無間地獄



無間地獄(むげん) 別名 阿鼻地獄(あび)

大阿鼻地獄とは、又は無間地獄と申すなり。欲界の最低大焦熱地獄の下にあり。此の地獄は縦広八万由旬なり、外に七重の鉄の城あり。地獄の極苦は且く之を略す。前の七大地獄竝びに別処の一切の諸苦を以て一分として、大阿鼻地獄の苦、一千倍勝れたり。此の地獄の罪人は、大焦熱地獄の罪人を見る事、他化自在天の楽しみの如し。此の地獄の香の臭さを人嗅ぐならば、四天下・欲界・六天の天人皆死しなん。されども出山・没山と申す山、此の地獄の臭き気をおさえて、人間へ来たらせざる故に、此の世界の者死せずと見えぬ。若し仏、此の地獄の苦を具に説かせ給わば、人聴いて血を吐いて死すべき故に、詳しく仏説き給わずと見えたり。-顕謗法鈔-

何の因縁が有って阿毘獄は「阿毘(無間)」と名付けられるのか。此の阿毘大地獄の中の罪人の目の見る所は唯悪色を見、耳は悪声を聞き、鼻は臭気を嗅ぎ、身は苦痛を受け、意には悪法を念じる。また一切の時に於いて、須臾(一弾指)の安楽も受けることが無い故に、此の大地獄は「無間」と名付けられる。此の大地獄の諸の衆生は無量の時に亙って長遠の苦を受けることになる。

また次に、此の阿毘大地獄の中の衆生は其の不善業の果報を以ての故に、東方より激しく燃え盛る、赤色の極めて大きな火炎が忽然と出現する。その火炎は一向に燃え盛っている。このように次第に、南西北方の四維、上下から、各各極めて大きな火炎が出現する。罪人は其の時、此の四方の諸の大火炎に囲まれ、段々と迫って其の身に触れる故、諸の痛苦、大切苦を受ける。命はまた尽きないこと、上に説かれるが如し。彼の獄中に於いて一切を受ける。

また彼の罪人は獄卒に捉えられて身の皮を足より頭の頂に至るまで皆剥ぎ取られ、其の皮に包まれて火車の上に投げ込まれる。熱地の上を何度も引きずり回され、身体は砕け爛れ、皮肉は堕落して万毒を味わうが、死ぬことはない。

また彼の地獄の中には燃え盛る嘴(くちばし)を持った鳥が有る。其の嘴は堅く鋭い。色は白く、氷の如し。この悪鳥は地獄の中の一切の罪人の身・皮・脂肉・骨髄を皆食らう。また別の鳥が有り。火の中より生まれて、火の中で過ごし、火の中で食する。この悪鳥は地獄人の一切の身肉を食らう。骨を破ぶられ、骨を破られたら次に肉を破られ血を飲まれ、血を飲まれた後は、次に其の髄を飲まれる。其の時、彼の地獄人は悲しく泣き叫んで悶絶し、大苦悩を受ける。

阿鼻地獄は欲界の最下に有り。此の欲界から色界の上辺、乃至非想非非想天の両界の上はもう世界が無いように、阿鼻地獄の下にもまた世界は無い。

寿命
此の無間地獄の寿命の長短は一中劫なり。一中劫と申すは、此の人寿無量歳なりしが百年に一寿を減じ、又百年に一寿を減ずるほどに、人寿十歳の時に減ずるを一減と申す。又十歳より百年に一寿を増し、又百年に一寿を増する程に、八万歳に増するを一増と申す。此の一増一減の程を小劫として、二十の増減を一中劫とは申すなり。此の地獄に堕ちたる者、これ程久しく無間地獄に住して大苦を受くるなり。-顕謗法鈔-

無間地獄に堕ちるのは
業因を云わば、五逆罪を造る人、此の地獄に堕つべし。五逆罪と申すは、一に殺父、二に殺母、三に殺阿羅漢、四に出仏身血、五に破和合僧なり。
今の世には仏ましまさず。しかれば出仏身血あるべからず。和合僧なければ破和合僧なし。阿羅漢なければ殺阿羅漢これなし。但殺父、殺母の罪のみありぬべし。しかれども、王法の戒め厳しくある故に、此の罪犯し難し。若し爾らば、当世には阿鼻地獄に堕つべき人少なし。但し、相似の五逆罪これあり。木画の仏像・堂塔等を焼き、かの仏像等の寄進の所を奪い取り、率兜婆(ソトバ)等をきりやき、智人を殺しなんどするもの多し。此れ等は大阿鼻地獄の十六の別処に堕つべし。されば当世の衆生十六の別処に堕ちる者多きか。又謗法の者、此の地獄に堕つべし。-顕謗法鈔-

五逆人は地獄の中での其の身長は大きく、五百由旬であり、四逆人は四百由旬で、三逆人は三百由旬で、二逆人は二百由旬で、一逆人は一百由旬である。
一逆罪の業は阿鼻の火によってその罪人を能く焼き、四天下の衆生、及び山天・阿修羅・諸の竜山・窟洲林・大海を皆焼き尽くしてしまうほど。また若し人が二つの逆悪業を造るなら、その火は二つの大海を能く焼くほど。若し人が三つの逆悪業を造れば、その火は三つの大海を能く焼くほど。このように四つの業があれば、四つの大海を能く焼く。