*キスして*

 

「小夜?なにを怒っているんですか?」


放課後の夕日に照らされた道を、大股でずんずん進む小夜の後をハジが困惑顔で追いかけた。


「べつに怒ってなんかないよ。」


不機嫌そうに前を見据え、一度もハジを見ようとしない小夜。


「小夜・・・」


いきなり立ち止まった小夜に驚きハジも足を止めた。

小夜はハジに背を向けたままため息をついた。


「さっきの・・・すごく綺麗な人だったよね。ずいぶん楽しそに話ししてたし。」


小夜の下校時間に合わせて迎えに来たハジは、ファンだという女性に声をかけられ、

二言三言話したのだが、それを偶然見てしまったのだろう。


「チェロを教えてほしいと頼まれただけですよ。」


小夜の肩がピクリと反応した。


「へ、へぇ〜教えてあげればいいじゃない!私のことなんて気にしなくてもいいよ!」


心にもないことを言っているのは、お見通しだったが、自分にこれだけ気持ちを寄せてくれる小夜が愛しくて、つれない素振りを見せるその背を抱き締めた。


「貴女以外の女性に、手ほどきをするつもりなどありませんよ?…小夜…ヤキモチを…焼いて下さったのですか?」


耳に唇を寄せて静かに囁くと、小夜の耳が真っ赤になった。


「違っ…そ、そんなんじゃないもん!ハジの馬鹿!!は、放してよ!」


自分の躯を包み込んでいる腕を引きはがそうとするが、腕はさらに強く小夜を抱き締めた。


「小夜…もっと私を束縛してください…私は貴女だけの従者…貴女だけのハジなのですから…」


紅く熱を持つ耳に頬が押し付けられ、ようやく小夜はハジに向き直り見上げた。


「…わかってる!ちょっと困らせてみようと思っただけ…ハジには適わないや…」


クスッと苦笑をもらした小夜は、その澄んだ瞳を見詰め返した。


「いいえ…充分に動揺させられましたよ、小夜。」


いつものポーカーフェイスが少しだけ困った表情をつくった。


「…あ…」


ヤキモチから来た事とはいえ、ちょっとした悪戯のつもりが、ハジにこんな顔をさせてしまうなんて…

小夜はしょんぼりと俯くと、丈の短いスカートをぎゅっと握りしめた。


「は、ハジ…ご、ごめんなさい…わたし…っん!!」


謝ろうと顔を上げた小夜に待っていたのはハジの唇だった。


「…んっんんっ!!」


往来での熱烈なキス…人通りが少ないとはいえ、誰が見ているかわからない。

小夜は羞恥に身をよじってハジを押し退けようと腕を張る。

が、それは無駄な努力として、小夜の躯は再びハジの腕の中に収まってしまった。


ようやく唇が離れると、小夜の上気した頬をハジの大きな手が包み込んだ。


「小夜…私は今、この上なく幸せなのです…どうか謝る代わりに、キスを頂けませんか?」


そう言ったハジは、目を細めて微笑むと、自らの唇を指差した。


「・・・い、今したばかりじゃない・・・」


小夜が赤らんだ顔を背けると、ハジの手がやんわりと自分の方を向かせた。


「貴女からのキスは、何度でも欲しいのです…駄目ですか?」


真直で見るハジの澄んだ青い瞳は、この沖縄の海よりも空よりも美しいと小夜は思った。


「し、しょうがないなあ…」


小夜は真っ赤な顔でキョロキョロと素早く周囲に視線を巡らせ、すこし背伸びをして、ハジが指定した場所に口付けを施した。


ちゅっ


「こ、これでいい?」


触れるだけのキス…ハジは唇の感触を、短いキスの余韻を味わうようにゆっくりと目を開けた。


「…小夜…短すぎます。」


「…え?」


戸惑う小夜に、顔を近付けもう一度と唇を再度指差した。


「んもう!ハジの甘えん坊!…これで最期だからね!」


そう言うと、ハジの頬を両手で引寄せて唇を重ねた。


小夜からの口付けは、いつも触れるだけですぐに放れてしまう…そんな小夜が離れてしまわないように、

自然にハジの腕が小夜の華奢な躯に絡まり、力が籠ると口付けがどんどん深くなった。


「っん…んんっ…」


周囲の目などお構いなしにハジの行為がエスカレートしていく

ハジの舌は執拗に小夜の舌に絡まり、先程よりも深い口付けに小夜は目眩がした。

唇が放され、潤んだ瞳で見詰めあう小夜の、桃のように紅く色付いた頬にハジが口付けをする。


「…後は帰ってからゆっくりと頂きます…」


悪戯な微笑を浮かべ囁いたハジに、小夜は耳を林檎のように真っ赤に色づかせた。


「も…もう…ばかっ!」


「さあ、帰りましょう。カイが首を長くして待っていますよ」


「う、うん…」


暖かな微笑みを浮かべ、ハジが差し伸べた手に小夜は素直に自らの手を重ねた。



「やっぱり、ハジには適わないな・・・」

夕暮れの中を、二人で手を繋いで歩きながら、小夜がぽつりと呟いた。





おしまい。

この後、小夜はハジに深夜まで翻弄されてしまった事は、秘密にしておきましょう。

*どんな事が繰り広げられたかは、皆さんの妄想…もとい、想像にお任せします(^ワ^*

UP* 09.5.17

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