続・川棚温泉物語 
月刊「サムソン」 1985年3月号前後に連載されたと思われます。(全4回)
■物語
 『川棚温泉物語』の続編。
 川棚温泉は秀明館の主・彦太郎に惚れ、妻子を捨てて川棚温泉に移り住んだ私(五郎)は、秀明館専属の按摩として働き、彦太郎の囲われ者でもあった。彦太郎も私も年配の肥満体であったが、秀明館にはそうしたタイプの男が同じタイプの男を求めてよく湯治に来、彦太郎や私と遊んでいった。そうした中に”大将”と呼ばれる巨根と抜群の精カで知られる財産家に私は夢中になり、大将の誘いのままに、彦太郎を捨てて”大将”の米子の屋敷に移り住むことを決心する。

 米子の日野川のほとりの千坪を越す敷地の中に建つ二階建て総面積二百坪のお屋敷には、大将(殿)の好みのタイプの五、六人の男たちと二人の女が住み、それぞれが役割を持ち、殿の世話をしていた。
 五郎は殿専用のマッサージ係として、部屋を与えられた。
 そこで五郎を待っていたのは、殿の寵愛をめぐって繰り広げられる男女の愛欲地獄だった。
■米子のお屋敷
 山陰最高峰の大山に近い日野川のほとり、千坪を越すお屋敷の中は大小様々の樹木が植えられ、四季を通じて小鳥の遊び場だった。屋敷の北西には百坪近い池があり、二、三百匹の鯉が放流されていたが、水深もかなり深くめったにその優雅な姿を見ることはなかった。
 その屋敷の北側に南に向いて二階建て総面積二百坪の住宅が建てられていた。階下は玄関、応接間、風呂、便所などがあり、五人の男達と二人の女達の住居がそれをとりまいていた。
 殿が使用する部屋は二階の全部が占められていた。一階玄関を入るとすぐ二階に通じる階段があり、重要な客は階段を上って最初の部屋に通されることになっていた。その隣りが二十畳の殿の居間で、一番奥の二十畳のベッドルームとの間に、殿専用の便所と風呂があった。

 お屋敷の中は一年を通じてたえず三十度前後の温度が保たれているので、十人近い住人達は、男ならお祭りの時に着る胸割りの晒のシャツを着て、下は越中ふんどしだけ。女は男と同じシャツに下着は赤い腰巻だけの格好で過ごしていた。
■お屋敷の主な住人
●私(五郎) 
 六十三歳。殿専用のマッサージ師として、玄関入口のすぐ横の六畳の部屋を与えられる。

「十八歳の時から現在の六十三歳になるまで四十五年間も、完全なウケとして訓練された私は、自分でも他の男とはキャリアが違うと自負していた。口にふくめば、私の唇と舌は縦横無尽に動くし歯のない歯茎は、傷付けることのない愛咬でタチの男をのたうち廻らせた。又、私のバックは過去何十人の男達、それもかなりな巨根を四十五年間も挿入されながら、それが嘘のようによく締まった」
●殿(大将)
 六十五歳。右翼の大物。
 若い頃は司法関係の仕事をしていた。今でも本宅は東京にあり、奥さんも子供も東京にいる。
 170cm、100kgの巨体。
 豊頬、広い額、ふくよかな顎、どこを見ても肉厚で男の精気が漲っている。少し簿い白髪を美しく刈りあげ、目は切れ長、団子のような丸い鼻の下には見事な髭を貯えている。 
 節くれ立った巨根は根元から反りが入り、陰茎の周囲には無数の血管がよじれながら巻きつき、雁首のあたりからさらに強く反り、鶏卵大の亀頭が緩やかなカーブで盛り上がっている。長さは20cmに近く、亀頭冠の直径は7cm。一度射精が始まると、一分間ぐらいは間欠的に放出を繰り返す。
●留吉 
 五十九歳。
 部屋は、二階の殿の隣にある。一番殿の寵愛を受けている。
 若い頃全日本柔道選手権をとったことのある人で、でっぷり肥っている。現在は謡曲の先生。

