ある日のHONKY TONKの昼下がり。
今日もいつもの様に、だべっている二人組がいる。
客ではない。
金も払わないような奴らは客とは認めん。
だから極力、無視を決め込む事にしている…
それでも奴らは年がら年中やって来る。
最近はあきらめた。俺も丸くなったもんだ。
奴等は金が無い。何時も金欠病という難病に侵されている。
ここは喫茶店だというのに!水ばかり頼みやがる…
そんな奴らを見ていい加減にビラでも撒いてこい!ここで喋っているよりは建設的だ。
そう思っても口にはしない。
(厄介事はご免だからな…)
この店のマスターである波児は、見て見ぬ振りを決め込む事にした。
「あー…腹減った…。」
「だからッ!あの時、変な意地張らなきゃ…」
ゴチ
鈍い音が平和な喫茶店内に響く。止めてくれ、蛮。
ここは暴力喫茶じゃない。
今更ながらの言葉が咽喉から飛び出すのを飲み込む。
本当に今更の話だからだ。
『奪還屋に運び屋、仲介屋』
そんな人種ばかり集まる喫茶店を普通の喫茶店とは言わない事はもう十分、
承知している。不承不承ではあるが…
「…ッッ。いった〜ッ!!ひどいよー蛮ちゃん…」
たれ銀、発動中だ。
大きくなったり小さくなったり何時もながら器用なもんだ。
そう思いながら皿を磨きつつ、チロリと覗き見る。
(質量保存の法則って言葉、知ってるか?銀次…)
まあ、身体の中にメスを隠し持ったり、七人で一人だったり、虫だったりする人達もいるからな。
そう自分の良識(蛮なら「あったのか!?」と言う所だろう)を慰める。
「ぎーんーじィ……この前、教えたろ?」
「??何だっけ…」
「このニワトリ頭ッ!」
「…俺の頭にトサカは無いケド?」
そんなとこもお前のチャームポイントだ、銀次。
そうとでも思わないとやっていけない。
「ちゃんと教えたろうが!日本に古来から伝わる、ありがたいお言葉を!!」
お前、いつから銀次の先生になったんだ?蛮。
相棒から保護者、その上に教師役とはな…面倒見のいい事だな。
以前のお前なら頼まれてもやらなかったろうに…
そう感慨深く思っていると、ギラリと殺気だった視線を向けられるのを感じた。
素知らぬふりで皿を磨き倒す。もうピカピカで顔も映りそうな勢いだ。
フンと鼻息を吐いてから蛮は銀次の方に向き直り…厳かな調子で宣言する。
「武士は喰わねど…高床式!!思い出したかッ!銀次。」
俺は皿を割らないように、細心の注意を払わねばならなかった。
「……それはどこの国の建築様式だ…?…蛮……」
脱力しそうになる身体を必死に支える。頑張れ、俺。
ここで負けるな!
「それをいうなら、高楊枝だろうが…」
帰国子女のせいか、いくら営々と連なる魔女の叡智を受け継ぐ男でも諺には疎かった…
らしい。そう思いながら冷静にツッコミを入れる。
「うるせーぞ!波児ッッ!!いいんだよ、何でも。まあ…あれだ!要は心意気!?
ッて事だ。分かったか銀次?」
蛮…きっと日本産まれで、日本育ちの純国産の元雷帝様は解かってないと思うぞ……
先生役のお前でその程度の知識なら…しかしそんな事は言わない。
言っていい事と悪い事を判断するのもいいマスターの条件だ。
俺たちの遣り取りを黙って聞いていた銀次はさも解かったかの様に、笑顔で頷いた。
向日葵のような笑顔ってのは本当に有るんだなぁと見惚れた。
そして銀次は嬉しそうに蛮に言った。
「うん!解かったよ、蛮ちゃん!!鰹節は大切に喰えって…」
銀次が全部を言い終わる前に、俺と蛮は仲良く叫んだ。
「違うッッ!!!」
世は事もなし…だ。
くだらない話でゴメンナサイ…蛮銀の日常のダラダラした話、好きなんです(^^;