留吉の男色人生
  月刊「サムソン」1988.11月号〜1989.9月号に連載(全11回)
 祖父によって男の味を知った留吉が辿る男色人生記。
物語
 東洋一の通天閣の下、西日本最大のふけ専の街「新世界」で繰り広げられる、熟年同性愛者たちの愛と憎しみ、希望と絶望が隣り合わせの人生模様。
 男同士の欲望に翻弄され、傷つき、傷つけ、裏切り、裏切られる留吉。
 男色の神様=増田留吉の幸せは、一体どこにある!

あらすじ
 昭和二年(1927年)、祖父と母との不義の子として生まれた増田留吉は、幼い頃から祖父の股間で遊ぶ事を好んだ。祖父は達磨に似た小柄ででっぷりとした男で、無類の女好きであり、それと同じ程、男も好む人だった。小学校5年生の時、当時56歳の祖父に留吉は背後からのしかかられ、その後ろを犯される。それから四、五年間祖父が60歳になる頃まで、二人は色欲地獄の中で極楽を味わう。二人には何の罪悪感もなかった。
 祖父が64歳で亡くなった時、留吉は18歳だった。留吉は祖父の死後、祖父と男色関係にあった45歳の源作をタチとして抱き、そのまま同棲を始める。その年、日本は終戦を迎え、高等小学校を卒業後、十三歳から軍需工場で働いていた留吉は、知人の紹介で市役所の衛生課に入り、肥取りの仕事をするようになる。
 衛生課の先輩で当時53歳の田中さんという紳士然とした男に夢中になった留吉は、やがて田中さんも同じ性向であることを知り、二人はホテルで結ばれ、その後、十四、五年間琴瑟相和して生活を共にする。
 田中さんが突然、留吉の前から姿を消したのは、田中さんが67歳、留吉が32歳の時だった。田中さんを連れて行ったのは、やくざの親分だという噂が流れた。留吉は大きなショックを受け一月泣き続け、それから市役所を辞め、意地になって田中さんを捜した。以後定職を持たず職を転々としながら、ただ無為の時を過ごした。
 田中さんの死を留吉が知ったのは、それから十一年後の昭和四十五年(1970年)、留吉43歳の時である。
 田中さんの最後を知る為、留吉は平戸島に向かう。田中さんの最後を看取ったのは、隆さんという男だった。その隆さんに抱かれウケの快楽を知り、隆さんの女となった留吉は、そのまま一月を平戸島で過ごす。そして、成り行きのまま隆さんについて大阪にいくことになる。
 大阪の労働者の街で、希望に燃え、四十三歳からの新しい男色人生を始めた留吉だったが、果たしてその前途は・・・・?

万吉の感想
 留吉さんのことを思いながら、あがた森魚のCD「永遠の遠国」を聴いています。

♪熊本 南熊本 水前寺 龍田口 三里木原水 肥後大津 瀬田 立野駅 のりかえ 長陽 阿蘇下田 あとは夜峰の岳 ♪ 「いとしの第六惑星」

 夜の海を走るように進んでいく列車を歌った「いとしの第六惑星」から始まるこのアルバムの4曲目、友部正人の曲をあがた森魚がカバーした「誰も僕の絵を描けないだろう」はまるで留吉さんのテーマソングのように切なく、僕の胸に届きます。

♪誰も僕の絵を描けないだろう 僕の失敗はぼくの引き出しの中にしかない
♪うんとうんと重たい靴を履くんだ 歩いているのが僕にもわかるように 一度始まればもう終わりはない 「誰も僕の絵を描けないだろう」

 留吉さんが普通に女と結婚していたら、彼は絶対浮気をしないタイプの男です。

ちょっとだけよ
留吉の男色人生  第二回

(三) 男色への旅立ち

 秋は駆け足で去ろうとしていた。木々の青さが日毎に色付き紅葉すれば風もないのにはらはらと散った。秋はもの淋しいというけれど留吉にとって毎日が薔薇色だった。今までは朝が一番嫌だった。それも目覚めの時は体も心もひどく病んでこのまま死んでしまったらどれほどすっきりすることかと思う。来る日も来る日もそんな朝ばかりだった。

