酷く………寒い

フルリと身体を震わせると同時に意識が一気に浮上する。

「・・・・・・はぁ、駄目だ」

何度か寝返りをうつと溜息を付きながら身体を起こす

・・・・は、ふいにこうして眠れない日がある、それは・・・

もう下手をしたら二度と元の世界に帰れないという不安からなのか、それともいつグノーシス達に襲撃されるか…定かではないがその焦りや恐怖のせいだろうかと苦悩する

・・・どちにらせよ、いくらそんな事を考えてもどうしようもない・・頭では解っていても、割り切れない。

そんなジレンマにさい悩まされる

汗ばんだ身体をすっきりさせようとシャワーを浴びると

寝るのは諦めて…少々残る眠気覚ましにデュランダル艦内を見て回る事にした





「うーん、さすがにこの時間は誰もうろついてないわね」

きょろきょろと物珍しそうに歩き回り、たまにすれ違う警備の人に見つからないようにしながら暫く歩いていると向こうから黒い長身の男の人の姿が

彼はクーカイ・ファウンデーションの理事を務める、確か・・・



『ガイナン・クーカイ』



「おや…」

「・・あ」

向こうが少し先にの姿を確認すると爽やかに笑いかける、ではなく

「こんな時間に君のような女性が一人歩きとは余り感心しないな」

目を細めながら直ぐ目の前まで来ると苦笑される

「ごめんなさい、ガイナンさん…」

こうして直接話すのは、シオン達と共に自己紹介をしたほんの一瞬

多分向こうは覚えてないだろうけど・・と思いながら素直に頭を下げうな垂れる

彼は名を呼ばれ、目を見開いてる・・・・。

あぁ・・・やっぱり覚えてくれなかったかぁ

何だか無性にガッカリしてしまう、が本人にその自覚はなく何故こんなに胸が痛むのだろうかと思う程度だった

・・・が、直ぐに思いも寄らない言葉が

「私の事を覚えてくれてたんだね…光栄だな、さん」

「・・・え?」

今度は此方が驚く番、だって・・本当にちょっとしか

「私は一度会う人間(ヒト)の事は忘れない性質(タチ)なんでね。それに・・・特に気になる相手はね」

にっこりと口の端を挙げ笑いかけてくる

「そう、なんですか…あ、ありがとうございます」

何となくお礼が言いたくなってぺこりと頭を下げてしまう

「いやいや別に礼を言われる事はしてないですよ…」

出来れば特に、辺りの事について聞いて欲しかったのだがな…と内心苦笑を浮かべ

「で、どうして君はこんな時間に艦内をうろついてるんだい?」

そう問われるとは途端に眉を寄せ歯切れの悪そうに

「その、子供みたいな話ですけど・・単に、こう寝付けなくって。今日だけじゃないんですけど・・・部屋でじっとしてるよりは気晴らしになるかなって」

困ったように力なく笑っていると

「それは・・・いけないな。何か気にかかる事でもあるのかな?私で良ければ話になるが」

の態度に何かあるとすぐに解ると、顎に手を置きながら声色を低くしながら身を案ずる

「あ、いいえっガイナンさん忙しいだろうし、それに私みたいな人相手にしてたらきりがないですし大変ですよ!!」

慌てて首を横にふるが頑としていいとは言ってくれずガイナンは続けて

「そう言われても此処で君と私が会えたのも何かの縁だ、何か悩みのある女性を放って置けるほど私は非情ではないよ」

ぽん、と両肩に手を置かれながら

「それにさっきも言ったが…私は君に興味があるんだ。自分の事は心配しなくていいから、何か力になれないかい?」

「え・・・・あ・・・あの、はい」

思わず・・・はい、と言っちゃった

彼はとても満面に笑い

「それじゃ、立ち話もなんだし…場所を変えましょうか。私の部屋でも構わないかな?」

「はい・・」

もう考える間もなく話しが進んでいる。

というか、私さっき・・ガイナンさんに凄い事言われたような・・興味って

ぐるぐる頭にその言葉が回ったままされるがままでいつの間にか彼の自室に到着

「さぁ、飲み物を入れるからそこのソファで寛いでて下さいね」

「・・・あの、ガイナンさん、本当にお邪魔しても良かったんですか?何時も大変そうなのに・・それに、部屋に入らせて貰って」

「君は、優しい人だね……」

紅茶の入ったカップを渡しながら喉で笑う

「そんな事、ないです・・・」

受け取り小さく頭を下げると鼻腔をくすぐる甘い香りに一口カップに口を付ける

「・・美味しい」

「それは良かった」

一息付いて自然と出たの笑みに、眩しそうに目を細めながら

「君は優しいよ、人の痛みも解る人だ…それはとっても当たり前の事で難しい事だからね」

まるで子供にするかのようにぽんぽんと何度も頭を撫でられる

「もう、解りましたから・・それに私、子供じゃないんですよ、一応これでも?」

むー、と上目遣いでたしなむと大げさに両手を上げて

「それは失礼しましたお嬢さん。でも子供扱いなんてしてませんよ」

「なら、許します」

えへんと腰に手を当てて見せると

「それは、何よりです・・・くく」

二人揃ってぷっと吹き出し笑いあう

とても穏やかで優しい時間――――でも

「ごめんなさい、折角来たばかりだけどやっぱり私失礼しますね」

「・・本当に急だな、何か気に障ることでもしたかな私は?」

眉を寄せ肩をすくめまだ本題にうつっていないのにと苦笑する

「違うんです、むしろその逆でとっても楽しくて、元気がでました!!だからもう、その話しはいいんです、大丈夫だから私!」

上手く伝えるのにはどうしていいか解らなくて、ついガイナンの手を両手で掴んでしまう

少し驚いていたけど、すぐに優しい顔つきになってその手を包み込んでくれて

「お役に立てたのなら何より、私こそ久しぶりの有意義な時間が持てて楽しかったよ」

「本当ですか?そう言われると嬉しい、な・・・あ、あの」

「ん、何かな?」

「その・・もし良かったらでいいんですけど、また…此処に遊びに来てもいいですか?」

遠慮がちにおずおずと口を開くと首を縦に振りながらにっこりと

「あぁ、君さえ良ければ何時でもおいで…私もその代わり君の所にお邪魔するよ」

「はい!!それじゃあまた・・・・ガイナンさん、お休みなさい。」

「お休み、送らなくても平気かな」

一緒に外に出ようとするのを止めて

「そこまで迷惑かけれませんよぉ、それに私、道に迷ったりとかもしませんし」

「そうか・・それじゃあお休みさん」

変な輩に会わないといいが、まぁ・・艦内の中なら、大丈夫、か・・・と思いをはせられているとも露知らず

「お休みなさいガイナンさん!!」

パタパタと走り去ってしまう・・・遠のく彼女に笑顔で最後まで手を振り見届けると

「・・さ、てと・・・・お近づきにもなったし。収穫、かな?」

と、妖しく微笑みながら部屋に戻るガイナン氏であった―――

まだ、恋が生まれ始めたばかりの、そんなお話し。




あとがき

色々とガイナン氏が似非ですみません!!
さり気にアピールして抜け目ないし、部屋にお邪魔するよってちょっと強引なとことかもう・・・(…)
色々すみませんごめんなさい