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アニー物語
 (本誌2010年1〜5月号掲載)

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 わが国の雌牛総合指数NTPは1996年秋から公表されるようになった。93年夏に初産分娩したリードマン・アニーは第20位で初登場以来徐々に順位を上げ、最高10位に達した。同時にETで誕生した娘や孫娘の参入があり、05年にはアニー・ファミリーだけでNTPトップ100の26頭を占めるに至った。アニーが「NTPの申し子」と言われる所以である。その後10年にわたりNTP100傑の1割以上を占め、現在も4代目〜6代目が7頭ノミネートしている。92年春のリードマン・アニー導入以来、一族はETの恩恵もあり17頭の娘牛から8代目まで裾野を広げ、その数900頭を超える。EX級5頭、2万s突破7頭、12年間で75頭が候補牛となり晴れて供用された種雄牛は9頭。これらを支えているのは+1,283という全国平均の2倍半のNTPである。RCAの冠名のもと190頭近いアニー牛群を管理する富良野市南扇山、三好孝行さんと2人の後継者(正倫さん、史晃さん)に伺った。

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(1)アニー導入とNTP

〜孝行さんにアニー導入の経緯を。

 1991年11月、カナダ、トロントで開催されたローヤル・ウィンター・フェア参観の時です。私は午前中ボンドヘイブン牧場のディスパーサルで予てから希望していたロクシーの子孫を購入できワクワクしていました。その日の夜に行われたセール・オブ・スターズは見学だけのつもりで、広い会場の後ろの方のパイプ椅子に座り、案内役の野沢組福本氏とセールブックを眺めておりました。
 ページをめくっているうちに、『母牛はタンパクのワールドチャンピオン、父は売り出し中のリードマン』、という牛が目に止まりました。直感的に「これは面白いな」と思い、慌てて福本氏に競りをお願いしました。どんどん競り上がっているので1万jもやむなしと思っていたところ、8,500jでピタッと止まったんです。「落ちましたよ」と言われて、それから100頭以上いた出品牛の中からネックタッグを頼りにやっとアニーを見つけ出しました。その年の3月に生まれた子牛ですから肉付きも少なく、ひ弱な感じで、胴伸びだけはあるな、というのが初対面の印象でした。それで同行した積丹町の岩本勝男さんに共有をお願いしたところ快諾を頂いたんです。

〜ひらめいた最大の要因は何ですか。

 ヨーロッパでは既にタンパクに重きが置かれ、日本でもタンパクを重視した総合指数が検討されていました。日本はどちらかと言うと飲用乳主体ですが、ヨーロッパでは牛乳は運ぶのも大変だし、チーズにすれば長持ちし、何時でも取り出して食せる。日本の漬け物のような感覚で乳製品を見ていたのでしょう。
 もう1つ、このローヤル参観の4年ほど前にもアメリカを訪れたことがあり、ウィスコンシン州のクレセントミード牧場のオーナーが「これからはインデックスの時代が来る」と力説していたことが頭の隅にありました。アニーの母はローテート、その先はセクセーシヨンです。ミード牧場の親方も既にローテート・アマンダで脚光を浴びていたし、セクセーシヨンは乳房が素晴らしいと言っていた。私はローテートのフレームは独特のものがあると思っていたのです。
 私は何かを行う時、「もしかしたら、今がチャンスかも」と思って行動してきました。大きな資金を持ったり、時間にゆとりのある中での結論と違って、私の酪農人生では、いつも即座の結論が迫られました。そういった時、「今しかない、2度とない」と自分の言い聞かせています。
 ひらめいたと言っても、購入してしまってから、自分に対してのこじつけや言い訳ですが、リードマンという種牛は90年1月に最初のTPIが出て、いきなり第9位、父はトラデイシヨン、母はバリアント・ルー・エラ。母系は3代EXで、バリアント、アストロナウト、エレベーシヨンと続くのです。リードマンの血液は当時世界中の酪農家が欲していて、強い四肢と素晴らしい後乳房、タンパク改良の救世主とまで言われておりました。これは後に分かったことですが、93年に世界中で最も多くの候補牛を生産したのはリードマンだったのですね。
 母牛ローテート・アンを見ずに購入していたので、ケベック州に移った彼女の姿を確認したく、数年後母と長男正倫を伴って訪ねたことがあります。搾乳はしておらず採卵の日々でしたが、ローテートそのもの、正確なフレームをしていました。強い体、しっかりした血統構造、これが長く泌乳を続けるバックボーンだと再認識しました。

〜血統の裏付けが大切なんですね。

 私が牛飼いを目指したのは、高校2年生の時に20日間実習させて頂いた安平町の山田牧場での体験があったからなんです。「重厚なカウファミリーに、同様な方法で作出された種雄牛を交配して、もっと優れたものを作るのが牛作りの妙味なんだ」と一英氏は夜の搾乳が終わると実習生たちに血統図を見せながら説明してくれました。私は何時か、自分でも氏の教えを実現してみたいと心に誓いました。
 アメリカでは田舎から突然凄い牛が現れますが、血統を辿ると、85年代に一世を風靡した牛の4代目だった、ということが良くあります。わが国ではショウカウを作るためにタイプブルを使ったり、体型の伴わない能力重視の種牛を使ったり、ブリーディングの意図が分からない牛がけっこういます。また折角高い価格で購買しても、その娘牛を登録をしない酪農家がいるのも残念なことです。



ロンナン リードマン アニー ET
0415204536 91点 1994.7.12撮影
1991.3.7〜2006.10.30
3-3 365 13,825 602 4.4 3.4 9.1
4-4 365 15,942 746 4.7 3.6 9.1
8-0 365 19,110 880 4.6 3.5 9.2
父:ロスロツク トラデイシヨン リードマン


