Les Cheualies
Les Cheualies
MET'Sオペラハウス…
絢爛豪華な建物が、無惨に破壊され、化け物がうごめく廃墟と化していた。
建物が崩壊していく音が、そこかしこから響いてくる。
瓦礫の間に血まみれのハジが横たわる。
その顔には、どことなく幸せそうな笑みが浮かんでいる。
意識の向こうに靴音が響き、ふと足音が消えた。
バシン!
ハジの体の上に重く乗しかかっていた瓦礫が、石自ら砕けるように 粉々に吹き飛んだ。
誰かが覗き込む気配がした…
「…ねぇハジ…アンタこのままで終わるつもりなの?」
意識の向こうから呼び戻す声…声はさらに続ける。
「アンタが死んじゃったら、小夜は一人ぼっちで長い時を生きて行くのよ?…それも…目覚めの血も貰えずに…可哀想じゃない?…アンタ…ホントにそれでいい の?アンタの愛ってその程度なの?」
小夜の名を聞いてハジは意識を取り戻した。
「…うっ…お、おまえは!…」
痛む体を起こし、傍らに立った男を見上げた。
「…ネイサン!」
先程たしかに小夜の手で切られたはずの男が立っていた。ハジは驚愕の表情を浮かべた。
小夜は確に血を塗った刃で切ったはずなのに…
「あ〜ら、名前を覚えてくれたの?嬉しいわねぇ」
ネイサンが嬉しそうに軽口を叩きながらハジの左腕を放り投げた。
「さっさとその腕 くっつけてご主人様のところに戻りなさいな…灰になりたいの?…もっとも、灰も残らないでしょうけどね」
ふっと含み笑いをもらすと腰に手を当て踵を反した。
「…おまえは一体…」
ハジは腕を元の場所に押し当てながら訪ねた。
ネイサンは立ち止まると、ハジに背を向けたまま静かに話し始めた…
「…ミイラのSAYAにもね、シュバリエがいたのよ…」
背を向けてはいても、切なさが伝わってきた。
「…まさか…」
ハジは驚き目を見張った。
ネイサンはハジを肩越しに見返すと、力ない笑みを浮かべた。
「…主を失ったシュバリエでも、まだシュバリエと呼べるのかしらね…」
ネイサンはステージ上のディーバの亡骸を目を細めて見つめた。
「ワタシのSAYAは瞳が蒼かったわ…そして気高く聡明で…美しかった…」
ハジはじっと耳を傾けた。
外には爆撃機の轟音が響きわたる。爆撃は時間の問題だ。だが、ネイサンは話を続けた。
「子供を宿したSAYAは女王の決闘の際に命を落としたの…けれど、もう一人の女王は子供の命を奪う事まではしなかったわ…だから、血による止めはささな かった…」
ネイサンは記憶を辿るようにじっと目を閉じた
…ハジは小夜との約束を思い出していた…
ネイサンはポツリポツリと続ける
「彼女が死んで、何十年か経った頃、ワタシがSAYAを葬った墓地を訪ねてみると、墓が暴かれ、人間達に遺体が持ち去られていたわ……」
哀しげな目が自分の掌に墜ちる…
「…ワタシは必死に探したわ…なん年も…なん十年も…必死に…」
表情は見えないが、悔しさが、怒りが肌に伝わってくる…ハジはその言葉の一つ一つを聴きもらすまいと身を乗り出した。
ネイサンがゆっくりと、紅い欠片と化したアンシェルに近付いた…
「やっとの思いで見付けた時には、ワタシのSAYAは人間達のおもちゃにされていたわ…」
…バリン
ネイサンの靴が、紅い欠片を踏み砕いた。
「SAYAの遺体を弄び、その子供達まで人間に翻弄されてた…それでも、小夜はまだ幸せだったわ。アンタ達に愛されていたんだから…けれど…ディーバはど こまでも孤独だった…ひとかけらの愛情も与えられず、アンシェルの『実験』に利用され続けたわ…ワタシは、せめて塔に閉じ込められたディーバだけでも救お うとしたの…そんな矢先にあの運命の日が訪れたのよ…」
ネイサンの右手が柔かな表情とは裏腹に硬く握られた…
「まさか小夜がディーバを解き放つとは思わなくて…そして、ディーバは姿を消した…」
…ハジは静かに聴きいる…
「やっとの思いで見付けたとき、ディーバは、いいようにアンシェルに踊らされていた……悔しかったわ…殺したいほど憎かった…。けれど、アンシェルはどう あってもディーバのシュバリエ…いつかはディーバへの真の愛情に目覚めることを願い…待ったわ…でも…この男が変わる事はなかった…」
…バリン。
押し隠した気持をぶつけるように もう一つ欠片を踏み潰す。
「結局…この男にとって、ディーバは何処までも実験体でしかなかったのよ…」
…バリン。
欠片を踏み潰す音と共に、ネイサンの姿はディーバの亡骸のそばにあった。
「…だから貴方は、ディーバの側に居続けたのですね?…ディーバを守るために…あなたからは一度も殺気が感じられなかった…それが不思議だったのです…」
ハジはふらつきながらも立ち上がると、ステージ上のネイサンへ問いかける。
「SAYAの面影を持つディーバと小夜…その行く末を見届けるのが…生き残ってしまったワタシの役目…彼女の手を離してしまった…ワタシへの罰…」
最期の言葉に、ハジはビクッと震えた…‥
ハジの側に音もなく近付くと、頬に触れハジの双眸をじっと見据える。
「ハジ。小夜を愛していると言うなら、小夜の幸せを 心底願うと言うなら、側を離れようとするな!何があろうとも。彼女の手を離すんじゃねえ!」
低く力強い声はハジの胸を打った…ハジは心を見透かされた気がした。
「……女王様は淋しがりやなんだから…」
いつもの口調に戻ると、ハジにウィンクをして風の様に姿を消した。
二人のシュバリエの想いは、同じなのだ…『愛する人の為だけに生きる…』ただそれだけ…
「……そう…ですね」
ハジは独り言のように呟くと、ネイサンの後を追うようにその場から姿を消した。
その直後、米軍の爆撃機がディーバの亡骸と共に、MET'Sを跡形もなく消し去っていった…
*fin*
*UP*08.9.28
+ Short novel + Top +
瓦礫に消えたハジを助けたのは誰なのか!?
そしてネイサンの秘密を勝手に明らかにしてみた。