コンバージョン

蚕屋をアトリエと茶室にリフォーム

私どもの設計室のある埼玉県北部は、ごく最近まで養蚕が盛んだった。
蚕を「お蚕様」と呼び、時期が来ると家中蚕だらけで、人の寝る場もないほどで、
養蚕が盛んだった時代には、蚕専用の「蚕屋(かいこや)」があちこちに建てられ、
農家の貴重な現金収入源であった。

しかし、養蚕は時代の流れの中で急速に廃れ、見慣れた風景
だった桑畑の減少とともに、多くの蚕屋は納屋と化している。

その蚕屋を、現在の生活の要請に合わせ、1階を8畳の広間
のお茶室に、2階を アトリエにリフォームする改修を行った。


既存建物の様子


下屋瓦が波打ち、窓の雨仕舞も不充分 外壁は鉄板で、建物は無断熱 蚕屋の既存の階段は急だった
1階はひとつの空間、骨組みは大丈夫 2階もひとつの空間で窓が多い 基礎の不同沈下で建物が歪んでいた



改修後


入り口を見る

もとの下屋庇の部分にここだけ増築して、水屋への入口を設けた。

片引き戸の小壁を利用した飾り棚、戸を引き開けると、このように奥に水屋が見える。
広間の床の間と床脇

耐震補強も兼ね、ワンルームだった1階に間仕切壁を追加した。

壁仕上は、広間のみ半田漆喰とし、水屋などは漆喰仕上としている。
水屋を見る

維持管理を考えて、水屋の配管は腰板部分をライニングとして構造の土台を傷めないように配慮した。

水屋脇の物入れは、掛け軸など長物を入れるためのもの。
屋から入口を見る

水屋が手暗がりにならないよう、南の掃出し窓から光をもらうために、水屋の右手の壁は開けてみた。

奥には実用的な流し台を用意。背後の壁面には、襖を建てた奥行きの小さい道具入れを用意した。
1階アトリエ入口を見る

既存階段は急で上りにくかったため、奥多摩の桧材を入手して作り直した。

アトリエも含め、この建物の床板は、福島産赤松を24mm厚の縁甲板に加工し、オスモワックスで仕上た。
2階アトリエを見る

もとの小屋組みを見せて、天井は断熱材を入れたあと、杉板を張って仕上げた。

左の入口は作品庫へ、右は湯沸し場を経て階段へ。
湯沸かし部分の天井裏はロフトとして活用し、アトリエとひとつの空間で通した。
写真ではわかりにくいが、大工造り付けの書棚は、奥行きを斜めにし、サイズごとに本を分けて入れるようにしている。

床が光っているのは、引越しの際の養生ビニールシートが敷かれているため。
完成した建物の外観

外壁を取り替えたので、その際に断熱材を施工した。

屋根瓦は既存のままとし、屋内で断熱することにした。下屋の瓦は手を入れた。

既存のもみじを生かしたアプローチを整え、奥には蹲を設えた。