「絶対僕って報われてないと思わないっ?!」



・Kissの定義・



 ハウルに心が戻って城の修復も終わり、一段落したある日のこと。


 久しぶりにゆっくりとした時間がとれた午後の一時、みんなで紅茶を楽しんだ後。
 ヒンと共に遊び疲れたマルクルがソファで丸くなり、それを見守るように〈元〉荒れ地の魔女たる女性が暖炉近くの椅子に腰掛け、そのままうたた寝を始め・・・カルシファーも午後の散歩と称して城の外へ出かけていったその時。


 台所で後かたづけをしていたソフィーのもとへ珍しく手伝いを買って出たハウルが、何かの拍子に言った言葉が冒頭のそれである。
 かなり勢いよく出たその言葉に、言われた本人であるソフィーは一体何が報われないのかわからないままハウルの言葉の先を待った。
 生憎と、彼の言葉の先は待ち時間を伴うことなくするするとソフィーの耳に入ってくる。
 「だってさ、僕が一番最後だったんだよ?これって由々しき事態だと思わない?だからソフィーには責任とってもらわなきゃ!」

 耳に入ってはきたのだが、いわれている内容が当の本人であるソフィーには解らないままで・・・。
 「何を言いたいのかよく分からないわ、ハウル?」
 理解できない自分が悪いのか、理解できない言葉で話す相手が悪いのか・・・とぼんやり考えながら、それでも食器を洗っている手は休めることなくソフィーが疑問を切り出した。

 「・・・そうか、ソフィーにとってはその程度のことだったんだね・・・残念だよ。
 僕、落ち込んでしまうよ?ああ、なんて残酷なんだろう、僕の恋人は!!」

 作業しながらのソフィーの言葉に、殊更大げさによろめきながらハウルが答える。
 ソフィーの方はといえば、よろめいたハウルよりハウルの最後に言った〈恋人〉というその単語に対して免疫が出来ていなかったのか、顔を真っ赤にして作業の手をストップさせてしまった。
 危うく皿を一つ割る瞬間を何とか無事にクリアし、自分の横に立っている魔法使いを見上げる。
 頭一つ分高い位置にある彼の視線に自分のそれを合わせて、「今の言葉の意味は何なの?」と視線で訪ねると「わからなかったのかい?」と呆れながらハウルが続きを答えた。

 「僕たち恋人同士なんだよ?!なのに何で僕がソフィーと一番最後にキスしなきゃなんないのさっ?!」
 「・・・は?」
 「もう、こうなったらこのあとに埋め合わせしてもらうしかないよね?ああ、数がどうとかっていう問題じゃないんだよ。こう、気持ちの問題っていうかさぁっ!・・・なんて言って良いんだろう。とにかく今のままじゃ、僕の気持ちがおさまらないんだよ。」

 だから〈キスをしよう〉、と・・・。

 作業がストップしたまま思考まで止まってしまったソフィーの唇に、ハウルのそれが近づいてくる。
 ふいに暗くなった自分の視界に気が付くと端正な青年の顔が近づいてくる。「何を・・・?」と思う前に唇は暖かさとハウルの情熱をしっかりと感じていた。
 その暖かさが急速に熱くなり、そのまま彼女の身体全体を朱に染めるにはさほどの時間はかからず・・・。

 バチン!

 と、勢いよくなるはずだった掌の音はすんでの所で空を切り反対にしっかりとその腕を捕まれた。

 「ダメだよ、ソフィー・・・昼間から。みんなが起きるじゃないか。」

 それはこちらの台詞だろう、と胸を張って言えそうなことを、仕掛けた張本人が耳元で低く囁く。
 「・・・順番って・・・何のこと?」
 「とぼけないで。この間の事だよ?僕に心臓が戻ってからさ・・・カルシファーにキスしてただろう?後で聴いたら、その前に、魔女のばあちゃんやかかしのカブともしてたって言うじゃないか・・・それでいったら僕、最後にキスしたことになる・・・」
 「それで?」
 「恋人の僕がソフィーとキスをしたのが一番最後だったことがショックだったからさ、報われないなぁ〜って。」
 「・・・・・・」

 「だから、いっぱい、恋人の、キスをしよう・・・。これからもずっと。」

 本当は言いたいこともたくさんあるのだけれど・・・。
 そんな決め台詞と極上の笑顔を至近距離で向けられたら、言いたいことも言えなくなってしまう。
 とりあえず、誤解だけは解いておかなければ・・・とソフィーはハウルに向きあった。
 「あのね、ハウル」
 「何?」
 「貴方誤解しているみたいだから、訂正しておこうと思うのだけれど・・・」
 「誤解?僕が?・・・何を?」
 ソフィーの言葉にそんなことはないはずだ、と自信たっぷりにハウルが続きを促した。
 そんなハウルにソフィーの答えは意外なモノで。

 喜んで良いのやら、悔しいのやら・・・。


 「私が最初にキスをしたのは、貴方よ?ハウル。」


 忘れるはずもない。

 傷だらけになって待っていてくれたあの姿を。
 過去から帰ってきた自分を、待ってくれていた現在の貴方を。
 扉を開いた時に貴方があそこにいてくれた、あの喜びを。

 忘れられるはずがない。

 貴方は覚えていなかったようだけど。


 ソフィーの言葉に今度はハウルの行動がストップする。
 今まで自分が知らなかった事が解って。

 (でも、だって魔女のばあちゃんはそんなこと教えてくれなかったじゃないか!!)
 その場にいたのが当人達と犬一匹だったというソフィーの説明をすっぱりと聞き逃し、ハウルがその事実に狼狽える。
 捕まれていた腕の力が弱まったことでやっと動きがとれるようになったソフィーは、自分が伝えたことでハウルの行動が止まってしまったことにどうしたものやら・・・と考えてみる。

 (ハウルにとっての私は〈恋人〉になるんだ・・・)

 結局行き着いたところはその一点で。
 自分がハウルを好きなんだという自覚は多分に持っていたけれど、ハウルもそう思ってくれていたのだということがとても嬉しくて。
 その所為でこんな行動をとったのだと思ったら、おかしなモノで怒る気も失せてしまったのである。

 「ねえ、ハウル・・・」
 「何だい、ソフィー。」

 多少行動が戻りかけたハウルが、ソフィーの呼びかけにのろのろと答える。
 その仕草がなんだかとても可愛いくて、ソフィーの口元も自然と緩んでいく。

 とても自然に。

 ソフィーは自分の唇を啄むようにハウルのそれに重ねた。
 「ソフィー?」

 びっくりしたハウルにとびきりの笑顔でソフィーは答える。


 「大好きよ、ハウル!」


 だからさっきのKissは大目に見てあげる。
 本当だったら、こんな昼間にあんなことしたらしばらく許してあげないんだけれど。
 耳元で囁くなんて反則技、恥ずかしくてほんとにびっくりしたけれど・・・。


 ねえ・・・?
 ハウル?

 これからも「恋人」のKiss
 たくさん してくれる?





itaroさんから誕生日プレゼントに頂いちゃいました。
確かにキスの順番、私も気になっていましたー(笑)
でもこの作品を読んで「確かにハウルが一番だ!」と改めて実感。
やっぱりソフィーはハウルが一番なのですねvv
そしてハウルのヤキモチっぽい所も萌えで…。
最高なハウソフィを、思いっきり味わわせていただいちゃいました♪
itaroさん、素敵な小説本当にありがとうございましたー!

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