時間や空間は無限のものなのだろうか。また、私達がいるこの世界や私達自身は、本当に実体をもって存在しているのだろうか。
じぶんが認識したものは実在すると言う考え方を示した、デカルトの「我思う故に我あり」と言う言葉に集約される近代思想は、
人間の存在についてのこうした疑問のこたえとして生まれたものである。
そして、その思想を受け継いだ近代芸術は、たとえば風景を写実した絵を通して,じっさいには見た事の無い風景を知るなど、
視覚と想像の作用に支えられた認識のシステムを作り上げてきた。
しかし、想像や意識が作り出す世界は、果たして本当に実体を持った存在なのだろうかと言う新たな問いは、
自分が実際に触れ感じたものの中から世界を知ろうとする、
人間の知覚や身体性をより重視したフーコーやメルロ=ポンテイらによる哲学を出現させたのである。
彼らの思想を受け継ぎながら、さらに、その先へと進もうとする中から生まれた島田 勇さんの作品は、
デカルトらによる近代思想に裏打ちされた芸術が、いまだ多く見られる現在にあって、
新たな芸術の方向を指し示している。人の身体とその周囲の空間とが交錯する様を一貫して描いた画面は、
私達が、自身を包み込む時空に触れ、知覚する事で想起させられる様々な思考を代弁している。
また、作品それぞれにつけられた題名も、そも本質をより明確に知らしめる役割を果たしている。
彼は、新時代の芸術の先駆者の一人である。(評論家。篠原誠司)