実は、日本国内で自分が何種類の蝶を採集したかを数える場合、困ったことが起こります。
いや、自分で密かにカウントし、その数を自分の胸の内にしまっているあいだは、別にどうということはな
いのですが、某島の某邸とかで、夜に蝶屋さんが何人か集まって、談笑なんぞをしていると、
「それにしても、あの表に、お名前のある方は、皆さんすごいですね〜」
「ホント、えらいもんですわ」
「ところで、あの2××種の中に、ホソオチョウは含むのですかね?」
「さぁ、どうなんでしょうか?人によって数え方がちがいますからねぇ〜」
「そうですよね、カラスアゲハなんかも、どう数えるかよく判りませんもの…」
「この表の横に、数え方のルールを書いておかないといけませんなぁ」
というような会話が始まります。
即ち次の二つ、
“ホソオチョウ”のように、意図的な持ち込み種は、たとえ採っていたとしても、日本国内産蝶類とし
て自己採集種類の1種とは認めないという考え方がある。
“カラスアゲハ”を1種とするのか、それとも3種と考えるのか?というように、人によって国内産蝶
類の『種』の捉え方が違う。
との理由から、日本国内で採集可能な蝶について、その取り扱い方が人によってそれぞれ異なってくる
訳です。
極端に言えば、「蝶屋さんが10人集まれば、10通りの数え方がある」というのが現状です。
そこで、基本となる日本国内産蝶類の『種』というものを、私自身がどのようにして取り扱っているのか、
ここに明らかにしておこうと思います。
以下、その取り扱い方に問題のある種を具体的に挙げ、それぞれについて『私の考え』を書いておきます。
バナナセセリ
沖縄本島産は不作意の人為による持込み。与那国産、石垣産(採れたらしい)は飛来?ですが、私は1種とし
て勘定します。因みに私は沖縄本島でのみ採集済みです。
カラフトセセリ
不作意の人為による持込みなので、もちろん私は1種として勘定します。因みに私は未採集です。
ホソオチョウ
意図的な人為による持込みなのでしょうが、これも1種として勘定します。因みに私は京都府の木津川堤防
で採集済みです。
キシタアゲハ
噂はイロイロとあります。
意図的な人為による持込みを疑わせる事象があったという話を、信頼できる筋から知り得たこともあ
ります。
しかし「飛来」を完全に否定することもできません。いや、あったんじゃないかな?という気もします。
あっ、いかんいかん!ここは放蝶か自然飛来かを詮索するページではなかった。
まっ、本当の事は、「わかりません」ということで…。
そんなことは関係なしに、どちらの場合でも、私の勘定方法では1種とすることで、何ら問題はありませ
ん。
ホント、採りたかったな…。
カラスアゲハ
これにつては、色々とご意見もございましょうが、カラスアゲハ(P.dehaanii)、オキナワカラスアゲハ
(P.okinawensis)、ヤエヤマカラスアゲハ(P.junia)の3種として勘定します。因みに私は3種共採集済み
です。
キチョウ
未だ学名や正式な和名はありませんが、キタキチョウ、ミナミキチョウの2種とします。
これについてはご批判もございましょうが、私的楽しみとしてやっていることなので、寛大にみてやって
ください。因みに私は2種共採集済みです。
同定は、蝶研フィールド Vol.15 No.10 (172) Oct.2000 p.11〜17 松野 広『2系統“キチョウ”の形態的
差異について』を参考にしました。
余談ですが、2003年10月13日、石垣島の嵩田於茂登林道でのことです。ミナミキチョウの3個体がゼフのよう
に地上約10mの樹冠付近で巴飛翔するのを観察しました。このとき、本土のキチョウとは別種であるという
意識が既に頭の中にあり、そのつもりで注視した結果、意外な光景だったので、強く印象に残っています。
ウスキシロチョウ
昔はギンモンウスキチョウとムモンウスキチョウの2種に分けられていましたが、この両種は同一種の
異なる表現型だったということで決着がついています。従ってウスキシロチョウとして1種です。
スジグロシロチョウ
これは、スジグロシロチョウ(A.melete)、ヤマトスジグロシロチョウ(A.nesis)、エゾスジグロシロチョウ
(A.dulcinea)の3種として勘定します。私が採集しているのは、スジグロシロチョウ(A.melete)とヤマトスジ
グロシロチョウ(A.nesis)の2種ということになります。
アカシジミ
アカシジミとキタアカシジミ(カシワアカシジミ)に分けることについては、すでに異論のないところで
しょう。私はどちらも採集済みです。
ところで、キタアカシジミ(カシワアカシジミ)は東北以北亜種Japonica onoi onoiと中国地方亜種
Japonica onoi mizobeiの2亜種に分かれていますが、これってホントに
亜種程度の違いなのでしょうか?
