違うでしょ!?
娘さん、一人ぼっちだったんですよ?
最初に、優しい言葉の一言もかけてあげなくちゃ!」


だが、その雰囲気も、にかかればあまり関係ないらしい。
あたりの通行人が遠巻きに離れていくが、彼女だけはずずいっと逆に近づいていく。


「誰が娘だ……?」


言われ、さっとキルシュヴァッサーと呼ばれた少女を前へ押し出す。


「やはり、バカだな。百式だぞ、それは」

「あ、さらにバカにしましたね。わかってますよ、そんなこと。
だけど、それこそ、こちらの勝手じゃないですか。娘にしようと、息子にしようと」

「息子……」
「言葉のアヤです」


キパッと、言い返す。

さすがの『彼』も、眉根にしわを寄せた。
ため息をつく。

「もう、いい。どこかへ行け」

追い払うように、手でジェスチャーされる。


「キルシュヴァッサー、行くぞ」

声に、キルシュヴァッサーはから離れた。

が、途中で立ち止まり、振り返る。
別段、青年に言われたことを気にもしていなかったは、手を振って見送っていたのだが。
少女にペコリとお辞儀をされ、驚いた。
ケーキの礼だろう。
立ち止まったキルシュヴァッサーに不思議に思い振り返った青年が、その瞬間を見た。


優しく微笑む、の顔を――


声をかける間もなく、荷物を持って、は反対側の方向へ駆けていった。
手にしたU.M.N.を見、あわてている。
急に鳴ったそれのメール送信者は、Jr.。
そして、文字だけでもわかる、シオンの怒りのラブメール。
黙って出かけたのがバレたらしい。


「うっは〜んっ、時間、見誤っちゃった〜!」


遠くで、の嘆きの叫びがこだまする。


「……チッ」


小さく舌打ちする――アルベド。
さらっていこうかと思ったが、間に合わなかった。

見上げるキルシュヴァッサーにも気づかず、アルベドはの消えていった建物の角を見つめ続けた。
名前も、どこの誰かも聞かなかった。


また会えたとき――


「行くぞ」


マントが、ふわりと舞った。
そのあとを、キルシュヴァッサーがついていく。


そのときは、必ず――





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後書きという名の言い訳

ナゼ街に現われたかと申しますと、モモちゃん拉致ろうとしたんですが、毒気抜かれて退散。
キルシュも迷子になるしね。
冒頭の、赤・白・黒の好みは、Jr.なりに、色だけでも優劣つけたかったようです、残りの二人に。
といいますか、補足説明しないとわからない夢って、ありですか?