 それが隆さんと知り合ってからは一日のうちで朝の目覚めが一番充実している時になったのだ。毎日隆さんが傍にいる訳ではないのだが、傍にいれば更にいい朝を迎えることが出来たし、居なければいないで隆さんのことを思うとこの世が薔薇色のような気がした。田中さんの死を悲しんだ彼が日毎に明るさを取り戻した。

 留吉は衛生課の仕事をきっぱりと止めてから二、三十の職を点々としている。どの職場も長続きがしなかった。それ故生活のことを考えてお金だけは大切にした。無分別に使うような愚かなことはしなかった。留吉の性格からすればちゃんとした職に長く勤めたかった。然し少し好きな男が出来ると職を休んで何処までも追い掛けるので不可能だった。

 今度の平戸島に来る時も会社の人には『ほんの一泊するだけです』と言って出てきたし、その時は自分でもそう考えていたのだが隆さんに抱かれてその予定が大きく狂ってしまったのだ。あーあ、今度も又たったの五ヶ月かと留吉は思った。市役所の衛生課を止めてからの留吉は職を点々としながら止める時の決断は非常に早い。

「お前がまともな職につくのは似合わねえんだよ。おまえはおとなしく俺の女でいたらいいのだ。そんな一ヶ月七、八万円のアルバイトなど止めてしまえ」

 隆さんの鶴の一声で仕事など何とかなると即座に考えたのだ。それに一泊が二泊になり三泊になり、ほんとならそれだけ滞在して平戸島から帰るはずだったが隆さんのその言葉でもう一泊することになり、そんな日を重ねるにつれて帰りそびれ何時の間にか隆さんから離れて一日も過ごせないような体に変化していた。

留吉は隆さんから教えられて炊事、洗濯、料理などまがりなりにどうにか出来るようになり、田中さんの生前の仕事をそのまま受持たされている。セックスも田中さんの後釜のようなものだった。隆さんは欲情すると真昼でも留吉の体に乗ってくる。そして『爺も助平だったがおまえもほんとに助平だなあ』と言うのだった。

 留吉は隆さんからどんなことをされても言われても少しも腹がたたなかった。そして性的にはどんなことをされても嬉しくてならない。特に炊事をしている留吉の後ろから着物をはぐって抱き付いてくるような隆さんのせっぱつまったセックスが堪らなかった。約十五年間もタチばかりやってきたという事実が嘘のようだった。

 祖父が口癖のように言っていた『男色はウケが一番いい、ウケを一回おぼえたら病み付きになる』という言葉が的を射たものだと改めて思った。それも相手によりけりだが、隆さんに抱かれる日を重ねるに従って情が増し一日中体をどうにかして貰いたいと思うようになっている。

 隆さんの口癖は『朝から晩まで一日中ふんどしもパンツもはくな。俺のマラを入れたい時は何時でも入るように、ズボンや着物の下はすっぽんぽんでいろ』である。それだけに炊事場で大根などを刻んでいる時後ろから出し抜けに迫られると、天に昇る程嬉しい。小春日和の温かい日の午後など隆さんは家にいる限り必ずそんな留吉を後ろから抱く。

 平戸島での二人の生活が一ケ月近くなっている。その間抱かれない日は殆どない。その日も留吉は炊事場で大根を刻んでいた。隆さんは午後の日差しを受けて大の字になって寝ている。太陽光線で部屋が温められるに従って隆さんの着ているものが一枚又一枚と少なくなりシャツと越中ふんどしだけになっている。

 薄いズボンをはいている留吉の尻を見て興奮したらしく突然隆さんが留吉を後ろから抱き抱えた。『いいだろう、おまえは俺に惚れたんだろう』隆さんは顔を無理に後ろに向かせて口を吸っている。そんな恰好になると留吉の肛門がすぐ緩む。隆さんは素早くズボンをおろして勃起した陰茎を留吉の尻に押しあてる。