〜アニーは翌年2月に着きましたね。

 当時はショウで活躍していた経産牛を導入するケースが多かったのですが、アニーは12ヵ月令です。着いた時、「ウナギのように長い牛」という印象だけが残りました。試しにインスピレーシヨンでバージンフラッシュをし移植、本牛にはブラツクスターを授精しました。アメリカ、カナダを回っている時、おばあちゃん牛で、白く差し毛が入っていて、骨格の良い牛を見つけたら、大抵インスピレーシヨンの娘でした。何かオーラを感じる牛ばかりで、一度はくぐしたい血液だったからです。
 自然分娩したブラツクスターは雄で、すぐに肉になりました。当時は搾乳記録のない母牛からは候補牛を購入しなかったのです。もしこの雄牛が供用されていたら、貢献したのにと思うことがあります。アニーは6月に初産分娩、まずまずの乳房が着きました。翌月の体審では2才4ヵ月で83点、乳器84点でした。



母ロストリバー・ローテート・アン・1140 EX-90
 2-9 362 14,148 612 4.3 3.3
 3-10 365 19,178 937 4.9 3.6


〜その後は暫く採卵が続くのですね。

 次はジエツドでした。ローテートの息牛ですから、血液が2度くぐることになります。ジエツドは93年のTPIで上位に入り、パワフルな骨格、深さ、幅、肢蹄の良さが売りでした。後に体高180aの力強いフレームと100点の乳用性で96点に評価されましたが、私は早々に彼の力に飛びついたのです。そしてリンデイ。帯広の吉川氏が、バリアントの息牛リンデイをアニーに組み合わせると、すごい遺伝子になる、と示唆してくれたからです。都合1年半にわたり採卵を続けました。

〜娘の誕生は93年からですね。

 93年4月、ETでインスピレーシヨン・アニーが誕生しました。94年6月にはジエツドの娘ジエツド・アニー・Bと7月にはジエツド・アニー・A、そして10月にはリンデイの娘リンデイ・アン・A、リンデイ・アン・B、95年3月にリンデイ・アニー・Cが続きました。この間95年2月に、岩本牧場ではプレリユード・アニーが生まれています。

〜96年11月雌のNTPが出ました。

 アニーは採卵を続けながらも2才3月の年検ではM13,825s-F602s、率もF4.4%、P3.4%、SNF9.1%と非凡な成績を記しました。やはり期待した通りの成分率でした。95年夏には4才4ヵ月で2産していたので体審では87点になりました。
 96年から総合指数が出るようになりましたが、それまでは経済効果円順でした。アニーは幸運にも11月に公表されたNTPで初登場、+927で第20位にランクされました。アニーの最初のインデックスです。上位は龍田牧場ホナミMBBのウーマン、チエアマンでした。この年で嬉しかったことは、アニーと同時に購入したロクシーの孫娘、ボンドヘイブン・バー・リー・ロクシーが3産目で92点になり、搾っても3才11月365日でM14,706s-F653s-4.4%-P3.5%だったことです。

〜初回20位は満足な位置でしたか。

 母ローテート・アンは3才10月年検でM19,178s-F937s-4.9%-P685s(3.6%)という当時の乳脂量、タンパク量の全米記録でしたから、リードマンの娘であるロードマン・アニーにも伝達したのでしょう。4才4ヵ月の検定では、予想外の数字に驚きを隠せずにはいられませんでした。年検で16,000s近い乳量と746sという乳脂量でした。率もF4.7%、P3.6%、SNF9.1%、こんな能力は当場では未踏の数字でしたから。私たちはアニーの力を信じて、採卵に拍車を掛けていました。96年暮れにはETで得た娘が既に9頭になっていました。

〜97年には本牛が15位、娘も5頭に。

 アニーは97年春には15位、秋には10位にランクアップしました。と同時に3女のジエツド、2女のジエツド、5女のリンデイ、長女インスピレーシヨンがそれぞれ29位、54位、55位、81位に入り、NTPを賑わすことになってゆきました。



アニー(左)とロクシー 2002.8.27撮影


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(2)17頭の娘牛

 わが国の雌牛NTPは96年秋から公表された。リードマン・アニーは第20位で初登場以来最高10位に。同時にETで誕生した娘や孫娘が好成績で、05年にはアニー・ファミリーだけでトップ100の26頭を占めるに至った。アニーが「NTP」の申し子と言われる所以である。その後10年にわたりNTP100傑の1割以上を占め、現在も4〜6代目が7頭入る。92年春のアニー導入以来、一族はETの恩恵もあり17頭の娘牛から8代目まで裾野を広げ、その数900頭を超える。EX級5頭、2万kg突破7頭、供用された種雄牛8頭。これらを支えているのは+1,283という全国平均の2.5倍のNTPである。

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〜アニーが雌NTPの1位、2位、3位を独占したのは2000年春でしたね。

 当時は龍田牧場のホナミ・MBB、高橋牧場のフローレツト、吉川農場のロニイが上位を争っていました。わが家のアニーも徐々に頭数を増やし、上位を窺っておりました。00年3月、手応えはありましたが、まさかベルウードのET3姉妹B、C、Aの順でワン、ツー、スリーになるとはね。
 ベルウードを使うに当たって、私は躊躇していたんです。というのは能力は充分に期待できましたが、乳器が悪いのではないかと心配でした。北海道ホルスタイン農協の理事をしていて、フランスに視察に行く機会があり、ブリーダーに今何を使っているか尋ねると、「ベルウード」と即座に答えが返ってきました。「乳房が心配では」と問い返すと、「アメリカで1番ということは世界で1番なんだから、それを供用するのは当然のことだ!」と高圧的に言われました。
 私は暫し驚きましたが、どの国でも総合指数で良いものは良い、と認識すべきなんだと教えられた思いでした。帰国してすぐにアニーにベルウードを交配して採卵することにしたのです。使ってダメなら仕方がないが、使わないで後悔していても始まらないしね。私は、石橋を叩いて渡る時の方が多いのですが、あの時は、“落ちるかも知れないが、行けるところまで行ってみよう”という心境でした。数年後に上位を独占する牛ができるとは、当時は想像すらできませんでした。
 ベルウードの3姉妹がNTPの上位に付いたのに、フルの兄弟牛は国内の授精所にはおりませんでした。息牛が繋がれるようになったのは、ファミリーの実力が認知されるようになってからで、その間数年を要しました。フランスではニュークレアス事業と言って、遺伝指数の高い未経産牛から採卵して雌も雄も作り、雌が泌乳を開始して体審を受けて時点で良さそうだとなると、同時に作った雄から次世代の牛を作るそうです。なるほど、と思いました。



