(資料)                                        平成16年5月11日
                                                      江塚経営研究所 代表
                                                         中小企業診断士  江塚 修
  

  中小企業の財務体質改善を図るための7つのキーポイント 

 最近発表される統計資料や諸指標には、わが国経済の緩やかな回復傾向を確認するものが増えています。中小企業経営も今までの後ろ向き処理や守り重点の経営姿勢から、積極的な経営展開に舵を切り替える時期になってきたと思われます。
 中小企業の経理部門についても、これからは積極的経営展開に対応する必要性が増大してきます。景気低迷の期間、中小企業経理部門は「資金繰り対策」や「金融機関対策」に奔走し、合理化や部門改革は不十分でした。これからの前向きな経営展開に対し経理部門が守りの姿勢の場合、企業成長や競争の大きな足かせとなる可能性が出てきます。
 景気の大きな転換点である現在、経理担当者は遅れ気味の部門改革や合理化を早急に推進する必要があります。今後想定される金利上昇や新たな資金調達実施に向け、本稿では、経理部門で比較的容易にできる資金繰りや財務の改善策など経理部門改革「7つのキーポイント」を特集しました。

 経理、財務をとりまく環境の大きな変化

  不良債権問題で萎縮していた金融機関も、自社ビジネスチャンス拡大に向け新たな融資戦略の導入をはじめています。これにより優良企業へは積極的な融資が行われ、優良企業を中心に各業界は厳しい競争環境になると思われます。
以下、環境変化に伴う中小企業への影響をピックアップしました。
(1)金利上昇の懸念・・・景気回復本格化により長期金利を中心に金利上昇懸念があります。現在の低金利と比較し、支払利息が倍以上になる恐れもあります。
(2)銀行の企業選別強化・・・銀行の取引条件格差が広がります。「優良企業には優遇金利、一般企業は高金利」との差別化が進み調達余力も企業間格差が拡大します。
(3)業界競争の激化・・・「勝ち組」企業が金融機関から高い評価を取得し、潤沢な資金と低コストを武器にシェア競争に走り、業界に一層厳しい競争環境が生じます。
(4)競争激化による内部コスト削減要請・・・価格競争が一層激化し、素材の価格上昇圧力でコスト削減企業が競争優位になります。

 資金繰りと財務諸表を改善する7つのキーポイント

ポイント1 「集中」の推進

   資金繰り改善の一番のキーワードは「集中」です。中小企業にとって「分散」による非効率は禁物です。経理関係は、思い切って何でも「集中」しましょう。
(1)決済の集中
 経理で最も管理を要するのは「資金決済」であり、口座残高の効率管理は熟練と経験が必要です。また、決済資金が分散管理された場合、資金も労力も数倍かかり不渡りリスクまでが増大します。従って、決済(=支払い場所)は「集中」させる必要があります。
 企業では過去の経緯で支払い場所が分散しています。取引先のご理解を得て支払い場所を一箇所に集中させましょう。支店・営業所の決済資金、公共料金、リース代金決済、その他支払いなどをリストアップし、メイン銀行に集中させましょう。
(2)預金の集中
 決済の集中とともに、預金は決済場所に集中させましょう(預金の集中)。かつては、「預貸率」といって融資の一部を預金に置かせる悪しき慣習が根強くありました。しかし時代は大きく変わり、金融機関の預金への執着はかなり低下しています。地方営業所口座や別口座なども原則「残高ゼロ」を目指しましょう。
(3)被振込の集中
 決済、預金の集中と同時に実施するのが「被振込みの集中」です。販売先からの回収を中心に、振込みは多くの銀行に分散して入金されます。販売先企業のメインバンク銀行などの関係もあって、この集中はなかなかスムーズに進みません。しかし、粘り強く取引先にご依頼し、被振込みの集中が実施できた場合は大きな成果が得られます。資金効率は大きく向上し、労力や人員の削減効果も大きいはずです。 

ポイント2 「先行借入」など借入の構造改革 

(1)早目の手配
 銀行借入れは、金融機関の立場を配慮して行動すると借りやすくなります。その一つは早めの手配です。今までより「一ヶ月早く」手配しましょう。賞与資金でも運転資金でも直前の申し込みは銀行が慌てますし、渋ります。早めに依頼し銀行に余裕と安心感を与えましょう。若干の先行金利が発生しますが、早めの借入実行で私たちも安心できます。
(2)「メリハリのある借入金体制」つくり
銀行が企業の借入金に対して心配するのは、「メリハリのない=不明瞭な」借入形態だからです。具体的には、「使途がはっきりしない」「返済条件がない」「使途をすり替えている」などです。私たち企業側からメリハリある分かりやすい借入形態にすることで、銀行に安心を与え、スムーズな借入体制に移行できます。具体的には次の4つです。
@納税資金、賞与資金、季節資金など「使途明解な借入」に順次切り替えましょう
Aメリハリのつけにくい長期資金は自治体制度融資を有効に活用しましょう
B割引手形は非メイン行に持ち込みし、メイン行の調達余力を拡大させましょう
C非メイン都銀のビジネスローンを活用しましょう
 BとCは非メイン行の活用ですが、重要な取引をメイン行に「集中」する手段です。都銀ビジネスローンは三井住友「ビジネスセレクトローン」など、各行とも無担保3年、3〜5千万円までのローンで一定条件にて借入が可能です。先行借入れとメリハリある借入れへの変更で、資金調達の余力を拡大し余裕ある資金管理が可能になります。