実は、『種』が違うと言ってもよい程の差異があるに、Japonica onoi mizobeiを保護する為に敢えて
2亜種としているような気がするのですが…。
アサマシジミ
イシダ、イブリ、トガクシ、ミョウコウ、ハクサン、ヤリガタケ、そして真性アサマと会話等では区別して楽し
んでいますが、やっぱりこれはアサマシジミとして1種ですね。
ニセミナミコモンマダラ
一時、ミナミコモンマダラに本種が含まれるのではないかと話題になりました。はっきり言って私程度の実
力では、「よく判りません」というのが正直なところです。
けど、「種類はできるだけ多い方が楽しいやん♪」ということで、ミナミコモンマダラ(因みにこっちは採集
済み)とニセミナミコモンマダラ(採りたいなッ)はそれぞれ別種としています。
ウラギンヒョウモン
話のややこしいのがこれ。
2004年3月15日発行の蝶類DNA研究会ニュースレターNo.12 p.26〜32 新川 勉・延 栄一・石川 統『遺伝子
が証すウラギンヒョウモン類の系統』の論文を読むと、日本産は3種に分かれるそうです。
私はこの論文通りに従来ウラギンヒョウモンと呼んでいたものを3種に分けて勘定することにしました。
この3種の中で、今のところ和名と学名がはっきりしているのは、エゾウラギンヒョウモンFabriciana
niobe tsubouchii(本種をエゾウラギンヒョモンと呼ぶことが妥当か?という問題もあるそうなのです
が…)だけで、従来ウラギンヒョウモンと呼んでいたものは、あとサトウラギンヒョウモンとヤマウラギン
ヒョウモン(どちらも正式な和名ではありません)に分けられるそうです。
ということなので、私はヤマウラギンヒョウモンとサトウラギンヒョウモンの2種を採集していることに
なります。(同定はどうしたの?と深くつっ込まないで…。正直よく判らんのですが、翅の形と採集場所から
区別しました。)
アカボシゴマダラ
奄美群島で採集すれば、文句なく1種。
神奈川県のは意図的な人為による持込みだけれども1種とします。でないとホソオチョウを勘定に入れて
いる私の立場が・・・。
ウラナミジャノメ
対馬産を別種としていた時期がありましたが、現在では本土亜種(Y.multistriata niphonica)と
対馬亜種(Y.multistriata tsushimana)の2亜種に分けるということで決着しているようなので、
ウラナミジャノメとして1種。
タカネヒカゲ
困るのがコレ。
何がかと言うと、八ヶ岳産と北アルプス産の取り扱いです。
本種の分類は、タカネヒカゲとして1種であり、北アルプス産をOeneis norna asamana、八ケ岳産を
Oeneis norna sugitaniiとして2亜種に分けることになっています。ところが、
卵や幼虫の形態にも差がある『らしい』
成虫の行動にも大きな差がある『らしい』
生息環境も全く違う『らしい』
そして、私のような素人でも成虫の斑紋は「別種か?」と思うほど違うように見えます。(あくまでも
標本写真を見ての感想ですが…。)
ということから、タカネヒカゲとヤツタカネはそれぞれ別種にしたい!
けれども、う〜ん、やっぱりタカネヒカゲとして1種ということにしておきましょう。
ヒメジャノメ
古い図鑑では「奄美産は別亜種」と表記している程度で、南西諸島産を別種のリュウキュウヒメジャノメと
しては取り扱っていません。
今では、ヒメジャノメとリュウキュウヒメジャノメはそれぞれ別種であるということで、異存はないで
しょう。
キマダラヒカゲ
古い図鑑にはキマダラヒカゲしか出てきませんが、現在ではヤマキマダラヒカゲとサトキマダラヒカゲが
それぞれ別種であるというのは周知の事実です。
ただ、取り扱い方をハッキリさせておきたいので、念のために書いておきました。
このキマダラヒカゲのように、あまりにも普通種だと近似の2種が含まれていることに、なかなか気付かな
いものなんでしょうね。
このように、私は日本国内産蝶類の『種』の数え方を、かなり広く認めています。
「こんなんは認めん!」
とおっしゃる方も、多々おられましょうが、個人的な楽しみとしてやっていることなので、大目に見てやっ
てください。
次に「自己採集数」の定義(あくまで私自身にかけた縛りであり、これが一般的なものではありません)で
すが、
『自分で成虫をネットインし、自分で展翅し、自分の標本箱に収納することを
以って、自己採集の1種とする。』
ということにしております。
以上の前提でもって、私の日本国内自己採集種類数を勘定すると、「あと1種で昔流行った大明神位」という
数になります。
ところで、現在の大明神位って、何種類なんでしょうね。
プラス10種ぐらいが、妥当なところでしょうか?
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