我が人生に悔いなし
月刊「サムソン」1997.3月号〜1998.2月号に連載(全12回)
■主な登場人物
●私(五郎)  七十四歳 161cm60kg
  二十三歳で結婚し、五十歳近くまで炭鉱で働き、その後も肉体労働を六十歳まで続けた。三人の子供は独立し、妻は肝臓を病み病院に入院しているので、今は飯塚市の郊外の家に一人暮らしの状態。
●菊地さん  七十九歳 165cm76kg
 繊維会社の社長。
 五郎とは終戦後、炭鉱で働いていた頃、知り合い毎夜交合した関係。菊地さんが炭鉱を辞め、疎遠になっていたが、五郎が定年した頃三十七、八年ぶりに再会し、縒りが戻る。
●Y先生  六十九歳
 医師。去年暮れ泌尿器科の医院を息子に譲り、福岡市の郊外に隠居所を作り一人暮らしを始めた。
 五郎が六十一歳の頃、前立腺肥大症になり、治療に通ったのが縁で男色の関係を持ち、以来続いている。
Y先生が菊地さんを評して五郎に言う台詞
「会社の社長というのは旨く立ちまわり、儲けるコツさえ掴んでしまえば後は性欲のことだけに集中すればいい。要するに助平だということだ。その点医師は科学者だから何時も頭のなかは研究心だけで一杯だ。性欲のほうにまで頭が回らないのだ」
「爺ちゃんは、菊地さんのことを喋るとき何時でも目が潤んでる。菊地さんの体によほど惚れこんでる証拠だぞ。けど七十九歳になってもマラを勃起させ、爺ちやんを腑抜けにしてしまうほど元気だと言うことは、医学的に見て一種の変態だと思う。俺なあ、そんな男に爺ちゃんは抱かせたくない。その爺さんのマラを一度診察する必要を感じる」
抜粋 「第三回 (3)菊地さんと俊治の男色模様」より
 私は車を玄関脇の駐車場に入れ、それから「御免ください」と大声で叫んだ。思い焦がれた菊地さんに逢えるというだけで声までに張りがある。暫くして中から錠前のフックを外す音がしてドァーが開き、恋しい菊地さんの顔が現れた。そのまま抱きつきたいほど好きな菊地さんなのに、上半身は着ぶくれているのに下は越中ふんどしだけである。

 その越中ふんどしの前面が大きく膨らんでいる。過去にこのようなことは一度もなかった。出迎えるときはきちんとした服装で現れ『五郎か、よく来てくれたなあ。待っていたよ』くらいの言葉を掛けてくれたのに、その日の菊地さんは別人のように崩れていた。未だ寒い時期なので体を竦める気持ちは分かるが、何だかひどく汚れた爺さんに見えた。

 私は戸惑って菊地さんの前で一瞬立ち止まった。そんな私の態度を敏感に感じとったのは菊地さん自身だった。彼はいくらか猫背になった姿勢を立てなおすと、何時ものようにいくらか反り身になり、やっと聞こえるような声で囁いた。

「五郎よ、よく来てくれた。こんな恰好で出迎えて御免よ。実は一時間ほどまえ俊治が来た。俊治の奴は若いのですぐ俺の体を欲しがってなあ、俺ほんとに困ったよ。けど俺が何時か言っただろう。一度だけ俊治を五郎に見せたいと。そんな出会いがあれば五郎は俺とも、もっと親しくなれるし、俊治という四十歳の若者の生態も理解できると思う」

 菊地さんは私の手を引き、俊治のいる八畳間に連れこんだ。八畳間は暖房がよく効いてむっとするほどの暑さだった。私は寒さを避けるためコートまで着込んで来たので、その分だけ暑く感じたのだろう。それにしても部屋の空気は暑さのなかに、何時もと全く違った男臭さでむんむんしている。菊地さんだけではとてもこんな匂いにはならない。

 その男臭さのなかで俊治がすっくと立っていた。私はその部屋に入ったときから彼の存在に気づいていたが、努めて彼を見ないようにした。私がこの部屋に来たのは恋焦がれた菊地さんに抱いてもらうためだけで、俊治は全く部外者である。否、邪魔者だった。しかし改めて見れば四十歳というのが当然な風采をしているし、ごく普通の男である。

