コーヒーを飲む以外に特にすることも無く、しばしの時間が流れた。
「そうなんだよなあ。」
「なに?」
「昨日はここに三年前のおまえが居たんだよな。」
「そうだね。」
「ねえあたしきれいになったでしょ。」
「うん。うんっ。」
「ありがと。三年前のあたしもかわいいよ。」
「そうか、まだ昨日のことなんだよね。なんだかすごく前のような気もするな。」
「三年前くらいか?」
「もう茶化さないでよ。これでも感慨にふけっているんだから。」
「感慨にねえ。」
大地は少し吹き出して笑った。
「いいんじゃないか。あんな経験なかなかできるもんじゃないぞ。」
「そうだね。」
姫ちゃんは大地に笑みを返した。
不思議なことそれはいつもこの二人、姫ちゃんと、大地の二人と一緒にあったのだ。
五年前のあの日鏡に映したかのような女の子に、真っ赤なリボンをもらったときから。
その日から、毎日は不思議なことと、大騒動でいっぱいになった。(最も騒動のほとんどは、姫ちゃん自身が引き起こしたものなのだが。)
つらいこともいっぱい、楽しいこともいっぱい。そのすべてを、親友のポコ太とエリカ、そして大地と乗り越えてきたのだ。
そして自分は、恋にあこがれるだけの少女から成長し、たった一人の本当に大切な人を見つけ、一緒に歩いていけるようになった。
「何しまりの無い顔してるんだよ。」
だ大切いなち人が意地悪そうな顔をしてこちらを見ている。
(うぅ。そんなにしまりの無い顔していたかなあ。ショック。)
でも、
(でもあんな言い方しなくてもいいんじゃない。そっちがその気なら私が今なんて考えているか教えてあげないんだから。)
姫ちゃんは自分の考えたささやかで可愛い仕返しに、満足して、機嫌も直ってしまった。
「何なんだいったい。」
大地も、そのいぶかしげな言葉とは裏腹に、瞳には笑みをたたえている。
大地にしても姫ちゃんが誰よりも大切な人であることには違いないのだ。