ハジの最悪な日
ハジの最悪な日
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小夜とカイを二人きりにする口実に、二人を買い物に出し、ハジをこき使っていた真央。
コーヒーのマグを手に、テーブルに頬杖をつきながらぼんやりとハジを眺めていた。
『ピンクより赤かな…いや、ワインレッドとか…』
眉間に皺をよせながら、段々と真剣な顔付きになっていく…
「マオ?どうしたの?…顔が怖いよ?」
覗きこんできたルルゥによって 現実に引き戻された真央は、勢いよく立ち上がると自室に駆け込み、
すぐに戻ってきた。
「ハジ!ちょっとここに座って!」
椅子を退き、強引にハジを座らせた 真央の手にはバニティーケースが…
「なになに?マオなに始めるの?!」
ルルゥが瞳をキラキラさせながら 真央が持ってきたバニティーケースを覗きこみ、その一挙一動を見守った。
…ハジは沸き上がる『嫌な予感』を拭えないまま、ルルゥ同様、真央の一挙一動を見つめた。
ハジの前襟に手早くタオルをかけ、前髪をクリップで止めると、真央の顔がまるで『職人』のように厳しくなった。
…ハジの『嫌な予感』は的中したが、真央の表情を見て…余計に否と言えなくなった…
ハジの複雑な心境など何処吹く風な真央は、ハジの顔に手早く美容液と化粧下地を塗ると、ファンデーションを乗せていく。
「ハジ、あんた肌キレイね。男にしとくのもったいないよ。」
手早い真央の作業と、変わっていくハジの顔に、ルルゥの目は釘付けになっていく。
アイシャドゥ・アイライン・チークと手早く進んでいく。
最後に三色のリップを手に、暫しハジの顔を見比べる
「色白だから…やっぱりワインレッドかなぁ…」
そういうと、リップペンシルをハジの唇に滑らせる。
たっぷりとグロスを塗ると、真央はすこし離れて『作品』を眺めた。
「うん!綺麗!どぉルルゥ?」
「すごい…マオ!すごいじゃん!」
隣に並んで ハジを眺めていたルルゥは目を更にキラキラさせて真央を見上げ、ぴょんぴょん跳ねた。
「アタイにもそれやって!」
ルルゥに笑顔を返した真央は、硬直状態のハジに『仕上げ』を始めた。
リボンをほどき、ハジの黒髪にブラシを入れ整えていく。
「よぉ。何やって……」
取材から戻った岡村は、楽しげな女達に声をかけた。
その中心にいた眩いほどの『美女』に岡村は目を奪われ、火の付いていない煙草が 口から落ちた。
「ふふ〜ん!あたしの腕も捨てたもんじゃないわね!」
岡村の反応を見た真央は、得意気に腕組みをした。
「はぁ?…お、おまえ何言って…?」
『美女』を前に岡村の顔が赤くなる。
『美女』はじっと何かを目で訴えているが、今の岡村には間違った感情しか与えなかった。
『美女』の両側に立つと 真央とルルゥは楽しげな顔を岡村に向けた
「オカムラ!これハジだよ!」
『美女』は切なげに瞳を閉じた…美しいその顔に、岡村はまだ理解出来ていなかった。
「…は……ハジぃ〜?お、おまっホントにハジなのかぁ?ええ?」
「・・・はい。」
聞き馴れたハジの声が返事をすると、岡村はさらに愕然となり、膝から崩れるように座り込んだ。
「なに?オカムラどうしたの?」
ルルゥが不思議そうに岡村の顔を覗きこむ。
「…まさかアンタ…ハジに惚れちゃった?」
真央が呆れたようにため息をつくと、岡村の真っ赤になった顔を見た。
「ばっ馬鹿言え!お、俺はべ、別にだな!」
「オカムラ、声がひっくり返ってるよ?」
ルルゥに頬をつつかれ、更に顔が赤くなった。
「……そろそろ、顔を洗ってもいいでしょうか…」
それまでじっと耐えていたハジが、ようやく口を開いた。
「ダメ!サヤにも見せたいもん!」
ルルゥの言葉に ハジの顔色が変わった…
「…小夜に?」
普段、殆んど表情のないハジの顔が張り詰めた。
「…それだけはできません」
すっくと立ち上がると 足早にバスルームへと向かう途中、帰って来たデビッド達にに出くわしてしまった。真央は「あっちゃ〜」と頭を抱えた・・・
「…君は誰だ?」
デビッドが眉を潜めて目の前の長躯の美女を見据えた。
「ぁ…アンタ…もしかして…」
ルイスが信じられないといった顔付きで、美女を指差した。
「ハジだよ〜!」
ルルゥが得意気に言った。
「…ハジ…?」
デビッドとルイスが 唖然とした顔でハジにみとれた。
デビッドの肘に痛みが走り、振り向くとジュリアが引きつった笑顔を向けていた。
「顔が赤いわよ?デビッド…好みのタイプだった?」
「…なっ何を言ってるんだ!ジュリア!」
ジュリアの冷たい目線に、デビッドが慌てたようにいいわけをした。
ハジは瞼を伏せ、何も言わずバスルームに入っていった。
「ちょっと、可哀相だったかな・・・」
真央は今さらながら、後悔した。
ようやく落ち着きを取り戻した“赤い盾”のメンバーは、今後の戦いについて話合っていた。
化粧を落とし、バスルームからハジが出てきた。
何事もなかったような顔のハジに、真央が近付いてきた。
「ごめんねハジ…あたしったら、調子に乗り過ぎちゃって・・・小夜には言わないからさ…安心してね!みんなにも口止しといたし」
真央は照れくさそうな笑顔を向けた。ハジはほんの少し口元を緩めた
「…お気遣い、ありがとうございます」
その微笑に、その場にいた人間すべてが釘付けになり“幻の美女”の事を思い、密かに
『小夜には言うまい』と心に誓った。
*おしまい*
*UP* 09.10.6
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きっと、ロマでは日常だったろうけど、
やっぱり小夜には見られたくないっていう・・・男心?