謝花組
謝花組
澄みわたる青空をバックに、一機の旅客機が滑走路に滑り込む。
那覇空港に降り立った小夜達一行には、およそ二年ぶりの沖縄だ。
空港から外に出ると、黒塗りの高級車が滑るように横付けされ、中から黒服に黒いサングラスという、
赤い盾のメンバーと見間違えるような男が降りてきた。左後部座席のドアを開けると、さっと頭を下げだ。
「お嬢。お迎えにあがりました。」
そう。『謝花組』の構成員…もとい『謝花興産』の社員が真央を迎えに来たのだ。
「ありがとう。じゃあ、また後でね!」
真央はごく普通に車に乗り込んだ。
さすがお嬢…岡村は茫然とその光景を眺めていた。
「お前も乗るんだよ。」
「えっ!ち、ちょっと!」
黒服にサングラスの男は、岡村の肩を掴むと真央の隣に強引に押し込んだ。
「社長がアンタにオハナシがあるそうだ…」
「ぉ…オハナシ…?」
岡村の額に脂汗が滲み、デビッドに助けを求めるような視線を送った…が、デビッドは瞼を伏せ『あきらめろ…』と言わんばかりに首を横に振った。
後部座席のドアがバタンと閉まると、黒塗りの高級車は、顔面蒼白の岡村と、まっすぐ前を見据えた真央を乗せ走り去った。
「…お、岡村さん、大丈夫かな…」
小夜は心配そうに傍らのカイをみた。カイは特に気にする風でもなく頭の後ろで手を組むとニヤリと小夜に笑いかけた。
「ま。殺しゃしねぇって。」
小夜は苦笑いで応えた。
様々な調度品が並び、鹿や熊などの剥製が睨み付ける応接室に通された岡村は、本物の熊と思うような ガッシリした体型の男の前に、真央と並んで座らされてた。
「…職業…ルポライターねぇ…?」
長いことベストの胸ポケットにしまいっぱなしになっていた『新聞記者』の記者証をつまみあげ、持ち主を検分するように眼光鋭くねめつける謝花興産社長。
岡村はその威圧感に圧倒され、背中に冷や汗を、額に脂汗をかきながら、物々しい応接室の、豪華な黒革貼りのソファーに小さくなって座っていた。
「…ルポライタァさんが、うちの娘をタブラカすたぁいい度胸だなぁ…えぇおい。」
岡村は、隣に座っている真央に助けを求めるようにチラッと見たが、真央は清々しいまでに無視をした。
「おい…まさかモテアソンだって言うんじゃねぇよな?」
組んだごつい手に力が入る。
「…も、弄ぶなんて!まさか!指一本触れてないッスよ!」
「なぁ〜にぃ〜?」
真央の父は、『組長』の顔で、無精髭に薄汚れた格好のルポライターに凄んだ。
「この二年、一度も手を出さなかったのか?」
「も、勿論ッスよ!」
岡村は、蛇に睨まれた蛙宜しく大粒の脂汗を流した。『組長』は勢いよく立ち上がると拳を握り締めて岡村に怒鳴った。
「てめぇ!うちの真央ちゃんのどこに不満があるんだ!?あぁ?」
「……はぁ?」
とっさに頭を隠した岡村は、耳を疑った。
「…こんなに美人で、スタイル抜群な真央ちゃんに、なんの感情も湧かなかったっていうのかぁ?!てめぇ!それでも男かぁ!!あぁ?!」
「……は、はぁ??」
岡村はこの『謝花組』の『組長』が何を言っているのか理解できなかった。
「あの…何言ってるんンすかぁ?」
お伺いを立てるように顔をみた。
「このやろう…!」
『組長』は苛立たしげにソファに座ると、冷めたお茶を一気に飲み干し岡村を睨んだ。
「じゃあ、てめぇはうちの娘をどういうつもりで連れ回してたんだ?」
高級なテーブルをガツンと蹴った。
岡村はなんだか話が冒しな方向に向いてることを不審に思った。
「…ど、どういうって…」
「好きなのかって聞いてんだよ!」
大声で怒鳴ってはいるが、どうもおかしい…
