衆合地獄



衆合地獄(しゅごう)
衆合地獄とは、黒縄地獄の下にあり。縦広は上の如し。多くの鉄の山、二つずつ相向かえり。牛頭・馬頭等の極卒、手に棒を取って罪人を駈けて山の間に入らしむ。此の時、両の山迫り来て合わせ押す。身体くだけて、血流れて、地にみつ。又種々の苦あり。-顕謗法鈔-

彼の大地獄はなぜ「合」と名づけられるのか。彼の地獄にはその衆生の悪業果の故に、二つの大山が存在する。「白羊口」と名づけられる。激しく燃え盛り、猛々しい熱さである。すると獄卒が罪人を捉えて此の山の中に連れて行き、入った瞬間、二つの山が合わさる。互いに突き合い、互いに打ちあい、互いに摩擦する。彼の二つの山はこのように共合し、相突相打し、お互いに摩擦しあった後、本の場所に還る。彼の地獄中の衆生は山が合わさって打たれ、擦られる時、身体の一切の膿血が流れでてしまう。唯砕けちった粉状の骨のみ残る。彼の人はその時、極めて重い苦を受ける。しかし命はまた尽きないこと、上に説かれている通り。

また彼の合大地獄の中にはまた別の山が有る。「鷲遍」と名づけられる。彼の地獄人は身を焼かれた後、飢渇して彼の山に走って行くが、彼の山の中は処処に皆燃え盛る嘴(くちばし)を持った鉄の鷲がいる。彼の鉄鷲の腹の中には「火人」という地獄人がいる。
さて、彼の走ってきた地獄人は救いを望んで彼の山に到るが、着いたら彼の鉄鷲鳥が向かってきて、先に其の頭を穿ち、頭蓋骨を開いて其の脳髄を吸い取り、また其の眼を抜き取ってしまう。彼の地獄人はその時泣き叫ぶが、誰も救う者はいない。其の頭が破れて脳髄を飲まされ尽きた後、頭を別の処に投げ捨てられる。彼の地獄人は無頭無眼である。
しかしまた暗黒の地獄に走ってゆくが、罪業力の故にまた別の鉄鷲が出現する。其の身は前の鉄鷲に比べて極めて大きい。彼の鷲の腹の中には悉く前の「火人」が入っており、罪人に向かって来て体ごと呑み込んでしまう。彼の地獄人は鷲の腹の中に飲み込まれて「火人」となり、無量百千年歳を焼かれながらそこで過ごす。しかし「火人」は前世に他の妻を侵し、殺生を楽しんで多く犯したため死ぬことができない。

また彼の衆合大地獄の中の衆生は獄卒に捉えられて、鉄臼(うす)の中に放り込まれる。其の臼は激しく燃え盛っている。また獄卒は鉄杵も持っている。これもまた甚だ猛々しい熱さである。そして彼の罪人をひく。何度も引き回して最後にはただ膿血が一遍に流れ出して、粉状になった骨が残るだけである。其の時、罪人は極めて重い苦を受ける。しかしその時でも命は尽きない。衆苦を遍く受けるのである。
また次に彼の衆合大地獄の中の衆生の上空には大鉄象が自然に有り。激しく燃え盛っており、凄まじい勢いがある。其の両脚を以て彼の地獄の衆生の身を踏み潰してしまう。頭より到って足、と何度も踏まれてぺしゃんこにされてしまう。彼の地獄中の衆生の身分は膿血が垂れ流れ、諸処に散在する。ただ砕けちった骨のみ残る。其の時、罪人は大重苦を受ける。しかし命は尽きない。こうして次第に遍く苦を受ける。

寿命
人間の二百歳を第三の夜摩天の一日一夜として、此の天の寿、二千歳なり。此の天の寿を一日一夜として、此の地獄の寿命、二千歳なり。-顕謗法鈔-

衆合地獄に堕ちるのは
殺生・偸盗の罪の上、邪淫とて、他人の妻を犯す者、此の地獄の中に堕つべし。然るに当世の僧尼士女、多分は此の罪を犯す。殊に僧にこの罪多し。士女(在家の女)は各々互いにまもり、又人目をつつまざる故に、此の罪をおかさず。僧は一人ある故に、淫欲乏きところに、若しはらまば(有身)、父ただされてあらわれぬべきゆえに、独りある女人をば犯さず。もしや隠ると、他人の妻をうかがい、深く隠れんとおもうなり。当世のほか貴げなる僧の中に、ことに此の罪又多かるらんとおぼゆ。されば多分は当世貴げなる僧、此の地獄に堕つべし。
-顕謗法鈔-   参考文献 :起世経・正法念処経・顕謗法鈔・法苑珠林