衛生学


健康
○健康の概要

1 健康をどう考えるか
(1)病気の反対の概念としての健康
(2)生活概念としての理想的健康像
 肉体的にも精神的にも社会的にも良い状態であることがWHOの健康の定義である
 WHOは健康はすべての人の権利であると唱えている

 WHO(世界保健機構)は、健康は身体的にも精神的にも社会的にも完全に良好な状態をいい、単に病気がないとか病弱でないということではない。
 到達し得る最高の健康水準を享受することは、万人の基本的権利であり、人種・宗教・政治的信条・社会経済条件のいかんを問わない事項であると述べている。
(3)環境適応能あるいは体力としての健康
(4)自己実現の手段としての健康
(5)自覚的健康と客観的健康
(6)身体障害者の健康
 WHOは1980年に次の3つのレベルを区別して国際障害分類することを提案した。
  ア インペアメント(機能障害・形態異常)
    角膜混濁・高血圧・下肢切断・血小板減少
  イ ディスアビリティ(能力低下)
    全盲であるために新聞が読めない
    下肢が切断されているためにサッカーができない
  ウ ハンディキャップ(社会的不利)
    視覚障害があるためにパイロットになれない
    聴覚障害があるために作曲家になれない

2 病気と健康−その連続性
(1)病気と疾病
(2)疾病の自然史
(3)疾病の予防
 禁煙は第一次予防である
 早期発見は第二次予防である
 予防接種は第一次予防である
 予防接種は第二次予防ではない
 動物性脂肪の摂取は脳梗塞の予防にならない
  ア 第一次予防
  (ア)健康増進
     生活環境の改善・適切な食生活・運動や活動の励行・適正飲酒と禁煙・ストレス解消
  (イ)特異的予防
     予防接種・事故防止・職業病対策・公害防止対策
  イ 第二次予防(早期発見、早期治療)
    健康診断(スクリーニング)・人間ドック
  ウ 第三次予防(悪化防止、治療及びリハビリテーション
    適切な治療・傷病進行阻止・理学療法・作業療法・機能回復訓練・日常生活動作訓練・言語療法・視能訓練・職業訓練・適正配置

○健康管理

1 健康管理
(1)健康管理の構成
(2)集団検診(スクリーニング検査)
  ア ふるい分け(スクリーニング)検査の有効性を示す4つのカテゴリー
  (ア)真陽性(検査陽性・疾病あり)F a
  (イ)偽陰性(検査陰性・疾病あり)F b
  (ウ)偽陽性(検査陽性・疾病なし)F c
  (エ)真陰性(検査陰性・疾病なし)F d
  (オ)疾病ありF a+b
  (カ)疾病なしF c+d
  (キ)検査陽性F a+c
  (ク)検査陰性F b+d
  (ケ)敏感度(異常者を正しく異常と判定する率)
   F a/a+b
  (コ)特異度(正常者を正しく正常と判定する率)
   F d/c+d
  イ 行政ベースの健康管理活動のライン
 一般住民の健康管理をするのは保健所の業務である
 自営業者は保健所の健康管理の対象者である
 環境衛生の監督省庁は自治省ではない

  (ア)地域保健(厚生省・保健所)
     一般住民・自営業・農業従事者・妊産婦・乳幼児・老人・保育園児
  (イ)学校保健(文部省・教育委員会)
     幼稚園児・児童・生徒・学生・教職員
  (ウ)産業保健(労働省・労働基準局等)
     雇用者・内職従事者・外国人雇用者

2 健康増進
「健康増進」の内容は、健康な食生活、日常の適度な運動、十分な休養とストレス解消、家族・友人・他人との友好的つきあいと思いやり、いつも心を明るく持つ、の5項目に要約される。

(1)運動・活動
(2)休養とストレス解消
「ひと仕事」の継続時間は50〜100分である。これを労働衛生では一連続作業時間という。
(3)飲酒
 飲酒は健康の保持・増進に役  立たない
(4)喫煙
 日本は成人男性の喫煙率が最も高い(ロシアを除く)
 喫煙は健康の保持・増進に役立たない
 喫煙による汚染で湿度は影響を受けない
 日本人の成人男性の喫煙率は昭和41年に83.7%と最高、その後徐々に減少し、平成3年に61.2%(女性14.2%)となったが、先進国の中では最高(男性喫煙率)である。なお、平成6年データでは男性59%、女性15%となっている。
 たばこの煙には、その吸い口からの主流煙とたばこが燃えている部分から直接空気中に立ちのぼる副流煙とがある。主流煙はいったん口で吸われて、大部分は再び口から出される。
 たばこの煙は、窒素・酸素・水素・二酸化炭素・一酸化炭素、その他の気体成分と、煙の粒子状成分とに分けられる。重量では気体成分が92%、粒子状成分が8%程度である。
(5)ソーシャル・ネットワーク=対人関係網

