小さな邪マモノ





 夕飯も終わり、皆が寝静まり始めた静かな夜。

 1日の家事がようやく終わったのか、ソフィーは小さくふぅ…と溜息をついた。


 窓の外に目をやると、少し曇っているのだろうか月明りが見えずに。

 思わず首を傾げてみせる。 
 

 と、その時。

 ソフィーはカルシファーの手元にある薪が、残り少ないことに気がついた。


 そこでソフィーは、暖炉に近づき薪を何本か置いて。

 カルシファーに言葉をかける。


 「おやすみ、カルシファー」

 
 するとカルシファーは、薪の間から僅かに顔を覗かせて「おやすみ」と眠そうに呟いて。


 そのことにソフィーは、思わず小さく微笑んだ。


 「ヒン、私達もそろそろ寝ましょうか」 


 するとヒンが、小さく吠えることで答えて。

 しっぽを振りながら近づいてきた。


 後は、部屋に戻って昼間マルクルが破いてしまったズボンの繕い物をして終わり。

 そんなに派手に破けていなかったから、きっと半刻もすれば終わるだろう。


 そんなことを考えながら、ソフィーはいつも一緒に眠っているヒンを抱き上げた。

 手に、柔らかい毛並みを感じて。


 そして、自室の扉へ向かおうと足を向けた。

 と、その時。


 「ヒンがちょっと邪魔かな」
 突然、背後から聞こえてきた低い声と。

 髪に感じる、優しい吐息。


 近づく―――――――――体温。


 「ハ……ハウルっ?!」


 一瞬何が起きたか分からなかったソフィーは、小さく声を上げた。

 対するハウルは、あわてて振り向いたソフィーに優しく笑顔で返して。


 もう一度、額にキスをする。


 「ソフィー、たまにはヒンとじゃなくて、僕と一緒に寝ようとは思わない?」   
 
 「…………!」


 その言葉に、ソフィーはますます言葉を詰まらせた。

 みるみるうちに、顔は赤く染まっていき。

 口をぱくぱくと動かす。


 しかし。
 
 そんなソフィーの反応を黙って見ていたハウルだったが、次第にクスクスと笑い出して。


 「か…っからかったわね、ハウル!」


 そんなハウルの態度を見て、堪らないのはソフィーである。

 顔を赤くしたまま、睨むような視線を向けた。


 しかし。

 今まで笑っていたハウルが、その言葉に一瞬驚いたような顔をして。

 かと思うと、優しく微笑みながらソフィーの顔を覗き込む。


 「からかってなんかいないさ。僕はいつだって本気だよ」


 そう言って、ハウルは自分の部屋へと続く階段へと向かった。
 
 そのままトントンと音を立てて、階段をゆっくりと上っていき。


 そして、もう少しで上りきるといったところで、なぜかピタリと足を止めた。

 そのまま――――――――呟く。


 「ソフィー、繕い物が一段落したら僕の部屋においで」

 「………っ!」


 そう言ったかと思うと、明らかに軽快気味な足音が次第に遠ざかっていった。

 しばらくして、二階の奥の方でバタンと扉の閉まる音がする。


 「………な………え?」


 後に残るは、階下でヒンを抱きしめたまま顔を赤くするソフィーの姿。


 さきほどの言葉を発した時のハウルの顔が見えなかったせいか、いまいち実感は出来ないけれど。


 でも、確かに。

 確かにハウルは「おいで」って。


 ど…っどうすればいいの〜〜〜〜っっ?!!


 そのままソフィーは、ヒンを抱きしめたまま、とりあえずその場に30分ほど固まるしか術はなかったのだった。



 窓の外はいつしか雲が晴れて。

 淡い銀色の月明りが覗く。



 結局。

 ソフィーがその後どういった行動を取ったのかは、また別の話。