サテライト型のトーナメントはおいしいのか?


スキルの介在しないクラップスやバカラ等のゲームにおいては、マネーマネージメントの方法に依らずハウスエッジは一定であるということが信じられています。ある見方をすればこれは正しいのですが、別の見方をすると「コロガシは大損」になります。この辺の背景と考え方は意外と理解されていないので以前書いたものを再掲しておきます。また特に、スキルの介在するポーカートーナメント等の中でもサテライト型のトーナメントは、そもそもがコロガシ型の構造になているので、場合によって期待値は随分変動します。一種のレバレッジ効果といったところでしょう。


サテライト型のトーナメントはおいしいのか?(その1)

 

 最近オンラインポーカーで流行しているのが、高額のトーナメントの参加権が得られるというサテライト型のトーナメント。このタイプのトーナメントは、例えば予選・準決勝・決勝のような階層的なサテライトトーナメントの勝ち抜き方式となっており、予選参加費は$10程度と極めて低額に設定してあることが多い代わりに決勝では超高額の賞金やWSOPメインイベントの参加権が得られる形になっている。

 このタイプのトーナメントに参加することの損得については、数ヶ月前にもawk氏のブログで話題になり、期待値が計算されている。基本的にはそのときの話の蒸し返しなのでくどいかも知れないが、この話はポーカーのみならず全てのギャンブルに共通に成り立つ原理であり、昔から知られていることでありながら、非常に非常に見過ごされがちなポイントであるので、再度分かりやすくもうちょっと一般的な形で説明しておきたい。

 今回はまずポーカーを離れて例題から

(例題)

4頭立てのレースが3つあり、いずれのレースでも、各馬の実力は全く等しくオッズも同等である。また控除率は25%であるとする。次のそれぞれの買い方をした場合の配当とpay out(pay out率= 1 −控除率)を考えよ。

1)あるレースの単勝に100円賭けた場合?

2)あるレースの3連勝単式に100円賭けた場合?

3)最初のレースの単勝に100円賭ける。的中したら全額を2番目のレースの単勝に賭ける。これが的中したら3番目のレースの単勝に賭ける。このようにコロガシを行い成功した場合

4)指定の3レースの1着馬を全て当てれば勝ちという馬券(3重勝馬券。日本でも一時期重勝馬券が売られていた時期がある。)を考える。これを100円買った場合。


(答)

1)  馬券の控除率が25%であるのでpay out率は75%。一方、どの馬を買っても4回に1回的中する。従って控除がなければ配当は100円×4=400円。Pay out率が75%であるので配当は400×75%=300

2) pay out率は1)と同じ。連勝単式の組み合わせは4×3×2=24通りある。従って控除がなければ配当は100×24=2400円。Pay out率が75%であるので配当は2400×75%=1800円。

3)馬券のオッズは3倍なのでコロガシに成功すると100円が300円→900円→2700円となる。もし控除がなければオッズは4倍なので100円は400円→1600円→6400円となっていたはずである。 従ってpay out率は2700/6400=42.2%

4) pay out率は1)と同じ。3重勝の組み合わせは4×4×4=64通りある。従って控除がなければ配当は100×64=6400円。Pay out率が75%であるので配当は6400×75%=4800円。

1)2)は簡単な計算であるが、3)については、「どのような賭け方をしても控除率は25%であって、賭け方によってこれを変えることは出来ない」と錯覚・誤解している人が非常に多い。これは、パーレー(勝ったらば倍賭け)・マーチンゲール(負けたら倍賭け)などのいわゆるベッティングシステムを用いてもカジノには勝てないという教えが頭の中に叩き込まれているのが原因であると思われる。いかなるベッティングシステムを用いたとしても、控除率を小さくすることは出来ないことは事実ではあるが、このようなコロガシ型のベッティングシステムを用いることにより実質的な控除率がより大きくなるのである。

