「それにしてもさあ。」
 「なんだよ。」
 「三年前の私、可愛かったと思わない?」
 「そうだなあ。」
 大地は、空になったカップを手でもてあそびながら答えた。
 「ばっちり決まったショートカットが……、」
 「ショートカットが?」
 姫ちゃんはソファーから身を乗り出した。
 「少年みたいだった。」
 ずっこけるひめちゃん。
 「ちょっと。冗談はよしてよね。どこの世界にあんなに可愛い少年がいるっているのよ。」
 「まあ。なかなかの美少年だったということで。」
 「フォローになってなあい。」
姫ちゃんは、荒げた息を整える。
 「それじゃあさ。髪が伸びた今はどうなの。ひょっとして惚れ直した?」
 少しいたずらっぽく聞く。
 「そうだなあ。」
 大地は、すっと手を伸ばすと、肩のあたりまで伸びた姫ちゃんの髪を指に絡ませた。
 どきん
 鼓動がひときわ大きく打つ。
 大地の瞳は姫ちゃんを正面から捕らえて話さない。
 互いの顔が近づいていく。
 二人の瞳は閉じられて、
 姫ちゃんは質問の答えを知った。

 「大地のスケベ。」
 姫ちゃんの低い声に、
 「し、失敬な。」
 大地は少々うろたえ気味。目は、天井のほうを泳いでいる。
 「うふふっ。」
 姫ちゃんはすこぶるご機嫌のようだ。
 「ああ。三年前のあたしは、大地と今こうしているなんて知らないんだなあ。」
 「知らなくていいじゃないか。未来はわからないから面白いんだぜ。」
 「そうだね。本当にそうだね。」
 「でも、補修を受けて遅刻して学校から直接ここに来たせいで、風立中央に通っていることはばれちゃったけどな。」
 「し、失敬な。」
 こうして二人の時間は、優しく流れていた。
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