3 衛生行政
(1)保健所の機構
  ア 保健所の数
   保健所は「地域保健法」に基づいて人口10万人に1か所を基準に設置される。保健所を設置するのは、都道府県、43の政令市、東京都23特別区である。平成11年4月1日現在641か所で、都道府県が474か所、政令市が136か所、東京都特別区が31か所の保健所を設置している。
  イ 保健所の業務
 廃棄物の収集と処分は保健所の業務でない
 成人病の治療は保健所の業務でない
 保健所は騒音の監視は行わない
 労働衛生は保健所の業務内容ではない
  (ア)地域保健に関する思想の普及、向上
  (イ)人口動態統計、その他、地域保健に係る統計
  (ウ)栄養の改善、食品衛生
  (エ)住宅、水道、下水道、廃棄物の処理、清掃、その他の環境衛生
  (オ)医療、薬事
  (カ)保健婦、保健士
  (キ)公共医療事業の向上、増進
  (ク)母性、乳幼児、老人の衛生
  (ケ)歯科保健
  (コ)精神保健
  (サ)治療方法が確立していない疾病、その他、特殊の疾病により長期に療養を必要とする者の保健
  (シ)エイズ、結核、性病、伝染病、その他の疾病の予防
  (ス)衛生上の試験、検査
  (セ)その他、地域住民の健康の保持、増進

(2)市町村の役割
(3)関連機関の役割
(4)保健・医療・環境関係の法律
  ア 保健予防関係
    [明30]伝染病予防法
    [昭22]栄養士法
    [昭23]性病予防法・予防接種法
    [昭25]精神保健福祉法
    [昭26]検疫法・結核予防法
    [昭27]栄養改善法
    [昭33]調理師法
    [昭40]母子保健法
    [昭57]老人保健法
    [平元]後天性免疫不全症候群(エイズ)予防法
    [平6]地域保健法
    [平9]母体保護法

  イ 環境衛生関係
 学校保健法は環境衛生関係法規でない
    [昭22]食品衛生法・理容師法
    [昭23]旅館業法・温泉法
    [昭25]クリーニング業法
    [昭32]美容師法・水道法・自然公園法
    [昭33]下水道法
    [昭43]大気汚染防止法・騒音規制法
    [昭45]水質汚濁防止法・公害紛争処理法・建築物における衛生的環境の確保に関する法律(いわゆるビル管理法)
    [昭46]悪臭防止法
    [昭47]自然環境保全法
    [昭48]公害健康被害防止法
    [昭58]浄化槽法
    [平5]環境基本法
    [平7]包装ごみ法
    [平9]環境影響評価法

  ウ 医事関係
    [昭22]あん摩マッサージ指圧師、はり師、きゅう師等に関する法律
    [昭23]医師法・歯科医師法・保健婦助産婦看護婦法・歯科衛生士法・医療法
    [昭26]診療放射線技師法
    [昭33]臨床検査技師法
    [昭40]理学療法士及び作業療法士法
    [昭45]柔道整復師法
    [昭46]視能訓練士法
    [昭54]医薬品副作用被害救済基本法・角膜及び腎臓移植法
    [平3]救急救命士法

  エ 薬事関係
    [昭25]毒物劇物取締法
    [昭26]覚醒剤取締法
    [昭28]麻薬及び向精神薬取締法
    [昭35]薬事法・薬剤師法

  オ その他
 学校保健法は厚生省所管でない
    [大11]健康保険法
    [昭22]労働基準法・児童福祉法
    [昭23]労働者災害補償保険法(労災保険法)
    [昭24]身体障害者福祉法
    [昭25]生活保護法
    [昭29]学校給食法
    [昭33]国民健康保険法・学校保健法
    [昭35]じん肺法・精神薄弱者福祉法
    [昭38]老人福祉法
    [昭39]母子及び寡婦福祉法
    [昭47]労働安全衛生法(安衛法)
    [昭61]日本体育・学校健康センター法
    [平4]育児休業法
    [平6]介護休業法