 そんな動作をしただけで彼の陰茎がずるずると留吉の肛門の中に入ってくる。その雰囲気が如何にも無理に犯されているような気になるし、隆さんの女になるというような受け身の愛を感じて包丁を握ったまま畳の上に俯せてしまう。後ろから隆さんが立て膝のまま留吉の肛門を犯す。膝を畳に付いている時と異なり動かす支点が足だから隆さんの陰茎が思わぬ深さにまで入ってくる。

 それから隆さんは留吉の両手を炊事台にかけさせて自分は食卓の上に上がり立て膝のまま静かに挿入する。根元まで入るともう一度足を広げさせて腰を突きあげる。一度だけ確実に奥のほうに入るよう強く確かな挿入である。留吉は尻だけをぴーんとそらして隆さんの腰の動きに合わせる。けれども決して留吉に主導権を与えない。留吉を炊事台にぶら下げたままその勃起した陰茎を根元まできっちりと詰めこんで執拗に話したり訊ねたりする。

「留はもうずっと此処にいるのか、こんな所でも楽しいのか」

「はい、たのしくてなりません。だからもう帰りたくありません」

「けど俺はもうすぐ大阪のほうに帰るぞ、何時までも遊んではおれないからな」

「その時は必ず私も連れていってくださいよ、お願いします」

「そうか、そんなに俺に惚れたのか。おまえは俺のマラに惚れたのだろう」

「いいえ、隆さんの人間性に惚れました。隆さんなしではもう一日も暮らせません」
「ああ、そうか。おまえは俺のマラには惚れなかったのだなあ。俺のマラよりも大きなマラを入れられたので俺のものでは満足が出来ねえんだなあ」

「違います、違います。隆さんのマラにも惚れてしまいました」

「そうか、どんな具合に惚れたのか」

「どんなことをされても嬉しいだけです。それに……」

「それにどうしたのだ。俺のマラがどうしたのだ、早く言って見ろ」

 隆さんは立て膝から尻を畳に付ける態位に変えると同時に両手を留吉の体に回してしっかり抱きかかえそのままごろりと後ろにひっくり返った。留吉も隆さんの体の上でごろんと仰向いている。隆さんはそれ程でもないのだが、留吉は非常に不安定である。どちらかに自分の体重が傾くと隆さんの体から落ちてしまう。

 然し隆さんは留吉の体に太くて長い陰茎を突き刺しているので少々のことでは抜けない。隆さんはそのまま留吉の耳に口をつけて言った。

「こんなことをしたことがあるか、爺をこの態位で抱いてやると泣いて喜んだぞ。穴の中と背中が同じ位気持ちがいいといって声をだして泣くのだよ」

 留吉は田中さんを二十年程前何度も抱いていながらこんな難しい恰好になったことがない。まだ若かったので子供の遊びだったのだと思う。それに比べると隆さんはベテランだから下のほうから突き上げている陰茎の角度が適切で丁度前立腺を突くような恰好になっているので田中さんのことはさておき、留吉自身が気持ちがよくて泣きたくなる。

 隆さんは余程のことが無い限り留吉の体、特に性器や乳等を触らない。触るとすれば肛門付近に限られている。だから留吉を愛撫するのは隆さんの陰茎だけだ。その陰茎が長くて太くて固いので総てに自信があり陰茎の挿入加減や角度で相手がどれだけ喜ぶかを正確に計算しているのだ。

 留吉が精液を吹き出したのはそれから間無しだった。吹き出すのと前後して留吉は声を出して泣き叫んだ。その声を聞きながら隆さんは満足の声を出した。満足の声といっても大きな声で叫ぶのではなく小さく『うっうー』というような呻きだけだった。それから両足で留吉の両足を外から引っ掛けて自分の体に引き寄せて目を閉じた。

 僅かに口が開いておりかすかな息使いが聞こえる。隆さんが留吉の体の中に射精しているのだ。彼の射精は何時でも留吉の体にこれ以上密接出来ない程強く抱き締めてどくどくと何回にも分けて注ぎ込むのだが、目をしっかり閉じて口を少し開けたその表情はより深い男色の快感をじっくりと鑑賞しているような風情である。