「…ハッキリした答えが出せねぇって言うんなら…シャバに帰れると思わねぇ事だな…」
野太い指の関節がボキボキと音を立て岡村を恐怖させた。
「お嬢…あ、いや、真央お嬢さんには、これからも俺と一緒にいてもらいたいと思ってます!」
この場を逃れる為の言葉ではなかった。この二年間、真央の意外な一面を様々に目の当たりにしてきて、素直に真央の事が好きになっていた。
「それは娘の事が好きだってことか?」
『組長』は威圧する。
「…ぁ、まぁ…そうなりますか…ね」
岡村は隣の真央を横目で盗み見たが、表情は相変わらずだ。
「好きぃ?…本当だろうな?」
「…はい。」
すでに岡村の顔からは脅えが消え、まっすぐに『真央の父親』に向かっていた。
「その言葉に嘘はねぇだろうな?」
「嘘じゃないです!」
『組長』は岡村を睨み付ける。岡村もまっすぐに『真央の父親』に向かっていた。
ふと『組長』の顔から一人の『父親』の顔になった。
「…真央ちゃん、ホントにこんな奴がいいのかぁ?」
「パ〜パっ!あたしが決めたの!」
真央は立ち上がると父親の首に甘えるように腕を回した。
「…一体、なんの話だ?」
岡村はニヤニヤとしている真央を見た。
「アンタはさ、アタシがいないと駄目なんだよ!」
「な…なんだぁ?」
岡村は狐に摘まれた様な気分になった。
「次の取材に、アタシも着いていく事にしたの!それで、ちゃんと親の許可を取ったって訳。パパもその方が安心するでしょ?」
「……許可ぁ?」
(脅しの間違いじゃ…)岡村は小さく呟いた。
「アンタもスポンサーが必要でしょ?」
父親の肩ごしに岡村にウィンクした。岡村は痛い所を付かれ、ぐうの音もでなかった…
真央の目に『Noとは言わせないわよ』との有無を言わせない決意がみなぎっている。
「うちの可愛い真央ちゃんを泣かせたりしたら…どうなるかわかってるよなぁ?」
『真央の父』はにっこりとした笑顔の裏に『謝花組組長』の顔をチラつかせた。
「……ハイ。」
岡村は裏返った声で小さく呟いた。
(…もしかして俺、ハメラレタのか?)
「さぁって!そうと決まれば準備始めなくっちゃ!」
「…じゅ、準備って、次に行くのは中東だぞ?危険なんだぞ!」
一緒に行くのは嬉しかったが、やはり危険な場所なので躊躇われた。
「そこで守んのが男ってもんだろう!」
ドスの効いた声が畳み掛ける。
「…そんな無茶な…」
「バケモンが出るNYよりはマシでしょ」
『そりゃそうだが…』声にならない呟きも耳に入らない様子の真央は鼻唄を歌いながら軽やかに部屋を出て行った。
唖然とする岡村の肩を、『組長』の武骨な手が掴み、顔を近付けた。
「岡村くん…くれぐれも…な。」
「………ハイ。」
岡村の顔に再び脂汗がにじんだ。
「パパ〜?悪いんだけど、オムツ換えてくれなぁい?」
「はいは〜い♪いまいきましゅよ〜♪」
半開きになったドアの向こうから声がかかり、『組長』は子供に甘々な『父親』の顔になると、足取りも軽く部屋を出て行った。
「…なんなんだょ…」
巷で何かと噂の高い『謝花組』の組長の、信じられない一面をかいま見た岡村は、腰が抜けたようにソファにヘタリ込むと
両手で顔を覆いつつ、真央が一緒に来る事でこれからの旅が楽しくなりそうだと、顔を綻ばせ想像を巡らせるのだった。
おしまい。
*UP* 09.10.6
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ちょっと意外な所を付いてみた。楽しんで頂けたならいいんですが…
岡村くんと真央のカップルにも、楽しい日々が待ってるんじゃないかなと(^^*
岡村君も禁煙できたのかも、ちょっと気になってみたり(笑)