2000年春のNTPで1〜3位を独占した
ベルウードによる3姉妹。
右から1位RCA・ベルウード・アニー・B・ET
(NTP+1,546、2産時87点)、
2位C(+1,502、初産83点)、
3位A(+1,485、2産時86点)。


〜ベルウードを使われたのが、アニー繁栄のキーポイントになりましたね。

 それまでNTPの上位を占めていた龍田さんが、「私はベルウードを使えなかった。ベルウードだったからホナミ・MBBは超されたのですよ」と後に言って下さいました。
 15年経過した今、世界の遺伝資源に想いを巡らせてみると、ベルウードという牛は後世の酪農界にかなりの影響力を与えています。サンデイバレー、ライスクレスト両牧場で大繁栄し、世界中に雄牛を送り続けているライスクレスト・ビーウード・ブライアン。またショウカウでありながら高いインデックスを示し、世界中のセールを賑わしているサベージリー・ベルウード・リンダなど。50年に1度の名種雄牛と言われるBWマーシヤルもベルウードの息牛でしょ。そして息トイストーリー、エンシーノと繋がるのですから。



姉妹でEX、2万sを突破した
パイン・リンデイ・アニー・C・ET
(90点、5.5-365-22,387-768-3.4-3.2-8.9左・逆版)と
パイン・リンデイ・アン・B・ET
(90点、7.6-365-20,491-768-3.7-3.3-9.0%右)


〜セルシアスも使われましたね。

 セルシアスはオランダの代表的な種雄牛で、世界中の酪農家も授精所も注目していました。ベルの息娘牛の交配で、遺伝子の固定を図ったのだと思います。アニーの14番目の娘セルシアス・アニー、15番目セルシアス・アンの2頭は彼の娘で、アンはアニーの唯一の自然分娩による娘です。十勝授精所の雄契約でしたが、雌が生まれてわが家に残りました。
 セルシアスの娘はわが家で良い働きをしました。97年生まれの姉のセルシアス・アニーは00年のNTPで母を超えて第8位に、体格は88点、搾っては5才年検でM15,000s-F630sでした。一方99年に誕生した妹のアンは02年にNTP24位に付き、84点、2才365日でM13,000s。アニーのファミリーが注目され出した時期でもあり、オランダの種雄牛という珍しさもあってセルシアスの姉妹から多くの息牛が後代検定にかけられました。

〜01年には娘リンデイ・Cが、わが国100頭目の2万s牛になりましたね。

 アニーの娘牛の中から当場初の2万s牛がでると思っていました。リンデイの3姉妹のうち、リンデイ・Cは初産M13,000s-F500sでしたが、2産目ではM18,543s-F677s、これは凄い力がある牛だと思っていました。そして5才5ヵ月の3産目は、あれよあれよと言う間に2万sの壁を越え、1年間搾ってみると歴代4位のM22,387s-F768sでした。この年は餌も良く、スタッフも気合いが入っていたのか、母アニーも8才の検定でM19,000s-F880s出たんです。加えてアニー・Cは母に続きファミリーで2頭目のEX級にもなりました。



アニー2頭目の2万sは
孫娘RCA・ベルウード・エル・アニー
(90点、5.1-365-20,993-748-3.6-3.3-9.0)が達成。


〜02年には姉リンデイ・BもEXで続き、Bのベルウードによる娘が2万sを追いかけ、とうとうEX級で2万sを姉妹、母娘で達成しましたね。

 リンデイはベルウードより2年早く娘を取りましたから、リンデイの娘は採卵しながら3産になっておりました。この時期は怖いくらい好記録が続き、2代目リンデイ・アン・Bの初産時に誕生した3代目ベルウードの娘エル・アニーは5才の3産目でM20,993-F748sでした。翌年母リンデイ・アン・Bも2万sに到達し、3世代EX、2代2万s、姉妹EX2万sとなりました。現在このアン・BとL・アニー母娘の子孫が一番増えていて、L・アニーは27頭の娘を残しています。

〜ファミリーとして公認されるには、早くて10年の歳月が必要なんですね。

 2才級で検定と体審を受けなくてはNTPは出ません。アニーは未経産で導入しましたから、その基準にはまっていたのです。わが家では父の代から牛群検定、牛群審査を受けていますから、初産だけではなく生涯の記録が数代に渡って残ります。アニー自身も子孫でも、初産時に83点、84点もらう牛はけっこういます。初産はあくまで通過点ですから、2産目で86点などに上がってゆく牛は身体ができ上がってきているなと見ています。NTPなどで毎年上昇してゆくのは、初産時に較べて牛に力が付いてきた証拠です。
 アニーは15才と7ヵ月生きて、17種類の種雄牛で19回の採卵をし娘17頭(ETで16頭)を生産しました。初めは懐古に走ってインスピレーシヨンで娘を取りました。本牛はまずまずの成績でしたが、他の娘牛と較べるとやっぱり力の差を感じるようになりました。群馬県でNTP100傑に入った娘牛が1頭出ましたが、多くは成績を伸ばせずにいます。「流行の半纏を着る」と言うか、その時期に世界で1番良いと言われている種雄牛を交配すべきだったと反省しています。