「六十歳近くになり乍ら、その甘くてしぶい顔も厚い胸板も、丸い太鼓腹も、更にその下にある豊饒の性器も生き生きとして、手にさわれば弾かれそうだった」
●健さん
 青海島の別荘の責任者。
 六十歳位と思われる小肥りの達磨のような男。 
 栄養の行き渡った赤ん坊のような可愛さで、白い餅肌。
 亀頭が太く陰茎もめりはりがついて品があった。
 顔はつるつるで、下ぶくれの愛矯のある顔の真中に鼻髭があり美しく刈りこんでいる。半分以上白くなった頭髪を坊さんのように人工的に剃っている。
 元は腕のいい調理師だったが、二十年前、四十歳の頃、ひょんなことから殿に抱かれて女になった。他の男をふり向きもしないで殿に操をたてている。
●猛
 六十四歳。160cm、90kg。元山伏。
 山伏をしていた頃、鈴木と出会い、タチとして鈴木と関係を持っていた。昨年、鈴木との縁でこの屋敷に来て、殿に抱かれ、屋敷に住むようになった。
 優しさの中に男臭さをむんむん発散させている魅力的な男。
 色が黒いのに白い胸毛がふさふさ生え、太鼓腹だけはつるつるだったが、太ももにもびっしり毛が生えている。頭髪は完全に禿げてつるつる。越中ふんどしの脇からふさふさした陰毛がはみだしていたが、そこだけは真黒。目が細くて鼻が太く唇が厚い。

「殿に較べると小さいけれど全体の格好は正に芸術品だった。それに茎の黒さに較べ亀頭の赤い美しさは、見ていても口にくわえてもあきることがなかった」
●鈴木 
 殿の運転手。56歳、163cm、80kgの小太りで固太り。
 童顔で目がくりくりしている。
 柔道六段で山伏をやっていたが、二十年程前殿と知り合った。
●犬のマサル
 五十歳。よく肥り、可愛い顔をした犬。殿との関係はまだ四、五年だが、殿に可愛がられている。
ぱんと張った太鼓腹の下の男のものは、何時でも真赤にむけて勃っている。 ガラス張りの部屋で、いつも金時腹巻きだけをつけて犬として生活をしている。

「マサルは犬だから誰が遊んでも殿は一切文句はおっしゃらないんだ。だからあんなガラス張りの部屋に入れてあるんだ。遊ぶといってもマサルは、タチもウケも出来るんだ。けっこう大きなマラを持っててタチのほうがよく似合う」
●妙ちゃんと幸ちゃん
 どちらも三十三歳で男より助平。

●頼三・・・四十八歳、肥っており、性器も又巨大。
●正彦・・・四十二歳で、この屋敷の中では一番若い男
■「後記」不倒翁甚平(続・川棚温泉物語 最終章より引用)
 この物語りは勿論フィクションですが、殿によく似た人と私、つまり五郎さんによく似た人は過去に実在していました。そして五郎さんはあまりにも殿を愛し過ぎた為、ある事故で急死しました。
 そこ迄書きこむにはまだ原稿用紙が百枚近く必要ですから、この辺で一応終らせます。もしも五郎さんが今生きていてこの小説を読んだら、頬を赤らめてこう言う筈です。
「私のことをあまりに美しくそして悲しく書き過ぎていますよ。ほんとはもっと打算的でずるい男ですし、ホモなんて何も特別のものでもないんですねえ……」
 でも五郎さんはとても気立ての優しい人で、他人からどんなに意地悪されても、決してその人の悪口は言わぬ人でした。そして本当の人生を真正面からじっと見すえて精一杯生きた人でした。
 私達の仲間にこんなにいい人がいたということは、とても心が落着きますし、彼のことを思い出すだけで私はぼろぼろ涙がこぼれます。
 この物語りは五郎さんに対する私のレクイエム以外の何物でもありません。以上。