今日は祝日の振替休日.行楽の秋ではあるが,私は翌々日の発表に備えて,お休みどころではない.お役所や公共機関にいっぱい助けてほしいのだけれども,非情なことに彼らの方はお休みである.しかも,パソコンがフルに稼働している作業部屋の室温は30度超ときた.まったく嘆かわしい.
家の中では,頭を抱える息子をよそに,休日モードの父親が朝からはりきっており,掃除機がけたたましくうなり声をあげている.我が家にこういう日はけっこう多い.もともと日曜大工の好きな父親は,床にニスを塗ったり,たまに包丁を研いでみたり,そういうまめな男である.
さて,問題は一階のトイレについてである.
我が家は4年前に建ったのだが,トイレには透明な窓とブラインドがついている.そのうち塀の向こうのお隣にも家が建ったが,トイレをしていると,向こうからおしりが見えると母親がこぼしていたようである.
そこで,まめな父親は知恵を働かせた.包装紙を切って,窓に貼っつけようと考えたのである.
私が下におりてみると,包装紙のサイズを合わせる得意気な父親がいた.
父の作品を見て,直感的に私は嫌気を覚えた.色が悪い.そうして,光が入った方がいいとか,そこの隅がじじくさいとかいろいろと理由をこねて反対する.
ところが父親は,あれこれと口うるさい相手の声は頑として聞き入れず,ますます躍起になって隅を整え始めた.難敵である.
だいたい,ブラインドを逆さにしておけば,実際向こうの二階からは見えないし,光だって入る.だから,おしりが見えるなんていうのは妄想にすぎないと思っている.ひょっとすると,向こうから見れば,そこがトイレであるかどうかもわからないかもしれないのだ.そこへわざわざ貼り紙をして見えなくしてしまうのは,逆にそこを隠しているみたいでかえって恥ずかしい.そういうのが私は好かないのだ.
「向こうからは見えないんだから,こちらからわざわざ隠す必要なんてないんだよ.」
そう主張するが,父親はいよいよテープを貼りだした.完成を目前に,ぱっち姿のコーディネーターは大満足である.
私は白旗を持ち出した.もう彼を止めることは出来ない.そうして,あちらこちらでじじ臭さのいっぱい漂う我が家の中で,唯一ゆっくりと(用を足しながら?)くつろげる美しい空間は失われてしまった.
そう思いながら,少し投げやりな気分になっていた私は,最初に抱いていた感想を吐きだす.
「だってラブホテルみたいやん...」
ところが,倒れ際に放り出した拳は,見事に相手の急所にヒットしてしまった.
「ええ?そうかいな.うーん....」
「そんなん見えたらかえって恥ずかしいで.」
そういうと,父は先ほど丁寧に整えた包装紙をばりばりとひっぺがしてしまった.
「やっぱりあかんかなぁ.ラブホテルなんていったことないからわからんけど.」と父.
「いや,おれかて写真しか見たことないけど.」と私.
リング上の二人の論者は,急きょ親子の関係に戻る.
かくして,父の名案は形にまでなったたものの,日の目を見る前にボツになった.最後のカウンターパンチの威力は大きかった.こうして,私のくつろぎの空間は守られた.
くずかごには,大役から引きずりおろされたピンクの包装紙が収まっている.