かわうその生態 part 5
ヤマザキの男 001001
今日のバイトは、ピンフ堂アルプラ草津。ヤマザキパンに雇われるという形だ。
家からは車で1時間で到着。なんか買物すれば駐車場使えるやろう、ぐらいの気持ちで車をつかったのだけれども、駐車場に入ってから血の気が引く。そう甘くはないらしい。基本的にアルプラの駐車場は1時間まで無料。当日の買物レシートがあれば3時間まで無料。その後は、30分ごとになんと500円が取られてしまう。バイト料などそっくりそのままなくなってしまう勘定になる。これはやってられない。 もっとも、駐車場の警備員がいるのは、土日だけで、平日はほぼ無料解放状態。市営の駅前駐車場も商売あがったりである。だが、ともかく今日は日曜日だから、しっかりとチェックされてしまう。仕方がなく、駐車場を求めてさまよい始めたところ、近くにドラッグストアを発見。どうせ、店の人間といえば、バイトさんとパートさんだけだろう、との計算で堂々と終日駐車することに。でもちょっぴり気になるので、一応なんかドリンク剤とか買ってみる。 今日は、ヤマザキパンのお仕事。食パン、および菓子パンの品出しと、ケーキの雪苺娘の販売および補助。これが主な仕事である。一日いろんな刺激で頭パンパン。
<超芳醇withジャム> ヤマザキの京都の工場から搬入されたパンは、他の商品とともに、バックヤード(現場の人々は、バックと呼ぶ。)の通路に並ぶ。そして、売り場の商品が足りなくなったら、バックから出すのだ。今日の作業で余計だったのは、ヤマザキの提案にピンフ堂がのった形で、食パン(超芳醇)にイチゴジャムを付けるというサービスだった。何十個とかではない。何百斤、いや千斤を越える数の食パン一斤一斤に、給食で出るようなジャムを付けて行かねばならない。売り場に出す前にジャムを付ける。で、ときどき売り場を覗いてみて、商品がなくなってきたら次のを足していく。 ヤマザキからはおねえちゃんが一人やってくる。諸々の作業の一通りの仕事をし、バイト君、バイトさんに仕事を教え、営業所に帰ったりまた戻ってきたり。商品を出すのは、ヤマザキの人間とピンフ堂の日配のひととの作業。どこにどのような線が引かれているのかはわからず、ピンフ堂はあらゆるメーカーの商品を扱う。だから、だっさいのほかにおねえちゃんやパートのおばちゃんがジャムを貼ってたり、品出しをしていたりする。 で、いろんな人間がこのジャムに疑問を抱き始める。パン一斤に対して、給食ジャム一つ付けたところで、これにお客さんは惹かれるだろうか、と。この日の超芳醇は、通常170円のところを148円にするという特別価格をうっている。これだけ労力使ってジャムなんてつけたところで....作業の単調さがだっさいやパートのおばちゃんをマイナス思考へと引き込み、むなしさを植え付けていく。パンを買って帰った家庭で、子供がジャムを取り合うほほえましい食卓の風景、そんな想像を楽しむ余裕などはなかった。 夕方になると、お客の量はピークに達し、ひたすら特売のワゴン(これを【平台】とよぶ)と、ふだんの食パン売り場の棚(これを【定番】という)にジャム付きのパンを並べてゆく。気が遠くなるほどたくさんバックにあった食パンはすべて売り場に収まった。POSデータに基づいて入荷しているはずだから、読み違えはないと信じるのだけれども、さすがにその量が多いのでびっくりした。そして同時に、来客の多さにも驚かされる。この草津や栗東のどこにこんなにたくさん人が住んで、買物に来るのだろう.....食パンなどを扱って、これを肌で実感することができたように思う。
<雪苺娘を売る> ヤマザキはこの休日を利用して、雪苺娘(ゆきいちご)という、雪見だいふくみたいなのを、特別にワゴンで売る。ワゴンはパン売り場のところではなく、なぜか野菜売り場の前にある。だっさいのほかに昨日からバイトに来てる女の子がいて、これを売るのが基本的に彼女の役割。そして、だっさいは、バックの冷蔵庫から商品、冷凍庫から保冷材をもってきて補充したり、女の子が休憩するときに代わりに売り場に立ったりした。 この雪苺娘、まるごとイチゴとホイップクリームをきゅうひ(漢字忘れた。求肥?とにかく生八つ橋とおなじものをつかってる)で包んだ、饅頭型の冷蔵菓子なんですな。自分の食べたことのないものを売ってたんやけど、このゆきいちご、大人気で売れまくり。一つ150円と高いんやけどねぇ。500個仕入れて、なんと午後五時半には完売。ついに自分の口には入らなかった。 お客様の大半はやはり女性の方。女性の方はどうしてこんなにあまいものが好きなのでしょう。「あれおいしいのよぉ」と旦那さんにねだる若奥様とか「昔は、横浜でしか買えなかったのよねー」(ほんまか)といって買っていってくれるおばちゃんとか。「ママー」ってだだこねるお子さんとか。 今日のいらっしゃいませ声は、ちょいと息を鼻のほうへ流すような、ハ千代ムセンの兄ちゃんから盗んだ声色をつかってみる。あまりやりすぎると、変な癖がついて、合唱用のバリトン声が出せなくなるからな。 なんやかんや言うても、やっぱりお菓子は女の子に売ってもらった方がいいという気がする。ケーキ屋入って、店員さん男やったらやっぱし違和感あるよな。