   ☆ ☆ ☆

「留、おまえはもう俺から離れられないなあ」

 二人のセックスが終わってから隆さんが留吉を抱いて言った。

「そりゃそうですよ、初めてウケの良さを味合いましたから仕方ありません」

「そうか、分かったよ」

 そういいながら留吉の中に入っている隆さんのマラが再び勃起している。六十五歳にもなりながら二十歳台の青年と同じである。

「それでは俺の行く所には何処でもついてくるか」

「勿論何処へでもついていきます」

 隆さんが珍しく自分の腹に乗せた留吉の性器を握った。精液でべとべとに濡れている。

「明日、平戸島を立って大阪にいくぞ。ちょっと此処にいるとやばいんだ」

 暫く沈黙が流れた。留吉はどういう風にやばいのか詳しく聞きたいと思った。然しそんなことはどうでも良かった。ただ隆さんという立派な男を信じてついていけばいいのだと自分自身に言い聞かせた。今更とても別れることなど出来ない。とすれば一蓮托生である。隆さんについて行ったことで不幸になってもそれでいいと思った。

「私を大阪にでも東京にでも連れていって下さい。お願いします」

 留吉ははっきりした声を出した。自分ではそう思ったが肛門の中に入った隆さんの陰茎が再び留吉の前立腺をこつこつとノックしたり掻いたりしているので声は囁くような小声で隆さんには半分も聞こえなかった。その時玄関を叩く音がした。

「おーい健三か、上がってこいよ」

 隆さんは留吉の肛門に陰茎を埋めこんだままそう言った。多分知っている人だとは思うが留吉にとってはこんな恰好は第三者には見せたくない。然し隆さんの声を聞いた健三という男はそのまま上がってくるらしく、がたぴしと玄関の板戸を動かす音がする。何とかして隆さんの体から離れようとするのだが彼は留吉の体をしっかり抱き込んで言った。

「何も恥ずかしいことはない。男同士で愛し合って何処が悪い。今入って来るのは俺の弟分で純粋のタチだ。歳は俺より十五歳も若くて丁度五十歳だよ。前からおまえを一度貸してくれというのだが、おまえだけは貸したくなくてなあ」

 その健三が入ってきた。彼は二人を見ると言った。

「よかですね昼間から、親分が羨ましゅうてたまらん。けど留吉を見とるとほんなこと気持ちのよか顔をして可愛いのう。そりゃ親分の太かマラを入れられりゃ誰でんこげんなる。留吉もとうとう親分の女房になってしもうたのう」

 留吉は健三が自分の名前やその他色々なことを知っているのが不思議な気がしたが、隆さんから抱かれてよがっている自分の恥ずかしい姿を見られるのが辛かった。男色のような交わりはやはり二人だけで密かに営みたいと思う。然し隆さんは傍に健三がいることを意識してひどく興奮するらしく射精寸前の陰茎で留吉の前立腺を集中して突いてくる。

 言葉も健三に聞こえるように卑猥なことを選んで喋る。

「どんなに健三が頼んでもこいつだけは貸せないなあ。こいつの尻は天下一品でよう締まる。それにもうすぐ泣き出す、その声が前の爺ちゃんと同じだよ」

「相当深い快感を感じとるごとあるなあ、親分はいいのう」

 健三は如何にも羨ましそうにそう言って隆さんと留吉の顔を交互に見た。健三は薄手のズボンを履いているので股間の勃起がそのまま分かる。

 健三は暫く躊躇った末急に身をかがめると留吉の性器を口に含んだ。あっという間の変わり身である。

「健三にそれくらいの事をされてもいい。明日は俺が大阪に連れていくが大阪ではおまえばかりには構ってやれない時もある。そのかわり大阪には『竹の家』や南のバアー等面白い所が一杯ある。そんな所を案内してやるぞ。おまえは俺が完全に女に仕込んだので大阪ではもてると思う。けど身持ちは慎んだほうがいい生き方ができる」

 隆さんはそういいながら射精に向かって長いストロークの腰使いを始めた。

                         (続く)