牛と人のはなし@

スペインでの出来事。日曜日に寝ていると妻が台所からパタパタやってきて、「クローンの肉を買ってきたよ」と言います。ほんまかいな...と思ってラベルを見ると、CULONの文字が。cloneじゃないと思うけどCULONって何でしょう?
culonをスペイン語の辞書で引くと、「尻の大きい」とあります。
写真はアストゥリアスの地方品種Asturiana de los Valles(谷のアストゥリアーナ)の種雄牛です。お尻の部分に顕著に見られるように、異様に発達した筋肉を持っています。これはこの品種に頻繁に見られる形質であり、英語ではMuscular hypertrophy(筋肉肥大)あるいはダブル・マッスル(Double-muscling; 倍増筋肉)と呼ばれています。ヨーロッパのいくつかの地域では、脂肪の少ないやわらかい肉、そして何よりも肉量の多さというメリットから、この形質が重んじられてきました。これがCULON(尻の大きい牛)の正体です。
ダブル・マッスルが、マイオスタチン(GDF-8)というタンパク質を指定する遺伝子中の11塩基の欠失によるものであることが発見されたのが1997年のことです。

この品種の凍結精液のカタログには、その種雄牛のCULONに関する遺伝子型(CC:CULON変異をホモに持つ、C:ヘテロに持つ、N:変異を持たない通常型)と、その子牛の実際の表現型(Culones:尻が大きい、Aculonados:やや大きい、Normales:普通)の割合が表記されています。マイオスタチンの発現量にもよるので、遺伝子型と表現型が完全に一致するわけではありませんが、やはりCCの牛からはculonの生まれる割合が高いと言えます。
この形質が好まれて選抜が進んできた、ダブルマッスル遺伝子変異の大御所がベルギーにいます。Belgian Blue(写真)です。この品種では、あまりに発達した筋肉のために、雌牛が自然に分娩することは困難で、分娩に際し、ほぼ100%帝王切開が必要と聞いたのには驚きました。ちなみにこの遺伝子変異は和牛の世界では好まれなかった豚尻の原因であることも解っています。
私の勉強した限りでは、牛における畜産とは「人間が牛を情熱を持って飼うこと」です。霜降り、スーパーカウ、有機畜産など、情熱はその営まれる地域によって形を変えます。CULONにまた一つ、人間の情熱を見た思いがしました。(牛と人のはなし@終わり)


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