<品出しについて> これは聞いたわけではないが、欠品の防止と古い商品を優先して売ること。これが作業するための基本だったような気がする。 バックヤードへのパンの搬入には、1便と2便というのがある。1便は前日製造のもので、朝早くに届いている。朝一番に商品が並んでいるのは、前日の売れ残りに加えて、この1便の商品が補充されているものだ。そのうち、お昼頃に2便が届く。これは、当日製造(朝方とかに焼いたやつだろう)のもの。ここで賞味期限の違いが現れる。 とりあえず、新しいのを奥に、古いのを前におくんだけれども、早い段階で並べたものは全部出てしまうので、一つ一つ前後、上下なんて気にしてない。一日で何百斤とでていくので、いちいちそんな細かいところは気にしてられないな。要は、古いのが残らなければそれでいいのだ。 主婦の皆様方は、さすがに後ろから後ろから取っていかれる。いろんな意味で、さすがプロ。平台ではさすがに多くの目があるからか、しばらく吟味した後、おとなし目にもっていかはる。しかし、奥行きのある棚では、奥へ奥へと売れていくのだ。1列目のパンを残したまま、3列目、4列目と一つの筋に沿って穴が開いていき、一番奥まで行けばそこから横方向へと売れていくことになる。手ぇつっこんで取ってはるんでしょうな。その虫が食ったようなところへ、あらたに商品を補充していく。どれも同じでっせ、って思いながら。 しかし、新鮮さという観点で言えば、1便と2便の違いを注意していればいいのだと思われる。もっとも、早い時間のお買い物だと、前日の2便と当日の1便は区別が付かず、これは難しい。奥から取ってもらうのが無難かもしれない。そう、棚の最前列、蛍光灯の真下におかれているパンは良くないと思う。熱も持っているし。ちょっと汗かいてたりするし。 それから、平台と定番との関係では、こんな話があるな。平台と定番があった場合、平台の方がよく商品が出る。だから、残しておきたくない商品、つまり製造が比較的古い商品は、定番から平台に移す場合があり、定番に新しい商品がのっている、という時間帯がある。ただ、夕方にさしかかると、さすがにそんなのんきなことはしてられず、次々と品出ししなければ、おっつかない。
<従業員食堂> 従業員食堂へいく。休みを取れたのが3時前だったので、セットメニューはほとんど売り切れていた。食堂のおばちゃんに言われるがままに、ミニカレーセット。むー、レトルト(あた前)。 びっくりしたのは、食堂の広いことと人の多いこと。100人はいたな。ここに居てはる人々はみんな休憩なわけだから、全体でいったいどれくらいの人が働いているのだろうと思う。そしてやっぱりここも女性の園やな。どの人がパートでどの人が正社員か、あんましわからんが、とにかくむっちゃ多い。男は1割、2割くらいか。 生産者への感謝の気持ちを込めて、食事前の合掌が励行されている。これは数ある会長さんの教えのうちの一つ。その会長さんの写真が一番奥に飾ってある。一角にある掲示板には、各部門ごとのご奉仕高(売上高)達成率グラフが貼っつけてあるが、これで主任さんとかの機嫌がかわってくるんやろうな。
<パートのおばちゃんと> イチゴジャムを貼りながら、パートのおばちゃんとよもやま話。といっても、たいがいはピンフ堂のお話なんだけど。いまいくつ?二十歳ぐらい?容姿を見てそういったのか、バイトに来るという文脈から考えてそういったのかは不明であるのだが。むー、精神年齢はハタチくらいだな。あたってるよ、おばちゃん。 話に出さないでおこうと思ったけれども、話の成り行きで、以前ピンフ堂の研究をやっていたことも話す。 初代(サマ原さん)の自伝を社員、パートみんな読まされた話とか、2代目さんがIYの会長さんに心酔しているお話とか、3代目の高校入学時の顛末とか。とにかく、もりだくさん。自ら認めるように、やっぱりパートのおばちゃんが集まれば、噂話が年中満開モードである。以前に、百キロを隔てた別の店舗に勤める友人にも似たような噂話をきいたから、それらの多くは当たっているのだろう。 で、現場のことをあまり知らないんですよ、というだっさいに対して、「現場はしんどいよー」っておばちゃん。「中にはいやな主任とかもいるからね。ずっと一緒になるもん。ノイローゼになって辞めていかはったひととかもいたはったよ。」「やっぱりどこの世界にもそういう人っていたはるんですねー。逆に、上がすごいやりやすい人やったら楽しいでしょうにね。その差がおおきいですよね。」もう、運がいい悪いとしか言いようがないのだろうか。
雪苺娘がはやくに売り切れたので、あとはパンの品出しをするだけだ。パンはどんどんと売れてゆく。が、それでもまだ残っているので、平台に高く積み、定番の奥に押し込み、やっとこさ七時(契約では八時なんやけど)にあがらせてもらう。 ちゃんと給料払い込まれるのかな。担当者はとうに帰ってしまってるし。学生証のコピーを取られた、ハ千代の場合とえらい違いだ。で、ちょいと不安である。今日のは、学総の単発バイト。ヤマザキの方も、パートのおばちゃんもまた来てねーって。まぁ、そう言うてくれはるけど、いろいろな種類の仕事もやりたいしなー。一方で、ヤマザキの方で続けて、もうちょっと他のお店も覗いてみたい気もするのだが。またピンフ堂に潜入することはあるのかな。
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