もちろん、「毎回毎回賭けた総金額に対するpay out率」という観点で3)を計算すれば、

           賭けた金額    配当

コロガシ1回目     100円      300

コロガシ2回目            300円      900

コロガシ3回目     900円      2700

合計         1300円      3900

であり、控除がなければ1300円は4倍の5200円になっていたはずであるから、pay out率は3900/5200=75%

となるのもまた事実ではある。

 ではどちらの考え方をするのが現実的なのであろうか?これを考えるためには、3)の買い方と4)の買い方を比較して見れば良い。3)4)も元手は100円であり、最終的に成功するのは3レース共、狙った馬が1着になる場合のみである。即ち3)4)は、同じ事象が起こることに賭けている訳である。にも関わらず成功したときの配当は4)4800円であるのに対して3)2700円と大きな差があり4)が圧倒的に有利である。一方、4)の馬券の控除率は25%として計算を行っている。となれば3)pay out率は4)より大幅に低いと考えるのが理にかなっている。

 要するに、テラ銭のあるギャンブルにおいてはコロガシ(parlay)をすればするほどpay out率がどんどん0に近づくのである。 世の中には意識的・あるいは無意識のうちにコロガシの醜さに気づかずにこのような資金マネージメントをしている例が非常に多い。

 例えば、競馬記事の予想コラムには「3コロガシ馬券」の類が良く出てくるが。ただでさえ控除率の大きい公営競技で転がしをすることは、世の中でも最も愚かな賭け方である。控除率を25%とすれば3コロガシした場合のpay out率はわずか42%になってしまうのである。かつて日刊ゲンダイには、「複勝3コロガシ」馬券のコラムがあったが、(複勝は控除率で連勝馬券よりやや優遇されるようにはなったものの)、複勝は配当が低いので、これなどはどかんと儲けるチャンスも全くない「確実」に資金が減って行く最悪の賭けである。

 明確にコロガシを行っていなくても、ギャンブラーの性向として、基本的にツイていれば(即ち所持金が増えれば)賭けを増やしがちである。ツキの流れに乗るというのはオヤジ理論的には100%正しい行動である。また、儲かってきたときにどーんと張り駒を伸ばすことは「勇ましい」し、格好良くもある。しかしながらこのような賭け方はコロガシと同様のマネーマネージメントであるので、実は非常に率が悪いことを肝に銘ずるべきである。「勇ましいバクチ打ち」(from麻雀放浪記)は小説のヒーローにはなれるが、決して「勝者」にはなれないのである。

 では手持ちの資金を大きく増やしたい場合はどうすれば良いのか?この場合には、コロガすのではなく、1回の賭けで大穴を狙えば良いのである。競馬で言えば本命で3コロガシして資金50倍を狙うのではなく、50倍の馬券一発に賭けるべきなのである。ルーレットでも赤黒に賭けた人が置きっぱなしにする場合もあるが、置きっぱなしにするくらいならば最初から、6倍の賭け方にすれば良いのである。

 くどくなったがポーカーのサテライトトーナメントに参加する場合に気をつける点はもうおわかりのことと思う。あなたが平均的なスキルしかもっていないのであれば、「Step数の多いサテライトトーナメントに予選から参加するべからず」ということになる。例えば予選の参加費が$10,決勝の参加費が$200であるとすれば$10の予選に20回参加するより$200の決勝に1回だけ参加した方が有利である。但し、これはあくまで平均スキルのプレーヤーにあてはまる話である。ポーカーの場合には技量の差によって期待値が大幅に変わってくる。この場合、話が全く変わって来る。(つづく)


サテライト型のトーナメントはおいしいのか(その2)

 今回は、上級者・アドバンテージプレーヤーにとってサテライトがおいしいのかどうかを考える。前回と同じ競馬での例題から
(例題)
4頭立てのレースが3つあり、いずれのレースでも、各馬のオッズは同等である。また控除率は25%であるとする。1着馬を2回に1回の割合で的中出来るエキスパートA、3回に1回の割合で的中出来る上級者B,4回に1回の割合で予想出来る凡人
が、次のそれぞれの買い方をした場合のpay out率はそれぞれどうなるか?

a) あるレースの単勝を100円買った場合。(配当は300円。)
b)最初のレースの単勝に100円賭ける。的中したら全額を2番目のレースの単勝に賭ける。これが的中したら3番目のレースの単勝に賭けるというコロガシを行った場合(前回の3)と同じ。配当は2700円。)

