ランチョン
明治42年創業の歴史ある洋食屋であるランチョンは、知る人ぞ知る上手いビールを注いでくれる達人のいる店でもあるのだ。
ビールはアサヒの生と黒生が620円。
レーベンブロイが650円。
アサヒ琥珀の時間が700円となっている。
ジョッキ等はなく、すべてタンブラーのみである。この辺もこだわりであろう。飲みきれずにぬるくなったり酸化したりするジョッキよりは、その都度美味しい状態で飲みきれるタンブラーで何回も頼んだ方が合理的という訳である。
ビールを頼むと、ふんわりと泡が乗った状態で運ばれてくるが、この泡がきめ細かくてしっかりしている。サーバーの泡乗せ機能などではないきちんと注いで作った泡だからだ。当然のことながらビールを不味くするあの「スモーキーバブルス」もない。
その泡を唇で押しのけて黄金色の液体を喉に流し込むと、抵抗なくスーッと吸い込まれていく。美味い。ビールは注ぎ方次第で何杯でも美味しく飲めるものだということを再認識させてくれる味だ。炭酸が大量に封じ込められたスモーキーバブルスビールと大違いである。
洋食屋なのでつまみは当然洋食が中心である。
中でも「自慢のメンチカツ」は、さっくりとしたコロモを切ると断面から肉汁が流れ出てくる絶品の味である。
変わったところでは、ビーフシチューをパイ皮で巻いて焼きあげた「ビーフパイ」というものがあるが、これは何でも評論家の吉田健一氏の「手でつまめるビーフシチューを作って欲しい」という依頼で作られたメニューだとか。
靖国通り沿いに面して大きな窓のある店内は明るく開放的で気分がいい。
ちなみにこの店はコーヒーを置いていない。コーヒーの香りがビールの香りを損なうからだとか。とことんこだわっておるのだ。
とにかく、ビール好きならば一度は足を運んでおきたい名店の一つである。(2008.3)