特定局勤務最後の日

いつの間にか、月日は流れ、特定局で過ごす最後の日となってしまっていた。

ここでは、本当にいろんなことを教えてもらった。自分が採用になった部会をとうとう今日去ることになった。寂しい気持ちでいっぱいだ。泣き出してしまいそうになる。新しい世界へ向かうのはこんなにも不安なことだったんだっけ?明日からのことを思うと
心が不安で押しつぶされそうになる。感傷的になってしまう自分がいる。

一週間ぐらい前から、ずいぶん荷物の整理をしてきた。仕事が終わってからの時間や昼休みを使って。

ここの局に私は何年いたのだろう。振り返ってみたりもした。荷造りの手が止まる。ぼんやりとしてしまう。想像以上にたくさんの思い出が、走馬灯のように脳裏に浮かんでは消えていく。

中堅科訓練に行くことに決まって、そして、今日まで、ほんとにあっという間だった。ものすごく不安な毎日を過ごしてた。訓練入ったら、休み取れないだろうからと、私の休みを優先してくれた。そういった心遣いが、すごくありがたかった。でも、もう出て行く人間なんだという空気がすごく切なかった。

いつもと変わりない日常。でも、明日から私はここの局の人ではない。次に来るときはお客様扱いなのだろうな。そう思うと無性にさびしい。

私がしてきたこと、毎日のこと。私のお客様たち。私についてくれたお客様たち。そういった方々をきちんと引き継いでくれるのだろうか?今まで自分がやっていたことを今度は誰が変わりにやるのだろうか?不安は尽きない。

でも、誰かが言った言葉が頭の中にこだまする。ここで聴いた言葉ではないのだけれど。

自分がやってきたことは、自分だけにしかできないわけじゃない。いつかは必ず、ほかの人が取って代わることになる。自分だけにしかできないなんて思うのは、驕り。そう、自分だけにしかできないなんて思わないで。だけどね、あの人がいろいろやってくれたんでよかったよって言って貰うことはできるよね。

ほんとそうだね。今ならそう思えるよ。でも、当時は、そうは思えなかった。自分が一番たくさんお客様に営業のこえかけしてると思っていたし。奢っていたのだと思う。いろんなことを知らなかったがゆえに、いろんな面で突っ走ってしまっていた。自分がすごくがんばってるって思ってた。局長にかわいがられていたってのもあるし。先輩方といろんな部分でぶつかったし。だからこそ、先輩たちにすごく失礼なこともしてしまったし。かわいくない後輩だったと思う。私の早とちりからとんでもない失敗をやらかしてしまったこともいっぱいある。でも、私をせめることなく、もくもくと事後処理をしてくれた。そんな先輩方に感謝の気持ちでいっぱいだ。

性格は、絶対に合わないし、価値観も違うから、仲良く食事をしようとは絶対に思わないし、今でもそれはかわりがないのだけれど。あの方々にとっては、私は目の上のたんこぶでしかなかったかもしれない。ほんとに、早くこいつが異動してくれないかと思っていただろう。私は人を振り回してしまうタイプの人だし。でも、ここの局で仕事ができたことでいろんな意味で、よかったのかなって思う。

オフィス街で、郵便関係はものすごい取扱量があるのに、総合病院のそばだったから、来る客来る客みんな病気もちで、説明しても保険に入れない人が多くて、保険の成績は部会内でも最悪な局だった。私がここの局にいた間、ほぼ毎日、保険金請求処理や貸付の処理をしていたように思う。新規申込は、ほとんどなくて、預かり書を切ることがあると、復活申し込み。そんなんばっかだったな。おかげで、業務知識を広げることはできたけど。

ここの局で仕事ができたこと、そして、ここで出会った全ての人々に感謝してます。私の仕事のやり方は、やっぱりここの局で形になったのだから。当時の私、今思えば、すごく失礼なやつだ。今でも変わっていないけれど、今は少しは大人になったから、今なら仲良くできるかもしれない。
局を出たのは、19時過ぎのことだった。ほかの人々は、仕事は終わっていたけれど、打ち合わせをしていた。

うちの局、保険の成績が連絡会でもワースト10に入るぐらいのとこだったから、保険理事と保険の指導官が、今後の営業に当たる姿勢について、説教しに来てたんだ。今日は、私のここの局での最後の勤務日。名残惜しくて、でも、みんな、打ち合わせ中。とても、話しかけられない。私はもう、ここの局の人間でなくなるのだから、この打ち合わせ会には参加しないことになっていて、蚊帳の外だった。

さみしいな。

でももう、すべきことは片付いた。荷物も送ったし、ロッカーも空にした。お客様名簿も引き継いだし、やることはない。後は帰るだけ。でも。。。。名残惜しくて立ち去れない。

手紙を書いてみた。メモ用紙に。
私の後に決まった人あてに。
そして、私のもう一人の後輩あてに。

ここの局は、部会内でも特殊な局。保険の成績が管内トップクラスの部会なのに、うちの局は保険の成績すっごい悪いし、窓口は半端なく忙しい。個人主義だし、つらいことも多いと思う。それに巡回から固定になればつらいことも多いと思う。でも、がんばって。私は出て行く身だから、助けてはあげられないし、頑張ってしか言えないけれど。

そんな感じで、手紙を書いて、ロッカーの隙間から差し込んだ。そして、かえることにした。

研修所に入ってしばらくしたころ、局長から携帯に電話がかかってきた。私は、後からミスが出てきたのかと、『ぎくり』とした。

君がいたときに説明していたお客様が、君あてに来局され、保険に入ってくれた。局長はそうおっしゃった。なんだか無性にうれしかった。ああよかったと。募集手当がほしいんじゃない。(もちろんもらえるならほしいけれど)そうじゃなくて、なんていったらよいのだろう、、、、自分が説明していたお客様が、自分がその局を去った後、自分宛にきてくれたことがとってもうれしかったから。私が撒いていった芽が、実を結んだのかなって、そう思えたから。
(2003.4.20)