 骨組みも目立つほどには逞しくないが、両肩の盛り上がりが瘤になっているし、胸の出っ張りも見事で、特に太股の大きさは体のバランスを崩すほど太かった。背丈は百六十八センチ前後で体重は七十五、六キロはありそうである。それに文句なしに私が興味を抱いたのは、彼が締めこんだ六尺褌の内部から盛り上がった大きな脹らみである。

 それらの総てを瞬時に見てしまった私が真先に感じたことは、独断的に若いと決めこんでいた四十歳の男は、既に完成され更に熟れた男になるべく磨きをかけられ、若さの頂点を過ぎようとしている年代だという事実だった。それに玄関に出てきた菊地さんの越中ふんどしは、だらしなく緩んで内部の睾丸など二つとも見えてしまうほどに崩れていたのに、俊治のきりりと結んだ六尺禅は一点の乱れもなく、筋肉質の体にぴったりだった。

 部屋の様子から私が訪れる寸前まで二人は男同士の愛に燃え、様々な姿態を繰り広げ、束の間の逢瀬を楽しんでいたに違いないと思わせた。それを如実に示したのが菊地さんの何時もの毅然とした態度からは、想像も出来ないほどの乱れようだった。それに比べ若い俊治のすっくと立った雄姿は、菊地さんが手放せない最大の理由を物語っていた。

            ◇

 広間のドァーを締め部屋に菊地さんが帰ってくると、それまで毅然として立っていた俊治が両膝を畳につき深く腰を折り、菊地さんに向かって「お客様がお出でになりましたが、私はこのままで宜しいですか」と訊ねた。

 すると菊地さんがおっとりした声で答えた。

「俊治には言ってなかった。こいつは俺の第一の愛人で五郎と言う七十四歳の爺さんだ。これで俺の二人の愛人が揃ったが二人とも甲乙付け難い。どちらも俺の宝だ。俊治は五郎に何も遠慮することはない。さっきは俊治が仰向きに海老になり上から俺が掘っていたが、今度は犬のように上体を畳につけ、お尻を俺のマラの高さに掲げ俺のマラを受けてみろ。おまえはその体位が好きだったな。そのまえに俊治よ、先ず六尺をはずせ」

 その言葉を聞くと俊治は膝をついたまま『はい、承知しました』と一礼して立ち上がり、素早く六尺褌を解いた。解いた六尺褌を畳んで部屋の隅に置いてその全身を曝した。

 全裸で私たちの前に両足を少しだけ開いて立った俊治の姿を見て、私は思わず「うおーっ」と感嘆の声をあげた。

 六尺褌をきりりと締めこんで立っているときは、それほど驚かなかったが、同じ体の中心部にぶら下がった性器を諸出しにされると、俊治の体は別物のように光って見えた。それに今まで気づかなかった体毛の多さにも改めて感動した。彼の胸にも脇にも股間にも、まさに剛毛とよぶに相応しい体毛がびっしり生えている。

 俊治が犬の姿勢になろとした寸前、再び菊地さんの待ったがかかった。

「俊治よ、お前のマラを五郎爺さんによく見てもらえ。五郎が未だ見たがっている」

 俊治が再び威儀を正して仁王立ちした。俊治の性器がぶらりと二、三回揺れた。いかにも重そうだから揺れてもせいぜい二、三回ですぐ静止する。

 しかし俊治の性器は、菊地さんに何らかの声をかけられるたび少しずつその容積を増す。私は目を点にして俊治のずば抜けて大きな性器を見つめた。もう若造など何の興味もないとは言えなくなっていた。

 二つの睾丸も十分に大きく膨れているのだが、老人のそれのようにだらりと垂れてはいない。それは長大な陰茎とセットだと言わんばかりに陰茎の下にぴたりと吸いついている。その周囲を夥しい陰毛が生い茂っている。いかにも睾丸や陰茎を守っていると言わんばかりの茂りようだった。

 陰茎の先端にひときわ段差をつけた亀頭が、身じろぎもせず三十度ほどの角度で前方に離れ、睾丸よりはるか下のほうでその存在感を主張している。

 そんな中で私が最も感動したのは、亀頭や陰茎の大きさとか長さに加えて、陰茎の色彩が未だ黒ずんでいないことだった。さらに亀頭の色彩は美しいピンクと言うよりも桜色で思わず『綺麗だなあ』と叫ばずにはいられなかった。

