ARARA - 21-97

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雲景のあららARARA
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あららARARA Web劇場ー名前の検索



SS流の不祥事が起こってから一年が経過した。
講師を迎えての実験道場は何事もなかったかのようにつづいている。
メンバーたちは、SS流については口を噤んだままだ。
雲景にとっては重大事件であっても、ホームページを持っていない人には重大な事では
ないのかもしれない。それともかん口令を破れば、そのリアクションが恐ろしくて沈黙して
いるのでしょうか。

今月の講師は雲景が会いたかった女性のT先生だ。
昨年の東日本大震災のチャリティいけばなライブを拝見してから、その思いは深まっていた。

会場の床には厚手の白い布が四角く凹凸に敷き詰められている。
中央には花の大きな 赤い「まる」 。日本の国旗のようだ。
上下ともに白い衣装のT先生の頭には白いターバンがまかれていた。
白装束の作者が、大きな国旗の上に、両手ですくい上げた宮城米を静かに落として行く。
何度も何度も、静かに。
白い米粒はサラサラと慈雨のように降りそそいで、小さなお米の山が日本の国旗のあちら
こちらに盛り上げられていく。作者の動きやお米の動きそのものが作品になって溶け込んで
いくさまを、雲景は息をころして見つめていた。
無言の所作には、静寂のなかに、ミレーの「落穂拾い」や「晩鐘」の絵を見ているような
祈りが感じられた。

2012年1月28日。
今晩のT先生の教材は、金盞花(きんせんか)10本、レザーファン5枚、雪柳2本だった。
表現も自由、花器も自由だ。
金盞花10本は、蕾や葉がたくさん付いていて、かなりのボリュームがあった。
どの花材をみても取り立てて珍しいものではないが、金盞花に最近は親しみをおぼえていた。
切りもどせば分枝もよく、栽培にも長持ちするので仏壇の花のなかに含まれることが多いその
せいなのか、いけばなの花材としては人気がない。
よくみれば金盞花のオレンジ色には日本的な安らぎがある。いけばなとしての利用価値が
もっとあるのではないかと思っていたところに金盞花がでてきたのでうれしかった。
名前の由来も、黄金色の花のかたちが盞(さかずき)に似ているからと聞けば、好きになる人も
増える。

教室のとなりの倉庫にはいってから考えた。
チャリティ ライブの印象をひきずっていたので、剣山にさす普通の挿法はさけたかった。
棚にならんだ花器のなかから選んだのは外側が薄いクリーム色の深鉢だった。中は白い。
さて、さて、っと、これからどうしよう。
考える間もなく、身体の方が先に動いて、深鉢にはなみなみと水が縁際まで注ぎこまれた。
ここまでくれば挿法はひとつしかない。
主張するのはクリーム色の深鉢にあわせたオレンジ色の浮き花だ。

まずはレザーファンの茎先を底に沈めて、葉の面を水面にみせた。
葉の色と水を背景に、金盞花の色を粗にしたり密にしたりして挿していく。
雪柳の枝はまだ蕾がかたくて粒粒だらけだった。わずかに咲いているちいさな白い花を
濃いグリーンのレザーファンの上に乗せて、鉢の内側の白色と対応させた。
植物をつかった絵画的手法にちかい。
T先生からは、金盞花の分枝している枝をもっと縦に足して変化をつけたら良いとアドバイスが
あった。

今晩は雲景が一番早く仕上がった。
気分を良くして活けた浮き花を見ていると、雲景の右肩背後から、黒い長袖の二本の腕が
雲景の顔のまん前にニュ〜ッ と出た。
突然あらわれた黒い腕は、なにごとだ! 姿は見えない。
両腕の先に持ったデジカメが、雲景の顔の前でシャター音を鳴らしたと同時に、二本の黒い腕は
すばやく引っ込んだ。

思いもよらない黒い腕とカメラの出撃にめんくらった。
驚いてふりかえると、黒い衣服の女が背をむけて雲景のもとから足早に去っていく。
こんな無礼な写真の撮り方をする人は今まで何処にもいなかった。他人が生けた花を資料に
したいのなら、それなりの礼儀があるでしょうに。

雲景の目は観察にかわった。黒い衣服の女の背中を追うと、雲景の席からかなり離れた後ろの
自分の席にもどった女の横顔がはっきり見えた。
こちらを見ることもなく、真剣な表情でまだ生け終わっていない自分の花に向かっていた。
○澤さんだった。


                            続く(編集未完)

                            いけばな界とWeb界に、善き栄えあれ。
どる
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