幻(?)のヱビスを求めて
昨年5月、サッポロが通常よりも長く熟成させた特別なヱビスを発売すると発表。ネットで予約受付を行った。
ビールファンとして、またヱビスファンとして、何としてもこれは飲まねば、と早速予約日に申し込もうとしたら、何とつながらない。時間をおいて何回アクセスしてもホームページにつながらないのである。
結局その日は諦め、後日にやっとつながったと思ったら、「予約殺到のため、抽選制にすることになりました」と告知がなされていた。ありゃ。何ということだ。予想以上に予約のアクセス数が多かったため、サーバーがダウンしてしまったらしい。仕方なく応募フォームに従って、抽選の申し込みをした。
だが、はずれた。
ちくしょう。飲みたかったがもう仕方がない。
それ以来、幻のヱビスのことは忘れていた。
ところが今年になって、この幻のヱビスが再発売されるという噂を聞いた。このヱビスは正式な商品名を「超長期熟成ヱビス」と言い、今度は各小売店で予約を受け付けるのだという。
今回こそは、と思っていたのだが、またしても予約をとりつけそこねた。
もともと大々的にアピールをしていなかったので、気がついて電話をした時には予約はもうすでに締め切られていたのである。
「今回は予約分のほかに、店頭での小売もするようですので、そちらの方をお求めください。」
電話の応対をしてくれた酒の量販店の人はそう言った。しかし、その予約分以外の販売数に関しては、まったくわからないとか。
おそらく少数出荷であることが予想される以上、売り切れる前に買うしかない。つまり時間との戦いである。
当日、うまい具合に仕事の都合がついて休暇がとれたこともあって、開店時間前に電話で問い合わせた酒屋に足を運ぶことができた。
シャッターが下りた店の前にはまだ誰も並んでいない。
「しめしめ、どうやらまだ他の人は出遅れているようだな。」
待つこと数分。シャッターが開くと同時に店内に駆け込み、店員に「超長期熟成ヱビスはないか」と尋ねてみた。
「ああ、あれは予約注文分しか入荷していないんですよ」
「ええっ!(電話と話が違うやんか)」
どうも店員の話によると、メーカーが予約注文分に合わせて醸造したとか。まるでかつてのキリンのビール工場みたいだ。今回も手に入らないのか? そりゃないぜ。藁にもすがる思いで店員に尋ねる。
「どこの店に行っても置いてないですかねぇ」
「むしろ、小さい店であれば、店主の判断で予約して置いている、という可能性はあるかもしれません。」
さあ、それから酒屋めぐりが始まった。量販店は無理だということがわかったので、ターゲットは小さな酒屋、それもマニアックな品揃えの店だ。思いつく限りの酒屋を次から次へと巡るのだが、置いてない。置いてない。どこの店も置いていない!
「いくらなんでも、限定醸造だからって、少しは店頭において、予約以外の人にも飲んで味を知ってもらわなければ、次につながらないだろうに。もっと生産すればいいものを。まったく、もう!」
だんだんメーカーに対して、怒りさえこみあげてきたのである。
もう、ここが駄目だったら諦めるか、という思いで最後に足を運んだのが、知る人ぞ知る江東区の「すぎうら」だった。
だが、ここもなかった……。
しかも、置いていないどころか、すぎうらの主人はそのビールの存在すら知らなかった。
けれども、そのことで逆にご主人はこの「超長期熟成ヱビス」に興味を持ってくれた。
「私もヱビスは好きなので、問屋に問い合わせてみましょう。」
すぎうらのご主人は電話をかけてくれた。そして、問屋を通じて、まだ品物があるかどうかを確認してくれるという。
待つこと数分。問屋からの電話の呼び出し音が店内に響いた。
「あ、はい。はい。そうですか。ええ。ええ。」
受け答えからだけでは、様子がわからない。なんともヤキモキする。
「ああ。わかりました。それじゃあ、2ケースお願いします。」
ヤッター! 品物があったのだ!
ご主人に何度も礼を言い、翌日に品物が入ったら取りに行く約束をして、上機嫌で店を後にした。
ところが、その日の夕方、信じられぬ光景を目にした。
近所のスーパーに買い物にいったところ、幻のはずの「超長期熟成ヱビス」がケースで積み上げられて売られていたのである。なんてこったい。スーパーとは盲点であった。
バラになっていない紙ケースを数えてみると、9個あった。きっと話題づくりのために10ケースだけ予約販売したのであろう。しかし、これもなくなるのは時間の問題だな。うん。すぐなくなるよな。だから今日あちこち駆け回ったのも、酒屋に注文したのも、決して間違いじゃなかったよな。うん、そうだよな、と誰に言うともなくつぶやいた。
しかし、積み上げられたケースは一週間経っても減らなかった。
それどころか、さらにもっと愕然とする光景も目撃することとなった。
仕事帰りにコンビニによったら、なんと、レジの前と冷蔵庫との両方に「超長期熟成ヱビス」がズラッと並んで売られていたのである。
いったい発売日当日に走り回ったのは何であったのか。これではまるっきり普通のビールと変わらないではないか。気がつくとテレビでコマーシャルまでやっている!
「いくらなんでも、限定醸造だというのに、こんなにたくさん生産しちゃって。売れなくて在庫の品質が落ちたらどうするんだ。まったく、もう!」