ARARA - 4
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雲景のあららARARA
2008年10月1日(水)
あららARARA 清少納言は、いけばな人だった?
平安時代の 『枕草子』 の作者、清少納言といえば、「をかしの文学」と言われるほどに、
「をかし」 の言葉が文中に多用されている。
「をかし」 とは 「趣がある ・ 味わいがある ・ おもしろい」 と言う意味であるが、
「いと をかし」 となれば、「たいへん趣がある ・ とてもおもしろい」 になる。
当時の宮殿の生活で、清少納言が大きな瓶を運んだり、5尺のさくらを切ったりしたとは
思えないが、少なくとも 「いけばな人の眼」 を持って、文章を書いていたことに驚く。
植物の出生 (しゅっしょう) にまでわたる細やかな観照の眼は、草木の姿や、花の色までも
行間に滲み出させて眩い。是非とも、ゆっくりと原文を味わって頂きましょう。
二〇段 清凉殿のうしとらの隅の
清凉殿のうしとらの隅の・・・・・、勾欄のもとに、青き瓶の大きなるすゑて、桜のいみじく
おもろしきが、五尺ばかりなるを、いと多くさしたれば、勾欄のもとまでこぼれ咲きたるに、
昼つ方、大納言殿、桜の直衣の少しなよらかなるに、濃き紫の指貫、白き御衣ども、うへに
濃きあやの、いとあざやかなるを出して参り給へり。・・・・・
- いけばなの「場」の設定。
- 花器の選択。瓶と花材の色調や大きさの調和。
- 山桜の一種生け。染井吉野は江戸時代の改良種。
- 枝取り。枝選び。
- 花材の寸法。150cm位 (一尺=30.3cm)
- いけばなの大いけ。大きな瓶との量感の調和。
- あらら、風情のある見事な情景描写です。
匂欄のもとに、
青き瓶の大きなるすゑて、
桜の
いみじくおもしろきが、
五尺ばかりなるを、
いと多くさしたれば、
匂欄のもとまでこぼれ咲きたるに、
五十八段 草の花は
・・・・・萩はいと色深く、枝たをやかに咲きたるが、朝露にぬれてなよなよと広ごり伏したる。
さを鹿の分きて立ちならすらむも心ことなり。唐葵は、取りわきて見えねど、日の影に随ひて
かたぶくらむぞ、なべての草木の心とも覚えでをかしき。花の色は濃からねど、咲く山吹に。
岩躑躅も殊なることなけれど、「折りもてぞ見る」と詠まれたる、さすがにをかし。さうびは近くて、
枝のさまなどはむつかしけれどをかし。・・・・・
『枕草子』の中で最善とされる
「伝能因所持本」を底本とする。
「いけばな」は、かたちを整えて室町時代から始まった、と歴史的には証されているが、
それ以前の平安時代に、宮殿では明らかに観賞のためのいけばながあった。文章を
分析すれば面白く、注目に値する。
いと色深く - 紫の色がとても深く
たをやかに - しなやかに
広ごり伏したる - 広がって伏しているのは趣がある
さを鹿 - 雄鹿 「さ」は接頭語
分きて - 特に
立ちならすらむ - 雄鹿が萩にちかよる
心ことなり - 特別の感じがする
唐葵(からあふひ) - ひまわり
取りわきて見えねど - とくべつに趣があるとは見えないが
咲く山吹に - 山吹に劣らず趣がある
さうびは - ばらの花は。さうびは「薔薇」と書く
近くて - 近くで見ると
むつかしけれど - 気に入らないが
清少納言の自然観照の眼をお読みいただきたい。
「いとをかし」のいけばなでありたい。