(答)
単勝を100円買った場合の平均的な回収額は
Aの場合300円×1/2= 150円
Bの場合 300円×1/3=100円
Cの場合 300円×1/4 =75円
これらを賭けた金額の100円で割って、pay out率は
A 150%
B 100%
C 75%

コロガシを行った場合、Aの成功確率は1/2×1/2×1/2=1/8
従ってAの平均的な回収額は
2700円×1/8=337.5円
B,Cについても同様にして平均的な回収額は
B については2700円×1/3×1/3×1/3=100円
Cについては2700円×1/4×1/4×1/4=42.2円
これらを賭けた金額の100円で割って、pay out率は
A 337.5%
B 100%
C 42.2%
となる。

 数字を見れば一目瞭然。前回、コロガセばコロガす程pay out率が低くなると書いたが、これはあくまでハウスエッジを乗り越えられない平均プレーヤーあるいは、ルーレットやクラップスなど技術に無関係なゲーム(pure chanceのゲーム)をプレーした場合であって、アドバンテージプレーヤーの場合には状況は全く逆となる。即ち、コロガせばコロガすほど劇的にpay out率が向上するのである。従って、上級者の場合にはレートの問題を除けばダイレクトバイインするのではなく、どんどん予選から出るべきであるということになる。
 なお、丁度期待値100%のプレーヤー(ハウスエッジを克服出来るプレーヤー)の場合には、コロガシを行っても行わなくても期待値の変動はない。この分岐点よりスキルの高いプレーヤーの場合は、スキルが高ければ高いほど急速に期待値が向上する。例えば例題の場合に、それぞれのレースで勝ち馬を的中出来る確率をp%とすると、b)のように3回コロガした場合の期待値は
    勝ち馬の的中確率     3回コロガしの期待値
   35%                115.8%
      40%                 172.8%
      45%                           246.0%
      50%                 337.5%
      55%                 449.2%
となる。上級者同士であっても、1回のレースでの期待値の差がコロガすことによって非常に大きく増幅することが見て取れよう。
 私見になるが、オンラインポーカーの非常に低額のサテライトに参加しながら、毎年のようにクルーズ招待やWSOP参加権等のビッグプライズを獲得してプレーヤーがいるのも、このような期待値の増幅効果に依る所が大きいと考えている。腕に覚えのあるプレーヤーは是非低額のサテライトに参加することを勧める。上の期待値の変化はあくまで架空の例であるが、上級者になると実際の期待値も160%程度はあるのではないかというのがいろいろなプレーヤーの戦績を見て判断した私の体感である。

 但し、前回示したように平均レベルのプレーヤーにとってはサテライト型トーナメントはむしろ期待値を低くする効果がある。従って自分の現時点での実力を客観的に冷静に見極めることは極めて重要である(シングルテーブルトーナメントで安定した利益を出せているかどうかが一つのポイントとなろう)。初心者の方が夢を買うためにサテライト型トーナメントに参加するのはもちろんGo aheadであるが、あくまで宝くじやキノを買っているという認識で参加しよう。多少きつい言葉で言い換えれば、アベレージプレーヤーヤーがサテライト型トーナメントに参加することは肝心のポーカーを戦う前のゲーム選択の時点で負けているのである。
 なおコロガせばコロガすほど良いのかというとそうではない。ポーカートーナメント固有の問題で言えば、サテライトを勝ち抜いた準決勝・決勝になるほどプレーヤーの平均スキルも上昇するという効果を考慮する必要がある。この意味では予選を勝ち抜いた者のみが次のStepに進める方式よりも、準決勝・決勝に直接参加(direct buy-in)出来る道を開いているトーナメントの方が相対的にプレーヤーの質がぬるいと考えられよう。この辺りの分析は以前awk氏が行っているので参考にされたい
また、一般論としてはコロガすことによって期待値は増大するが「リスク」(収益期待金額の分散)も増大するということも考える必要がある。リスクを考慮しつつ自己資金を出来るだけ増やすためのマネーマネージメントについては、別の視点からの分析が必要である。これについては機会があればまた述べることにする。



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