〜アニーの繁栄には受精卵移植の恩恵が充分にありますね。

 アニーは生涯で3産しかしておらず、1回目はブラツクスターで雄、2回目はジエツドでフタゴの雄、そして3回目がセルシアス・アンです。何が凄いかって、日本の受精卵技術のレベルの高さと普及でしょう。私の場合には地元富良野農済と大樹町にある十勝育成牧場の山科先生、そして上士幌町の全農ETセンターの青柳先生にお世話になりました。富良野で採卵した卵を大樹で移植するとか、全農ETセンターに牛を運んで採卵して頂きました。ベルウード・アニー・Bは初産検定後全農で採卵してもらい、誕生したのがアジソンでありウエブスターなんです。全農では100頭受胎しています。
 当時はレシピエントの購入資金だけで年間6,000万円注ぎ込んでいます。「おい、おい、大丈夫かい」と多くの友人が心配してくれました。今でも輸入受精卵を購入しており、昨年は1,000万円に達しました。遺伝子はいつも先取りしないとダメですし、何か良い牛を見付けたら自分の牛舎で飼ってみたくなる道楽心を、親子で持っています。
 数年して授精所から雄の契約と購買があり少し助かりました。レシピエント牛は友人の磯江敏昭さんが移転規模拡大に伴い100頭程搾り牛を購入したい、と言ってくれたので安心して移植できました。自分の家で採卵して、自分の牛だけに産ませていては、こんなに一気に増えませんね。ETに関しては多くの方の力添えのお陰だと感謝しています。あの頃、採卵は「兎に角やる、休まないでやる」という心構えで、気持ちが折れなかったので現在の繁栄があると思っています。



セルシアスの娘RCA・セルシアス・アニー・ET
(88点、5.0-365-15,524-634-4.1-3.5-9.0)。


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(3)雄牛の活躍

 02年リードマン・アニーの息牛アトロンがNTP第3位でデビュー、これに弾みがつき05年の雌牛100傑ではアニーだけで26頭を占めた。その後アトロンに次ぐ種雄牛が毎年現れ、昨年までに供用されたもの8頭。現在も一族から34頭が後代検定に掛けられている。RCAの冠名のもと、190頭近いアニー牛群を管理する富良野市南扇山、三好孝行さんと2人の後継者(正倫さん、史晃さん)に伺った。

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〜02年秋、パトロンによる息アトロンがNTP第3位でデビューしました。

 雌のインデックスは産乳記録が少ないので1乳期の記録や初産時の体格得点に大きく左右されますが、雄牛のインデックスは娘牛頭数も多く信頼性が高くなります。雌でも雄でも良いとなると、本物ですよね。
 アニーのファミリーは00年に雌牛指数でトップ3を独占したり、2万s、EX級になるなど、改良界を賑わせる存在になっておりました。02年春のNTPでは、雄牛はジエスロが前年に引き続き第1位、雌牛はアニーが100傑中12頭入りました。
 そして02年秋、アニー一族から最初に候補種雄牛となったアトロンが第3位という、夢なら覚めないで欲しいと願うような連絡を受けました。アニーを導入してから10年の歳月が流れていました。成績が出てから地元でアトロンの調整交配で誕生した娘を見ましたが、骨の作りが良く、乳房も幅・高さがあり、乳用性に溢れていました。この時、第1位はホナミ・MBB・ポーラーマンでした。
 アトロンの売りは全種雄牛中10位の乳代効果、2位の乳脂量、9位のタンパク量、そして20位の乳器でした。リニアにおける乳器評価も高く、特に前乳房の付着、後乳房の高さは高能力を十分に支える機能的なものと受け止められておりました。

〜パトロンを使われた理由は。

 ブラツクスターの息牛で、北米では人気がありました。気に入って採卵しましたが1頭しかこどもを残せませんでした。それがアトロンなんです。これは家畜改良事業団、高橋茂場長の指定交配なんです。
 十勝授精所の吉川社長は「アトロンはしばらく上位を保つよ」と言ってくれたんですが、それは母系に総合力が備わっているからだそうです。結果としてその通りとなりましたが、カウファミリーを重視している授精所のトップは流石だと思いました。

〜雌でも雄でも上位に入ると、ファミリーは破竹の勢いとなりますね。

 1頭の母牛が上位に付くと、娘たちや孫娘の多くが上位に入るものです。そしてこれが永遠に続くと錯覚してしまうことが怖いことなのです。母を超えることも大変なことですし、全国には優れた血液がたくさんいますから、常に上位を占めることは不可能に近いのです。
 また雌のNTPで上位に入ったとしても、それがすぐ酪農界に貢献しているわけではないのです。やはり雄牛が上位で公表されて、精液をいっぱい使ってもらわないと値がありません。3位でデビューしたアトロンはアピールする娘牛の写真も多く、多くの引き合いがあったと聞いております。自らは6才で92点になり、セカンドクロップ娘牛の中には昨年の香川県の共進会で最高位賞になったものもいます。

〜候補名簿によると、アニーからは98年前期のアトロンに始まって09年前期までに75頭が授精所に繋がれおります。

 元祖アニーの息牛はアトロンとダツチ・ボーイの息の2頭だけです。17頭の娘のうち8頭から19頭の孫息牛を生産しました。やはり00年の雌NTPで上位を独占したベルウードを父に持つET3姉妹からが一番多く、9頭の孫息牛が候補となりました。セルシアスの2姉妹からは5頭、ジエツドの姉妹からは4頭の孫息牛が検定に掛けられました。
 アトロンが上位で公表された02年以降候補牛の依頼が多くなり、04年には最高の13頭を購買して頂きました。有り難いことにその後もアニーから切れることなく候補牛を送り出し、09年は前期だけですが4頭おります。75頭の候補牛のうち当場産は54頭、21頭の雄牛がアニーを元祖に他場で生産されたものなんです。現在はアニーの4代目、5代目が候補牛になっています。



アニー最初の候補牛、1回目の公表で
NTP第3位についたアトロン 92点


〜04年春2頭目の検定済サンシヤインが31位で、夏にはアルカデイアが3位で公表されました。

 サンシヤインは雌NTPで第3位だったベルウード・AのマテイーGによる息牛なんです。アニーからの雄牛には「A」を付けていますが、サンシヤインだけはアニー・ファミリーの上昇を願って「A」が付いていません。ベルウード・AはETの反応が良かったので、多くの娘牛を残しました。これらの牛が全国のアニーを気に入ってくれた酪農家の元に繋がれることになり、当場の経営を支えてくれました。
 ウインチエスターの息牛アルカデイアは、雌NTPで全国9位でデビューしたセルシアス・アニーの息牛です。アトロンと同様に第3位の雄牛NTPは予想以上でした。秋には第2位まで上がりました。タンパク量は全国で1位、乳脂量は5位でした。

