魔法界次期女王エリカの執務室。
「あら。」
エリカは、ドアの外に立つ人の気配にペンを走らせる手を止め、顔を上げた。
「お入りなさい。」
「失礼しますサッサ。」
促され、長い黒髪を腰のあたりまで伸ばした美しい女性が、執務室に入ってきた。
人間の目には分かり難いことでは、あるが、彼女はエリカの最も古く、信頼を置かれているファミリア使い魔である。
「エリカさま。実はサッサ……。」
エリカの耳に口を近づけると、何事か告げた。
「………。」
「……そう。」
エリカの重々しい表情が、ことの深刻さを物語っていた。
イタリア製の赤いスポーツカーが風立から市外に向かって、猛スピードで走っていく。
しかし、歩行者も、対向車線を走っている乗用車ももはや、このスポーツカーに頓着していない。
やがて、スポーツカーは、走行音も消えその姿も消え、二度と現れることは無かった。
あなたには、もはやハンドルを握る感覚さえ失せた、ドライバーのこの世ならざる悲鳴が聞こえたであろうか。
END