《アサヒ 生》

 2018年5月15日期間限定発売(ただし缶でのお話)。

 業務用の樽生としては一部地域でしか発売していなかった「アサヒ生」であるが、今年3月にこれを全国に拡大し、かつ缶を期間限定で発売することにしたのだとか。しかも缶は懐かしのあのデザインのままだ。これは嬉しい。

 メーカーのニュースリリースを見ると、「『アサヒ生ビール』は、当社の前身となる大阪麦酒社が1900年に発売した商品をルーツとするピルスナータイプの生ビールです。当時では珍しい熱処理を施さない製法は、高い技術力を示すもので、その味わいは高い評価を頂きました。その後、醸造技術や微生物管理技術の発展と共に改良を重ね、深みのあるコクと爽やかなキレをお楽しみいただける『アサヒ樽詰生ビール』として一部地域限定で発売されてきました」とある。

 だが、実際に缶を手にして違和感があった。

 「――100年のこだわり―― 明治33年から受け継がれるアサヒ生ビール 明治33年(1900年)、アサヒビールの源流となる大阪麦酒が『アサヒ生ビール』を発売し、以来100年以上にわたって生ビールのおいしさを追い求めてきました。飲食店で皆様から支持されている深いコクと爽やかなキレが楽しめます」と書いてあるからだ。これはおかしい。あたかも明治33年からの味を守り抜いたかのような書きっぷりだが、事実は異なる。このビールが発売される前年の1985年まで、アサヒは営業的に長期低迷しており、シェアも最下位に転落寸前。吾妻橋の工場も閉鎖して売却し、従業員もリストラせざるを得ないような惨憺たる有様だったのだ。それが翌1986年にCIを導入。従来の生ビールをこの「コクがあるのにキレがある」新アサヒ生として一新、結果的にこれがヒット。前年比12%も販売量を伸ばし、次のスーパードライのホームランへと繋いだのである。もしいつまでも明治33年からの古い伝統の味にしがみついたままであったなら、今のアサヒは存在しなかっただろう。昔の味を捨てて新しい味に変えたからこそアサヒの復活があったのだ。伝統を誇りたい気持ちはわからないでもないけれど、事実を捻じ曲げちゃいかんな。

 原材料は麦芽、ホップ、米、コーン、スターチ。アルコール度は4.5%と今ではライトな部類。350ml缶の小売価格は税込み210円だった(スーパーの赤札堂で購入)。

 さて、久しぶりに自宅で飲むアサヒ生。さすがに現在の基準だと「コクがある」とは言えず、スッキリ系にすら感じる。でもキレの良さは昔と変わらず、ぐいぐいと気持ちよく飲める。

 ところでこのビール、アサヒの社内で「マルエフ」と呼ばれていたために、このビールのことをそう呼ぶ人が最近は多いようなのだが、どうもピンと来ない。と言うのも、このビールを美味しく飲ませてくれた今は無き「灘コロンビア」では、いつも「アサヒ生」「コクキレ生」と呼んでいたからだ。当時は「マルエフ」なんて誰も言ってなかったよ。

 

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