〜05年春のNTPでは、雄でアルカデイアが5位、新規アクエリアス34位、アトロン36位、そして雌では100傑中これまで最高の26頭が入りました。

 1番乗っていた時なんでしょうね。アクエリアスは、雌NTP第2位についたベルウード・Cの初産の息牛です。マンフレツドが流行っていましたからね。アニー・Cは2産目直後に死亡しましたが、受精卵によって多くの娘、息牛を残しました。
 雌の100傑には26頭という多数が入りましたが、トップ10を窺う牛はいませんでした。最高でもリンデイ・アン・Bのマーシヤルによる娘マーシヤル・LB・アニー・Bの15位が最高でした。時代は刻々と変わって湧別町・五島牧場のヒラリーや紋別市・永峰牧場のルメイ・ドーン、更別村・天野牧場のパラダイスのファミリーの台頭がありました。
 100傑に入った26頭のうち、当場からは16頭、他場からは10頭もおりました。これは非常に嬉しいことです。北海道はもとより岩手、宮城、群馬、千葉、新潟、静岡、そして改良センターからも力強い支持があったお陰です。牛を生産している方なら同じ思いでしょうが、お嫁に出した牛は、新しい飼い主のもとで成功してほしいものです。雌が生まれ、次の交配を相談される時は本当に嬉しいものです。私はアニーのお陰で全国の牛飼い仲間から「父親よばわり」されることに至上の喜びを感じております。



NTP第2位(タンパク1位、乳脂量5位)に付いた
アルカデイア 88点


〜06年乳牛改良の部で宇都宮賞を受賞。これに5頭目の検定済としてアラーが、全姉妹アジソン・BWB・アニー・Bが2万sで応えました。

 この2頭は雌NTP1位に付いたベルウード・アニー・Bの息娘牛です。アニー・Bは採卵の日々が多かったのですが、2産目で乳量1万8,000sを超え、脂肪も4.0%、タンパク質も高く3.5%でした。アラーと同時に採卵したアジソンによる娘アジゾン・BWB・アニー・Bは3才の年検であっさり2万1,500s超えました。アニーにとって4頭目の2万s達成でした。この2頭は栄えある宇都宮賞に祝砲を上げてくれたんですね。アラーは雄NTP32番目での合格でした。その後アジソン・BWBのモーテイーによる娘モーテー・ADB・アニーが母と同じく2産目で2万sを超えました。

〜07年5月、BW・マーシヤルの息牛BW・アニーが第3位で登場しました。乳代効果2位、乳量と乳脂量3位、無脂固形6位、得点9位、肢蹄6位、特質8位という圧倒的なものでした。

 アニーを共同所有している積丹の岩本勝男牧場では、95年にリードマン・アニーの6女タンロツク・プレリユード・アニー、97年12女タンロツク・エアロ・アニー・A、13女エアロ・アニー・Bを得ました。97年のゴールデンセールにはプレリユード・アニーからバージンフラッシュで誕生した3頭のET娘のうちの1頭、ビクトリアス・アニー・Cが出品されました。父ビクトリアスは旧JHBS社で好成績だったので、インデックスも高く出ることを期待した倶知安町の改良仲間ハッピーライブ・シンジケートが購入しました。翌年母プレリユードは案の定、初産81点、乳量12,000sを越え、最初のNTPは67位。その後85点、2産目では14,000sを突破しNTPは最高の29位まで登り詰めました。また妹エアロ・アニー・エーも雌NTPで26位に押し上げられていました。
 倶知安の仲間で飼われることになったビクトリアス・アニー・シーは初産83点、乳量12,000s、脂肪率4.5%、タンパク率3.4%、無脂固形率9.0と最初から好成績で、NTPは53位にランクされました。BW・マーシヤルの指定交配を受け誕生、第3位のNTPで合格したのがBW・アニーなんです。
 岩本さんと祝賀会に呼ばれ、「今後は数多く利用してもらえるように皆で努力しましょう」と挨拶させてもらいました。BW・アニーは続々新規牛が上位に出進する中、成績を下げることはなく、現在も14位に付けております。供用されてまだ2年半ですが、既に5,154頭の登録娘がいます。

〜同年8月アワードが11位で公表。

 これまですべて家畜改良事業団でしたが、今度は十勝授精所からの朗報でした。アワードはセルシアス・アニーの息牛で、雄NTP第2位に付いたアルカデイアの弟です。父は国産種雄牛として大活躍していたスクリーチ。アワードの乳代効果は3位、乳量5位、乳脂量1位、無脂固形分9位、体型的には満足な数字ではありませんでしたが、能力はBW・アニーとともにランキングを賑わすものでした。
 アニー一族の形成には授精所からの雄契約が大きく影響しています。雌雄判別のない時代でしたから、雌が誕生する確率が半分あります。授精事業体は遺伝子の先取りをするので、世界中の遺伝資源の中から交配されます。リスクも同時に背負いますが、これが強いアニーを作っている要素でもあります。



第3位で登場し現在も14位に付けている
人気種雄牛BW・アニー 89点


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(4)3代・4代目の活躍

 わが国の雌NTPは1996年秋から公表され、05年にはアニー・ファミリーだけでトップ100の26頭を占めた。現在も100傑には4代目〜6代目が7頭ランクインしている。92年のリードマン・アニー導入以来、一族はETの恩恵もあり17頭の娘が3代目では100頭に、4代目は300頭と雨後の筍の勢いで増え、8代目まで進んだ現在900頭を超えた。3代目で2万kgを突破したもの2頭、EX1頭、4代目2万kg3頭、EX1頭。190頭近いアニー牛群を管理する富良野市南扇山、三好孝行さんと後継者の正倫さん、史晃さんに伺った。

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〜正倫さんと史晃さんにお伺いします。アニーの2代目の特徴を捉え3代目、4代目にどう交配されましたか。