4 医療制度と医療保障
(1)保健医療の専門職者
 医療従事者数が最も多いのは看護婦(士)である
 平成6年現在の医療従事者職種別総数は次のとおりである。
  ア 看護婦・准看護婦 86万
  イ 医師 23万
  ウ 薬剤師 18万
  エ 臨床検査技師 12万
  オ あん摩マッサージ指圧師 9万5千
  カ 歯科医師 8万1千
  キ はり師 6万6千
  ク きゅう師 6万5千
  ケ 歯科衛生士 4万9千
  コ 診療放射線技師 4万1千
  サ 歯科技工士 3万5千
  シ 保健婦 3万
  ス 助産婦 2万3千
  セ 柔道整復師 2万6千
  ソ 理学療法士 1万6千
  タ 作業療法士 7千7百
  チ 視能訓練士 2千7百
(2)医療施設とその連携
   医療施設は、医療法で病床数20以上を病院、19床以下を診療所と称している。医療はその機能から第一・第二・第三次医療に分けられる。第一次医療はプライマリ・ケアで、住民にとって最も基本的かつ重要な保健医療である。地域の第一線の医療機関がこれに相当する。小学校区程度の領域を担当する。第二次医療はプライマリ・ケアよりも専門化した医療で、一次からの紹介で必要な診療を行う。高等学校区程度の領域を担当する。第三次医療は第二次医療よりもさらに高度な診療を行い、都道府県全域を担当する。これらの医療圏域設定は昭和60年の医療法改正に伴う地域医療計画の策定による。

(3)医療保障
 老人医療制度では医療保険からの拠出金がある
 伝染病医療は公費医療負担が優先される
  医療保障は公費医療と医療保険を2本の柱にしている。公費医療は、税金によってまかなわれる医療であり、生活保護法による医療扶助(現物支給)、結核・精神病・伝染病などで強制的に入院させられる場合、難病などの特定疾患治療費に公費医療が適用される。医療保険は次の3つに分けられる。
  ア 被用者保険
  (ア)政府管掌健康保険(約3,800万人)
  (イ)組合管掌健康保険(約3,200万人)
  (ウ)各種共済組合  (約1,200万人)
  (エ)船員保険    (約   29万人)
  イ 国民健康保険   (約4,400万人)
 国民健康保険は被用者保険ではない
  開業医などの自営業者が保険組合を作って運営する場合もある。
  ウ 老人保健法による医療
 国民健康保険法は国民皆保険に関する法律である
  昭和33年に国民健康保険法が成立して、3年後の昭和36年には国民皆保険の状態となったので、70歳以上の老人も何かの保険に加入している。昭和57年の老人保健法で老人医療制度の確立が図られることになり、70歳以上の老人の医療費はその70%を医療保険の保険者が拠出して、後の30%を公費(税金)で負担し、老人は利用時に一部負担金を支払うという仕組みにした。

(4)国民医療費
   平成9年度の国民医療費は約29兆円、一人当たり
 年間医療費は23万円を超えた。年増加率は国民総生産増加率0.4%を上回って1.9%である。国民皆保険になった昭和36年以降、また老人福祉法により老人公費負担制度の開始された昭和48年以降、特に国民医療費が目立って増加した。人口の16%を占める65歳以上の人口が国民医療費の約47%を消費している。

(5)保健活動と医療の倫理

○食品と栄養

1 食品の意義と食生活
  昭和53年に策定された健康づくり10か年計画に関連して、昭和60年に厚生省から「健康づくりのための食生活指針」が出された。
(1)多様な食品で栄養バランスを
   1日30食品を目標に
(2)日常の生活活動に見合ったエネルギーを
   エネルギー摂取の評価方法として、標準体重指数、カウプ指数(乳幼児)、ローレル指数(学童)、ブローカ指数(成人)などがある。
(3)脂肪は量と質を考えて
   1日の摂取エネルギーに占める脂肪エネルギーの割合は一般成人の場合20〜25%、青少年や重筋活動者の場合25〜30%が適当とされる。欧米人の場合40%と高かった。日本人の平均%は上昇して、ちょうどよいところにある。動物性脂肪はコレステロールや飽和脂肪酸を多く含み、植物性脂肪と魚介類の脂肪は多価不飽和脂肪酸を多く含む。前者を多く食べ続けると血清コレステロールを上げ、後者は逆に動脈硬化を抑制する作用があるといわれている。
(4)食塩を摂りすぎないように
 日本人は食塩摂取過多である
  日本人の1日当たり平均食塩摂取量は12g前後であまり変化はない。厚生省は10g以下を目標として掲げている。
(5)三大栄養素
 ビタミンは三大栄養素ではない
  蛋白質・炭水化物・脂肪を三大栄養素と呼ぶ。この三大栄養素は生体のエネルギー源となる。なお、これにビタミンとミネラルを加えると五大栄養素となる。   ア 蛋白質  4.1kcal/g
  イ 炭水化物 4.1kcal/g
  ウ 脂肪   9.3kcal/g

