1996年 【概観】
「アサヒスーパードライ」のヒット以降ずっと続いていた新製品ラッシュであるが、だんだんとメーカーの方に息切れが見え始めていた。
当初、新しい味のビールを次々と試みていは商品化していた各メーカーであるが、製品が売れるのは消費者がめずらしさで買い求める最初のみ、後は既製品の定番ビールに戻ってしまうのである。しかし、新製品を出せば最初だけは確実に売れるので、このことに味を占めたのか、新製品は続々と早いサイクルで発売された。
その新製品も最初こそ水だ原料だ仕込だとこだわっていたものの、だんだんと味についての能書きがラベルに表示されなくなっていった。要するにそうそう新しい味のビールなど作れるはずもないということなのだろう。
代わって今度は名称に凝っただけのビールが増えていった。そしてその次は、その名称を考えるのも面倒になったのか、「季節限定ビール」を続々と投入した。これだと年に4回、新しい味も名称も考える必要がなく、限定製品のイメージで売れるとでも考えたのであろう。
要するにメーカーはホームランばかりを狙って、地道に一つの商品を長く売っていこうという姿勢に欠けていたのである。
1996年の酒屋の店頭には4大メーカーの「春季限定」ビールがならんだ。しかも全部桜のピンク色を背景に「春」の文字という同じデザイン。メーカーの怠惰すら感じさせ、消費者をナメきっているとしか思えなかった。味の競争から、再びかつての生ビールヘンテコ容器合戦のようにイメージ競争時代に逆戻り、強烈に「春愁」を感じた1996年の春であった。