 リードマン・アニーには17頭の娘がいて、その時代を代表する種雄牛を交配したこともあり、EXになった2頭を筆頭に体型もVG以上、ほとんどの牛がNTP100傑にランクインしました。乳量が多く、成分も高かったので数字を押し上げたのだと思います。3代目、4代目もブリーディングの方針は変わらず、北米やヨーロッパの最高のインデックスブルとの交配を心がけました。この交配こそが経営を潤す最善の方法だと信じて疑わなかったからです。
 結果的に、わが家ではリードマン・アニーにはジエツド、リンデイ、ベルウード、セルシアスが合ったと思います。アニーから数種類の血統構造を持った土台ができ上がり、これが改良を楽しくしてくれました。

〜具体的に2代目ジエツドへの交配は。

 2代目ジエツド・Bにはフオーメーシヨン、ウエード、ランツ3頭、ブレツド4頭、アウトサイド2頭の計11頭の娘がいます。中でもフオーメーシヨンが合ったと思います。
 3代目フオーメーシヨン・アニーは2産目88点、M17,000kg以上の成績を残しました。彼女の4代目ペンコール・デセジヨン、R・マーシヤル、エルトン・フアーマーの娘はいずれも5産まで泌乳し、デセジヨンの娘デセジヨン・F・アニーは88点、7才でM17,560s。フアーマーの娘フアーマー・F・アニー(85点)は現在6産目を2万sペースで泌乳乳中です。チヤンピオンによる4代目チヤンピオン・F・アニー・Aは3産目89点、搾ってはM16,462s、トイストーリーの初産娘牛が84点、他にルー、ダーハム、プラネツトの娘がいて、将来好体型になるのではないかと期待しています。
 一方、2代目ジエツドにウエードで誕生した3代目ウエイド・アニーは85点、M15,852s。そして彼女にコンビンサーを交配した4代目コンビンサー・W・アニー(写真@)が7才5産目でアニー6頭目となる2万kg(M20,779s-F751s)を達成し、加えて5頭目のEX牛となりました。W・アニーは既に5代目にモーテイー、マリオン、ゴールドウインの娘がいて、モーテイーにノマドを交配した6代目からは候補牛が生産されています。



@4代目RCA・コンビンサー・W・アニー(90点)は
7.10才5産365日M20,779s-F751s-3.6%-P3.2%-S8.7%
の成績でEX・2万sを達成。


〜リンデイによる姉妹EX・2万sの2代目の姉アン・Bにはいかがですか。

 アン・Bは今ではアニー・ファミリーで最も枝葉を広げています。初産時に誕生したベルウードによる3代目ベルウード・L・アニーは前述(第2回目掲載)したように、母の前にEXで2万sになりました。そのL・アニーからは27頭もの娘を得ることができました。
 L・アニーのセルシアスの娘、4代目セルシアス・アネツテイーは87点、8才年検でM19,002s、ストーマテイツクによる4代目CS・BWL・アニー・Cは3産目86点、ピーク時には日量79sを記録し、3産目を2万sの勢いで進んでいます。
 2代目アン・Bはダツチ・ボーイとの相性も良く、3代目ダツチ・LB・アニーが3産目89点、M18,000kg。彼女のトイストーリーによる4代目娘が岡山県総合畜産センターに移動し、ドナーとしての活躍が期待されます。ダツチ・ボーイのもう1頭の3代目ダツチ・LB・アニー・Bは初産85点、2才365日M13,839sと高能力を示しましたが、2産目分娩後に死亡しました。しかし09-Vの雌NTPで75位と77位にランクインしているエンシーノとオーマンの4代目娘を残しました。このオーマンによる4代目オーマン・DLB・アニー(写真A)は87点、3才2産でアニー7頭目の2万s牛となりました。数頭の候補種雄牛と計画交配が入っており、アニーの新戦力になること間違いありません。
 この2月、2010-Tの雄NTPが公表になりました。3代目ダツチ・LB・アニー・Bのベストによる4代目息牛アベイルが堂々11位でジェネティクス北海道から供用される運びとなりました。F+0.28%、SNF+0.03%、そしてP+0.05%と、成分のすべてがプラスという数少ない遺伝子です。娘牛頭数も多く、乳器も良さそうですね。
 94年生まれの2代目アン・Bが、昨年10月対外卵によって2頭のゴールドウインによる最後のET娘を残しました。アン・Bの遺産として大事に育てたいと思っております。

〜2代目リンデイの妹アニー・Cは。

 アニー・Cもアン・B同様2万kg・EXを達成しました。マーテイ、ランツ、チヤンピオンと3頭しか娘を残しませんでしたが、3代目ランツ・LC・アニー(父ランツ)にエアマグナを交配した4代目マグナ・LL・アニー、そしてボリバーによる5代目ボリバー・MLL・アニー(86点)が3産目にフレデイを受胎して7月に分娩予定です。
 アニー・Cのチヤンピオンによる3代目チヤンピオン・LC・アニー(84点、3才365日M18,240s)には4代目トイストーリーの娘がいて、5代目アシユラーの娘も楽しみな1頭です。



Aオーマンによる4代目
RCA・オーマン・DLB・アニー・ET(87点)は
3.9才2産年検M20,048s-F851s-4.2%-P3.3%-S8.9%。


〜NTPトップ3を独占した2代目ベルウードの3姉妹への交配は。

 ベルウード3姉妹の交配に当たっては、インデックスの高い種雄牛で、なおかつ乳器を良くしてくれる牛を交配すべきだと強く思いました。
 ベルウード・Aは3代目でジエフ1頭、コンビンサー2頭、エマーソン3頭、ハーシエル6頭、計12頭の娘牛を得ました。コンビンサーの娘牛3代目コンビンサー・BWA・アニー・B(初産85点、2産目87点、3.8才365日M15,237s-F614s)にフインリーを交配し誕生したのがアニー8頭目の検定済雄アドミレーシヨンです。
 NTP第1位だったベルウード・Bに、5頭目の検定済種雄牛アラーと同時採卵で生まれた3代目アジソン・BWB・アニー・B(86点、写真B)は2産目に2万kgを突破しました。アニーでは4番目の2万s牛です。そして自然分娩によるモーテイーの娘、4代目モーテイ・ADB・アニー(88点、写真C)も母に続いて2産目で2万kg(M20,576s-F864s)を搾り、現在アニー・ファミリーで最も高いインデックスを誇っています。4代目モーテイの子孫は、能力・体型がともに安定しているため、AI事業体の計画交配が多く入っています。
 ベルウード・Bにウエブスターを交配した3代目ウエブスター・BWB・アニー・D(87点)は7才でM19,000kgを超える乳量を記録しています。ジエツト・ストリームによる4代目の初産娘牛には計画交配が入っています。
 ベルウード・Cは2産目で死亡しましたが、3代目としてマーテイ2頭、エマーソン2頭、R・マーシヤル4頭、ウエブスター、ハーシエル各1頭の計10頭の娘牛が残りました。ハーシエルによる受精卵は十勝管内士幌町の山岸均牧場に移動して3代目サクランド・ハーシエル・アニーが生まれました。既に5頭の娘を得ています。セプテンバーによる4代目サクランド・セプテンバー・アニー・Bは初産85点、2009年北海道ウインターフェアで2才シニア級2位となり、体型の良さをアピールしました。