2 食品と疾病
(1)日本人(20歳)の栄養所要量
 生活活動指数は肥満の判定基準ではない
  栄養所要量の算定は、基礎代謝、エネルギー代謝、生活活動指数、活動代謝量、特異的動作などによって行われる。
  ア エネルギー
    男 2,550kcal 女 2,000kcal
  イ 蛋白質
    男 70g 女 60g
  ウ カルシウム
 カルシウムは現代の食生活で不足しがちである
 我が国の栄養摂取状況でカルシウムは充足していない
    0.6g(唯一不足)
  エ 鉄
    男 10mg 女 12mg(若い女性は不足)
(2)必須アミノ酸
   ヒスチジン(乳幼児)・トリプトファン・リジン・スレオニン・メチオニン・フェニルアラニン・ロイシン・イソロイシン・バリン
(3)ビタミン類の機能と欠乏障害
  ア ビタミンA(脂溶性) 成長・発育・暗順応
  イ ビタミンB1(水溶性) 脚気
  ウ ビタミンB2(水溶性) 口角炎・皮膚炎・成長阻害
  エ ビタミンC(水溶性) 発育障害・皮下出血・壊血病
  オ ビタミンD(脂溶性) カルシウムとリンの吸収促進・骨の形成促進・くる病
  カ ビタミンE(脂溶性) 体内の過酸化物を中和し老化・発癌を防ぐ

3 食品加工と添加物
(1)化学的合成品の食品添加物
(2)化学的合成品以外の食品添加物
(3)添加物の分類
(4)食品添加物の安全性
(5)安全な使用量

4 食中毒
 患者の隔離は食中毒の予防対策にはならない
  伝染病に関係する以外の病原体によって汚染され、もしくは毒物を含んだ食品の摂取によって比較的短期間の潜伏期で健康障害を起こした場合を食中毒という。わが国では毎年3〜4万人であるが、昭和27年に食中毒の統計を始めてから最も患者数が多かったのは昭和30年の63,745人であり、うち12,344人が粉ミルクである。

(1)細菌性食中毒
  細菌性食中毒を感染型、毒素型の2つに分類する。
   ア 腸炎ビブリオ食中毒
 我が国の食中毒の発生原因は腸炎ビブリオが最も多い
 腸炎ビブリオは60℃程度で死滅する
 腸炎ビブリオは塩分を好む
 平成2年まで、最も患者発生数が多かった。感染型で、3%前後の塩分を含む培地でよく繁殖するので病原性好塩菌ともいわれる。熱に弱く、60℃前後で死滅する。潜伏期は、摂食後14時間前後である。
  イ サルモネラ食中毒
 平成3年以降、最も患者発生数が多い。感染型。潜伏期は摂食後20時間前後とされている。
  ウ 病原大腸菌食中毒
 大腸菌群は普通は非病原性の細菌であるが、イギリスで大腸菌の中にも病原性を持ち腸炎を起こす特殊な大腸菌があることが報告されてから病原大腸菌として注目されるようになった。潜伏期は12時間前後で、感染型である。
  エ ブドウ球菌食中毒
 ブドウ球菌による食中毒は食事後最も短時間で発症する
  エンテロトキシンという毒素を産生する。エンテロトキシンは加熱しても破壊されない。潜伏期は短く、3時間程度である。
  オ ボツリヌス菌食中毒
 耐熱性の芽胞をつくり、嫌気的に増殖し、土壌・家畜・魚等に分布する毒素型の中毒で、致命率が高い。

(2)自然毒性食中毒
  ア ふぐ中毒
 有毒成分はテトロドトキシン。
  イ きのこ中毒
 有毒成分はノイリン・ムスカリン・ファリン・アマニタトキシンなどである。
  ウ その他の中毒
 その他の動物性自然毒としては毒かます、貝類、植物性自然毒としては、じゃがいも、青梅などによる中毒がある。

(3)化学物質性食中毒
  ア 食品添加物による場合
    昭和31年、人工甘味料のサイクラミン酸塩(チクロ)が粉末ジュースの素に使われていた。
  イ 食品製造過程中の過誤混入による場合
    代表的なものは、昭和30年の砒素粉乳事件。昭和43年のライスオイルによるPCB事件(カネミ油症)などがある。
  ウ 農薬による場合

こうぎ

ジタバタ