「成年後見制度」を考え始めよう

その1

はじめに

 相談のなかには、人と人との関係から派生する問題が一番多いものです。多くの人を悩ませる「もの盗られ」妄想や、更には現金や通帳などの処理に関わる問題が発生します。お金はご本人の生活を支える基本ですから、きちんと処理したいものです。
 家族の会の電話相談でも重要な相談です。電話相談員の研修でもこの問題を取り上げて、研修会を開き勉強しています。しかしながらこの問題は専門的な知識・技術が必要ですので最終的には専門機関への相談が大切です。

症状の進行とともに

 認知症の症状の進行とともに、必ず出てくるのがご本人の判断能力の低下によるサービス利用の金銭的処理や日常の不安が出てきます。特に一人暮らしや二人暮らしでは、それらが顕著な問題となってきます。
 こうした段階から後見制度を考える必要が出てきます。後見制度には、法定後見制度と任意後見制度の2つがあります。本人がまだ判断能力がある、はじめの段階に特定者に代理権を与える任意後見と、判断能力が不十分な本人について、本人や家族の申し立てにより成年後見人を認定する法定後見です。

専門機関をもっと「利用」しよう

 社会福祉は、措置の時代から「契約することにより利用する制度」に変わったことを知るべきです。「利用者が自分で決定し、自分で選んで」福祉サービスを利用するということです。簡単に言えば、待っていては何の解決にもなりません。自らが解決していこうという意思を持つことが大切です。
 行政や福祉には、それに対応するサービスが増えてきました。地域包括支援センター(高齢者安心支援センター)や社会福祉協議会にまず足を運んでみてください。課題を抱えたら、それをどのように解決していくかを相談してみてください。そこで直ちに解決することができなくても道筋を見つけることができるはずです。

成年後見制度の相談窓口

 公的機関の窓口に各種の福祉サービスのパンフレットが備えてありますが、成年後見制度のパンフレットもあります。下記の相談窓口の詳細を知ることができます。

「地域包括支援センター」「社会福祉協議会」・・・・・・・・・各市町村
  ※認知症のことも含めて最も身近なアドバイスをいただけます

「成年後見センター」・・・・・・・松江・出雲・石見(浜田)・益田鹿足
  ※社会福祉士・司法書士・弁護士・精神科医などによって組織されています

「県弁護士会」「成年後見センター(リーガルサポートしまね支部)」
  ※弁護士によるサポートを得ることができます。

「家庭裁判所」・・・・・・・松江・雲南・出雲・浜田・川本・益田・西郷

その2

制度を利用しなければいけないと思ったとき

 成年後見制度は介護保険制度と同時に誕生しました。判断能力の不十分な高齢者に、家庭裁判所が後見人(本人の状態に応じて、補助・保佐・後見の3類型がある)を任命し、財産管理や身上看護をするための制度をいう。来年度から成年後見制度の広がりを求めて、一般市民に研修を受けさせ市民成年後見人制度を進めようと計画されています。

 私の周りは認知症の方がほとんどで、自分で財産管理ができにくくなっています。通所のAさんの場合、独居で今まで何でも一人でやってきたので、他人に通帳を預けることなど考えもありません。物忘れのために支払いができない、郵送の大事な書類をしまい込む、使途不明金がある。しかし、支払いの催促には「もう払ったのに何回もお金を取り立てにきて」と嫌悪感をあらわにします。

 反対に収入については「払ってもらってない」と矢の催促です。認知症の特徴だからと理解してくれる方はほとんどいません。周りの人には、あの人は変人だと思われているかもしれません。毎日、通帳を鞄から出して日時と金額を確認します。そして職員に「通帳の残高を確認しないと。残高記入に銀行へ行きたい」と連発するのです。

 上記のような状況だからこそ、成年後見人がつかないとAさんも周囲も困ると、申し立てを行いました。もちろんAさんはそのとき、きちんと「みんなに私のことをこんなに心配してもらって嬉しい」と、とても喜んで押印しました。しかし、「さっき来た人は誰?」「何か私が悪いことをした? だからたくさんの人が来たの?」と混乱し、しばらくの間エコーのように思い出し、職員を困らせました。

 そして「保佐」と決まり動き出そうとしている。毎日通帳を確認する作業は変わらず、まだまだ預けてくれそうもない。どのように話をしたらうまくいくのか、溜まった支払いや今後の契約等にも困っています。現在、せっかく通所に馴れて朝昼夕の3食も食べ、清潔も保たれるようになったのに、通帳の肩書きが変わったり穴あきの通帳になったりなど強硬手段をとると、通所もできなくなる可能性はとても大きいと思われます。その都度忘れる独居の認知症の人の成年後見制度はどのように進めれば混乱なくできるでしょうか。市民後見などは物盗られ妄想を助長するようなものでとんでもないように思うのですが、今、私たちは振り回されています。