B4頭目の2万s牛
RCA・アジソン・BWB・アニー・B・ET
(86点、3.8才2産365日M21,566s-F751s-3.5%-P3.1%-S8.8%、父アデイソン)。


〜アニーの後半の娘牛、セルシアスの娘には雄の契約が続きましたね。

 2代目セルシアス・アニーは、セルシアスのナンバーワン娘牛と評価されました。従って多くの雄牛で数多くの採卵を行った結果、エアローン2頭、マンフレツド2頭、ハーシエル3頭、アデイソン、スクリーチ4頭、ゴールドウインの計13頭の娘牛を得ました。供用された3代目息牛はウインチエスターによるアルカデイア、スクリーチの息アワードです。何れもトップテン入りしました。
 マンフレツドによる3代目マンフレツド・アンネル(85点)は岩手県葛巻町の中六角牧場に買われ、6才でM13,900s、エマーソンの4代目エマー・マン(83点)は2才M13,473sで、ともにNTPの上位に付いておりました。また倶知安町のハッピーライブ・シンジケートに移動した3代目スクリーチ・セル・アニー・Aと当場で現在4産目を泌乳中のスクリーチ・セル・アニー・B(86点、5才365日M17,015s-F628s)がともに3頭ずつ息牛を授精所に買い上げてもらい、今後の成績公表が楽しみです。
 セルシアス・アニーからは3代から5代目にかけ合計20頭の候補牛が作られましたが、雌よりも雄牛に対しての遺伝力が強いので、酪農界に貢献できる牛と言えます。



Cアニー中最高のNTP、
4代目RCA・モーテイ・ADB・アニー
(88点、3.9才2産365日M20,576s-F864s-4.2%-P3.2%-S8.6%)Bの娘。


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(5)ショウでも活躍する5代目

 92年春のリードマン・アニー導入以来。一族は8世代900頭を超えた。EX級5頭、2万kg突破7頭、供用種雄牛9頭。昨年の北海道ナショナルショウ1等賞は、全国平均の2倍半の高いインデックス牛群に花を添えた。RCAの冠名のもと190頭を超えるアニー牛群を管理する富良野市南扇山、三好孝行さんと後継者正倫さん、史晃さんに伺った。

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〜昨年の北海道ナショナルでエンシーノの娘エンシーノ・MAB・アニー・Bがシニア2才で1等賞に入賞しましたね。

 1等賞4席・セカンドベストアダーという結果に驚いています。上川では春も夏の全道予選も惨敗で、悔しい思いをしました。アップスタンディングでスタイリッシュという長所を持った牛だと思っていました。エンシーノは泌乳期の後半でも乳量は落ちず、全道の時には40s出ていました。初産で分娩後9ヵ月を経過していたので全道予選の上川では5番目でした。本来なら予選落ちですが、1頭欠場が出て全道に出品することができたのです。とにかく良いコンディションで出品できるように心がけました。
 今回の1等賞で、今までのブリーディングが間違いではなかったことが認められて、感無量でした。エンシーノ・MAB・B(写真@)は初産時84点、乳器85点です。2.2才360日時点でM14,827kg-F572kg、やはり出ます。バージンフラッシュで誕生したソクラテスによる6代目娘はスーパーで指定交配、プラネツトの雌精液を受胎し10月分娩予定です。プラネツトのET娘も昨年12月に2頭生まれています。
 またET姉妹のエンシーノ・MAB・Aは83点、2.3才の検定中で360日M15,256s-F593kg。雄契約のボカート、マンオーマンを1個ずつ受胎し、本牛も8月にスーパー分娩予定です。

〜エンシーノ・BはNTP第1位のベルウード・Bの流れなんですね。

 ベルウード、アデイソン、モーテイー、そしてエンシーノなんです。最もインデックスが高いラインですね。母モーテイ・ADBは170aを超える大型牛で、搾っても2産で2万s、現在アニーでは最も高位のNTPです。その前はアジソンで2万sです。
 エンシーノ・Bの母4代目モーテイ・ADBにはセプテンバー1頭、トイストーリー2頭、エンシーノ2頭、ブルーブラツドとボルトンの娘が各1頭がいます。セプテンバーによる5代目セプテンバー・MAB・アニー(87点、写真A)は初産M15,000s、現在2産目泌乳中で10検の予想がM18,600sとなっており、年検終了時では3世代2万sも夢ではありません。
 モーテイ・ADBの娘で、初産泌乳中のトイストーリーによる5代目ET姉妹トイストーリー・MAB・B(83点)のプラネツトによる6代目娘にはGHの計画交配が入っています。またトイストーリー・MAB(83点)は7月に2産目スーパーを分娩予定、雄契約によりマンオーマン、ガボアーの混合3個を受胎しています。



