ビールキットの反乱
昨年末、6才になる娘が「何かこぼれてるよー」と教えてきた。
彼女は台所の隅に置いてあるスチール・ロッカーを指差している。そのロッカーには工具類やバケツなどが収納してあるのだが、その扉の下の隙間から、確かに何やら茶色い液体がこぼれているではないか。
おそるおそる近づいてみると、その粘りのある茶色い液体には確かに見覚えがあった。
「もしや、もしや……」顔から血の気が引いていくのがわかる。
粘りのあるその液体のために固くなった扉をこじ開けると……嗚呼、予感は当たっていた。
手作りビールキットの、「ビールの素」が入った缶が破裂していたのである。
一時期、手作りビールに凝っていて、定期的に作っては飲んでいた。そのため、「ビールの素」の缶もまとめ買いしては常時ストックしていた。
だが、ビール製作に欠かせない「糖度計」は借り物だったため、それを返してしまうと、しばらく中断を余儀なくされた。
時間経過とともに「ビールの素」の缶は、中身が膨張してふくらんでくる。しかし多少ふくらんだとしても、缶の主成分は殆ど麦芽水飴なので品質的には大丈夫だ、という話を以前に自家醸造推進連盟の代表である山中氏より伺っていたので、気にせずスチール・ロッカーの隅に積み上げたまま放って置いたのである。
それが中身の膨張が続いて、ついには缶を破裂させたという訳だ。見ると缶の一つに穴が開いており、中身がすべて流れ出してしまっている。
長いことビール作りをサボっていたので、ビールの神様がお怒りになったのであろう。神の怒りを静めるためにはビール作りを再開するしかあるまい。そのためにはまず糖度計を探すか。いや、その前に残った「ビールの素」の缶(やっぱりふくらんでいる)をビニール袋で包むことから始めねば!
それにしても一缶ぶん流れ出た麦芽水飴の後始末の大変なことと言ったら……。
なお、表題の「反乱」というのは「氾濫」の誤りでした(笑)。