我が栄光の日
12月の29日に、日本で一番美味いビールを注ぐ店「ビアライゼ98」で店の忘年会があった。参加費は5000円で、ビールは飲み放題。つまみも充実のすばらしい企画で、毎年参加している。そこで、今年最後の運を使い果たすような出来事があった。
さて、その忘年会では、毎年ビールの飲み比べをするのが恒例となっている。
参加者にはあらかじめビールの銘柄が書かれた紙が配られるが、これに全部で8種類のビールが記入されている。ただし、実際に出てくるのは5種類だけで、これらの出てきた順番を当てる、というものだ。ちなみに今年の紙に記入されているのは「スーパードライ・キリン一番搾り・サッポロ黒ラベル・スーパープレミアムモルツ・富士山・ヱビス・アサヒコクキレ生・ブラウマイスター」。つまり4大メーカーのピルスナービールばかりであり、これを判別するのはかなり難しい。
何年もやっているのに、なかなか誰も全問あたらず、昨年ついにパーフェクトの人がやっと一人出たくらいのなのだから。
ちなみに私は今まで多い時で3問正解。少ない時で1問正解という成績であった。
何しろ飲むうちにだんだん酔っ払ってくるし、周りで「これはドライだ」「これはヱビスに違いない」とか解説をする人がいるので、混乱するのである。
さて、今年。
次々に出てくるビールを飲んでいく。何となくスーパープレミアムモルツとヱビスはわかった。ただし、他の三種類はまったく自信はない。
5種類飲み終えた後に紙を提出。しばしの採点タイムを経て結果発表。ところで実はこの採点作業にはこの店の常連である我々の仲間が一人、手伝いとして参加していたのである。
「まず一問正解の方」……「二問正解の方」……。
次々に名前を呼ばれるていく。オレの名前がなかなか出てこない。もしや、もしや!
「全問正解、○○さん!」
オ、オレだ、オレの名前だ! やったぞパーフェクトだ、一人だけだから、チャンピオンだぁ!
手伝いをしていた我々の仲間の一人から賞品の生ビール券を受け取る。それを見ていた誰かが、
「仲間同士で不正があったんじゃないかぁー」などとヤジる。フフフ、何とでも言え! 今なら何を言われても気にならんぞ。
その時、調子に乗っているオレの前にニュッとビールが差し出された。ん?
「これは何か当ててごらんよ。」
店の常連客の一人がグラスに入ったビールを差し出す。
一口飲んで「アサヒのコクキレかな」と思ったが、「今日出たうちの一つだよ」と言う言葉にかき消された。
その日出たのは、スーパードライ・キリン一番搾り・サッポロ黒ラベル・スーパープレミアムモルツ・ヱビスの5種類だ。オールモルトのスーパープレミアムモルツ・ヱビスでないことはわかったが、後の区別は微妙だ。しかももう完全に酔っ払ってるし。
「さあ、何かな?」
「いやあ、もうわからないっスよ。」
「何でもいいから言ってごらんよ。」
「全問正解者」の答えを周りの人も見ている。外れたら「なーんだやっぱりまぐれか」(実際それに近いんだが)となるだろう。いや、あるいは「やっぱり不正があったのか?」とか思われたらどうしよう。せっかくの栄光がパーである。すっげえプレッシャー。
「全部当っていい気分のところで今日は終わり、ということでご勘弁を。」
と笑ってごまかそうとするが、
「とにかく何でもいいから言ってごらんよ。」
と、許してくれない(涙)。
思えば向こうも酔っ払っておるのだ。もう仕方がない。覚悟を決めてもう一口飲んで考える。
「一番搾り……かな」
と自信なさそうにボソボソ。
「おおっ!」「正解だ!」「すごい!」
ああ、よかった。本当によかった。ホッとした。全問正解よりこっちの方がうれしかったりする。だが……。
「去年のチャンピオンは今年は1問正解だってよ」
と誰かが教えてくれた。ウゲッ。やっぱり全問正解ということで顔を覚えられてしまっているのか。では来年はオレが同じ立場に……?
栄光の日は一瞬。後はディフェンディング・チャンピオンとしてのプレッシャーがあるのみか。
はっきり言って来年も全部当てる自信は、まったくない。
ボクシングのチャンピオンが、何故一度負けると即引退してしまうことが多いのか、今まで疑問だったが、この日その理由を垣間見たような気がする。
かなり次元は違うけどさ。