@09北海道ナショナルでシニア2才1等賞に入った
RCA・エンシーノ・MBA・アニー・B・ET(84点)
NTPも+2,577で高位置にいる。


〜昨年秋の北海道ウィンターでもトイストーリーのジュニア2才娘が3番目に入賞しましたね。

 リンデイ・アン・Bの流れで、母はオーマンの娘4代目オーマン・DLB。87点で2産目で2万sを超え、雌NTPでも55位に入っています。5代目トイストーリー・ODL・アニー・B(写真B)は、未経産時から理想的な骨格をしていました。良い乳房が付けばショウに出品したいと思っていました。8月末に分娩し、その後の立ち上がりも順調で、フェアの3日前には49kgでした。初産84点、乳器85点です。オール道北に選抜されたのは非常に嬉しいことでした。計画交配によりスーパーで移植済みです。
 9月の全道、10月のウィンターとすっかりショウのとりこになっていました。この2頭はショウカウを作るためのブリーディングではありません。たまたま運が良かったのです。応援して下さった方々に感謝しています。ショウで活躍した2頭のフルブラザーが後代検定にかけられているので、成績が出るのが非常に楽しみです。
 トイストーリー・Bには3頭のET姉妹がいます。Aは埼玉県狭山市の松本牧場へ、Cは初産検定中ですがサンチエスの娘、ラウンドアツプの息牛が2頭います。9月には2産目フレデイを分娩予定です。またバーンズによる妹、4頭の兄弟も授精所にいます。
 母オーマン・DLBの妹エンシーノ・DLB・アニーは初産84点、365日でM14,156s-F619kgです。アーニツトで息牛2頭、プラネツトの娘がこの1月に誕生しました。



A5代目RCA・セプテンバー・MAB・アニー(87点)。
3代2万sの期待がかかる。
ファミリーの繁栄度bP。体高173p、@の姉牛。


〜アニーの経産牛で多い父牛は。

 初産はトイストーリーの娘が多く、15頭搾っています。どれも乳器が安定しています。それらの母親はモーテイー、オーマン、チヤンピオン、ダーハム、ダツチ・ボーイ、Hタイタニツク、ベルウードです。2産目はゴールドウイン、ダーハム、セプテンバー、Hタイタニツクです。インデックスが高いのは初産ではトイストーリー、エンシーノ、2産目以上はオーマン、モーテイー、Hタイタニツクの娘牛たちです。低いのはアウトサイド、ダーハム、チヤンピオン、ドレークですね。

〜5〜7代目に授精しているのは。

 スーパー、フレデイ、プラネツト、マンオーマン、ジーブス、アルタ・ロスなどです。特にインデックスの高い経産にはスーパー、フレデイ、マンオーマンの3頭を集中的に使っています。育成牛で多いのはイントルーダー、フオーチユン、バクスター、ボルトン、プロント、Mリーダー、バーンズ、ラモス、ソクラテス、ランスロツト、プラネツト、アシユラー、サンチエス、ミリオン。エス・テンプター、アベイル、オーシヤンと様々です。将来的にはインデックスが高く、北米のように2万sを超えるようなショウカウを作るのが目標ですね。乳の出ないショウカウは面白くないですからね。



B09北海道ウィンター、ジュニア2才3位の
RCA・トイストーリー・ODL・アニー・B・ET(84点)。
授精所の計画交配が入っている。


〜アニーの導入によって搾れる牛群になり、経営を潤しているのですね。

 父が99年に本誌の取材で、「NTPは儲かる酪農を具現する最善の道具」と語りましたが、私達兄弟も同じ気持ちでおります。乳量だけでなく、長く牛群に留まって牛乳を生産し続けるバランスの取れた牛が経営を良くしてくれます。NTPという共通の物差しで牛を評価し、わが国の気候風土にマッチする牛の存在を確認し、日本の売りは何なのかを真剣に論議し合い、独自の乳牛を作出して、優れた遺伝子で世界に打って出たいと願っています。
 乳検組合から送られてくるNTPの順位は、牛群で働く牛の順番です。今どの牛を増やしたら良いか、一目瞭然です。TMRで同じ餌を同じ量与えた時に、NTPの高い牛は確実に数字の分だけ余計に働きます。こうなってくると尚更交配の仕方や相性など、種雄牛による遺伝子の選定が経営を大きく左右します。わが家では牧場全体のNTPの数字が上がるに従い、牛群の生産性は上がり、確実に儲けに繋がっていると実感しています。
 インデックスを重視したブリーディングの結果、数年前まで1万kgそこそこの乳量も、今では12,300kgまで上がってきました。これはアニーが牧場の6割以上を占めたことが要因です。一時期はトップ100に26頭もいたアニーが、その数を減らしてくると、「アニーも下火になってきた」と思う人がいるかも知れません。ランキングから名前が消える理由の1つは、ブリーディングを間違えたこと、もう1つはファミリーが増えることにより牛群の底上げが急速に進み、新規の牛が入りづらくなることです。ブリーディングは今後もショウタイプには拘らず、インデックスを下げない種雄牛を使い、その中で体型の良いものをショウに出品したいと思っています。
 遺伝子を販売するって、いつもジレンマに陥ります。バージンで採卵して世代間隔を縮めなくてはなりませんが、人気の牛を長期間採卵していると遺伝子は古くなり改良が遅れます。遺伝子の早取りを心がけても、牛舎に同じ種雄牛の娘ばかり並んでいると授精所は興味を示さないようです。国産がいたり、アメリカ、カナダの超エリート雄牛の娘が色々な血統にいると雄契約などでは有利です。またNTPだけでなく他の要素、2万sでEXとか、ショウでの活躍も必要条件でしょう。嬉しいことに、昨年ショウで入賞した牛に指定交配が数多くきています。

〜アニーとの19年間を振り返って、孝行さんは目を細めているのですね。

 私達夫婦の酪農人生の半分をアニーとともに過ごしてきました。アニーを通じて全国に遺伝子を販売させてもらったこと、牛飼い仲間ができたことに感謝しています。幸いに2人の息子夫婦も私達の思いを理解し、牛群の繁栄に真剣に取り組んでいます。私達は自分が体験して幸せだったことを、若い酪農後継者に伝える責任があると自らに言い聞かせています。



「アニー」の2万s突破牛(左から)
リンデイ・C    90点 22,387
ベルウード・L   90点 20,993
リンデイ・アン・B 90点 20,491
アジゾン・BWB・B86点 21,566
モーテイ・ADB  87点 20576
コンビンサー・W  90点 20,779
オーマン・DLB  87点 20,048