ポイント3 営業の取引条件見直し

(1)売掛金の見直し
売掛債権の早期現金化が資金繰り改善のもう一つのキーポイントです。売掛先はお客様でもあり、この見直しは簡単ではありません。しかし、営業部門の言い訳ばかりでは資金繰りは窮屈になるばかりです。全社的に「早期回収の仕組みづくり」への取組みを実施すべきです。「早期回収」を朝礼の合言葉にする、会議などで常にチェックする、早期回収に強いインセンティブをつける、など社内で意欲的な仕組みを検討してください。
(2)買掛金の見直し
買掛金を少し長期化すると手元資金に余裕がでます。既存の仕入先で交渉が難航する場合は、新規業者と競わせるのが手っ取り早いでしょう。
(3)その他支払いの見直し
文具や雑費などは、購入先を絞り込みすることによりスケールメリットと支払い期日延長を図りましょう。延長した分、資金繰りは楽になるはずです。

ポイント4 流動性資産、負債の圧縮

(1)現預金の圧縮(定期預金削減)
中小企業では、いまだに固定預金を多く保有し借入金と両立させています。低金利の時代はともかく今後は支払利息が収益を圧迫します。財務体質改善のため、固定預金は最小限にまで圧縮しましょう。しかし、単純な解約は銀行が抵抗します。銀行は顧客の返済リスクのヘッジのため定期預金を置かせています。「同額の借入金返済」であれば、銀行も了承するケースが多いはずです。借入金返済するための定期預金解約ということで、銀行と相談してみましょう。預金圧縮は借入金支払利息の大幅軽減になり、資金繰りと自己資本比率が改善し、企業格付け改善にも寄与します。
(2)営業債権の圧縮
営業債権圧縮は、資金繰り改善に直接つながります。ポイント3の売掛金現金化も圧縮策のひとつですが、その他の未収金などの圧縮もチャレンジしましょう。
(3)在庫削減チェック、在庫増加への警鐘
在庫削減は、企業にとって永遠の命題です。とくに景気回復過程では在庫管理が甘くなり資金圧迫することもあります。経理部門は先手を打ち在庫チェックを実施し、無駄な在庫保有のないように社内に警鐘を鳴らしましょう。とくに甘い売上予測により製品を過剰在庫することのないように、社内会議などにてチェック体制を敷きましょう。
(4)その他勘定の大掃除
流動資産のうち、長期に計上されている勘定で、請求すればすぐ回収につながるものも結構あるはずです。財務部門が一度点検し、資金繰り改善につなげましょう。

ポイント5 不要不急資産の整理

(1)急がない資産、会員権の売却や退会
株式や不動産が市場でやや売りやすい状況になってきました。「不要不急」資産を出来る限りオフバランス化するために、売却を検討しましょう。ゴルフ会員権や頻度の少ない会員制厚生施設もその対象です。ただし、売却損の事前検討が必要です。
(2)固定資産の兄弟会社などへのシフト
総資産圧縮策として、動産・不動産の別会社シフト(売却)があります。外部に売却することの出来ない物件などは、兄弟会社などに売却して保有させましょう。資産効率も向上するケースが多いようです

ポイント6 役員との貸借関係の見直し

(1)自己資本の強化→代表者からの貸付勘定の資本化
代表者が会社支援するために、「借入金」「未払金」「買掛金」などの勘定で会社に貸付している場合、その資金を資本金に振替えることで自己資本比率が大きく改善します。また、月々の支払利息も軽減され資金繰りも改善します。(配当金負担は増加します)
この方法で自己資本比率を向上させた場合、銀行の企業格付けにもプラスとなるため、銀行からのメリット(融資や金利優遇)を享受できる場合もあります。
(2)代表者などへの会社からの貸付の銀行借入へのシフト
前項とは逆に、会社が代表者に貸付けている場合、代表者が銀行ローンなどを借入れすることで会社貸付を返済すれば資金回収され総資産削減にもなります。 

ポイント7 意欲的なアウトソーシング

(1)退社社員の後継者は「派遣社員」へ
派遣に関わる法律改正などで、派遣社員の質が大きく向上しています。人件費削減策の推進のために、退社社員の後継者を派遣社員で可能かどうか検討してみて下さい。管理者やコアの業務の人材は社員の募集が必要ですが、その他の人材は派遣社員による補充でも良い場合が多いようです。
(2)非効率業務や事務は外部委託へ
社内における非効率業務は、外部業者への委託を検討してみましょう。具体的には、郵便物発送事務、伝票整理事務、検品業務、運送業務、管理業務、経理事務などです。 

経理担当者が「勝ち組」を決める!

(1)これから3年間は「経理主導」の時代
経理部門は、90年代前半から長い間アゲンストな状況がつづきました。我慢と忍耐で会社の金庫を守ってきたとも言えます。景気回復傾向の現在、これからは「経理主導」の時代が始まります。経理部門が積極的に資金繰り改善し資金創出などの努力を実施することで、積極経営が成り立ちます。これからの会社の主役は経理部門なのです。
(2)経理担当者は、「経営者」
 「7つのキーポイント」を実践すれば、資金繰りや財務諸表は大きく改善します。業界競争の「勝ち組」になる資金的なバックアップをするのは、まさに経理部門、経理担当者です。その意味で、経理担当者は「経営者の一員」との認識で行動する必要があるわけです。経理担当者がこの数年間の「勝ち組」をきめる、と言っても過言ではないのです。