 三十年前は私の物もきっとそんな色をしていたのだと思うと、俊治の性器に縋り付いて力づけて上げたかった。

 俊治は非常に礼儀正しく、よく観察すれば菊地さんの意のままに動いているようだった。私などにはとても真似の出来ない服従心で仕えていることがよく理解できた。

            ◇

 何時の間にか俊治が敷布団の真ん中で顔を布団にぴたりと付け、尻だけを高く掲げて菊地さんの性器を受ける態勢になっている。其処にゆっくりとした動きで菊地さんが近寄った。

 菊地さんはいきなり右手の人指し指と中指を重ね、俊治の肛門のなかに潤滑油を塗りこんだ。ぐるりと回したり前後に出し入れを繰り返した。それから自分の熱り立った亀頭にも塗った。いかにも自分の亀頭を慰めているような仕種だった。さらに陰茎の根元まで塗り下げた。俊治の献身的な振る舞いに感じ、菊地さんの性器が完全に勃起している。

 菊地さんの左手が俊治の尻を引き寄せながら、右手で陰茎を握り亀頭の先端をぴたりと俊治の肛門にあてがい、そのまま腰を僅かに前方に送った。

 それだけで亀頭の半分近くが肛門のなかに入っていた。其処で一瞬、間を置いてから次の動作で亀頭を全部、俊治の肛門のなかに入れてしまい、さらにその勢いでずるりと根元まで送りこんだ。

 七十九歳の老人にしては、菊地さんはまさに男色の権威者だった。根元まで入れるのに十秒もかからなかった。それから亀頭の鰓で括約筋を引っかけるまでゆっくり引き抜き、反動でもつけるように再び根元まで挿入してしまう。俊治が『くっくっくっ』と言うような声で良がり泣いた。その声を聞くと菊地さんがそのままの態勢保ったまま言った。

「俊治は若いし俺に惚れているからすぐ暴発してしまう。けど実に良い尻をしている。根元まで入れてしまえば俊治の尻が俺のマラを腸壁で叩いたり、いろんな動きをしながら時々トコロテンで射精してしまう。しかし今回は五郎、おまえが口で俊治の亀頭を愛撫してやれ。俊治の精液は全部五郎にやる。いい味をしているぞ」


 その言葉を聞くと私はそのまま逆向きに俊治の体の下にもぐり込み、巨大な俊治の亀頭にむしゃぶりついた。それは菊地さんほどではないが若いだけにぴんぴんに張って何とも言えない口当たりだった。私は喉に突き刺さるほどに啜りこみ、歯茎で陰茎の中央部を甘噛した。その目の前で菊地さんのどす黒い陰茎が俊治の肛門を犯しているのが見えた。

 私は俊治の亀頭から陰茎まで歯茎で愛撫しながら、何故か菊地さんの亀頭や陰茎の根元などを口にくわえたかった。しかし私の陰茎もまた俊治にしゃぶられていた。その口触りの感触がたまらないほど良かった。俊治はそんな技術を誰に教わったのだろう。にもかかわらず私の関心は専ら、私の目から五、六センチの所で俊治の肛門を抽送する、菊地さんのどす黒い陰茎の動きだった。

 私は菊地さんの陰茎をくわえたくていらいらした。俊治の性器が私の口のなかで次第に大きくなり、突然『おおおーっ』と叫び、その直後に俊治が豪快な射精をした。多量の精液が私の喉を直撃した。喉に打ち込まれた俊治の精液は次々に口のなか一杯に広がり、それは菊地さんの物とは全く違う味がした。私はそれをどうしても飲みこむことが出来ず、そっとタオルに吐きだした。

 そんな私の口に菊地さんのどす黒い亀頭が入ってきた。それは今まで俊治の肛門のなかに入って俊治を泣かせた代物だった。しかし限りなく菊地さんの匂いがしたし、菊地さんの味がした。私はそれを含んでいるだけで心が落ちつき何とも言えない快感がせめぎあがり、声を殺してむせび泣いた。私の性器を俊治が本式にくわえているようだった。

 菊地さんの亀頭や陰茎さえ口にしていれば、私はとたんに欲情してしまうし心が豊かになって、生きていてほんとに良かったと思う。

 それに比べると俊治の性器など、どれほど大きかろうと何故か私の口には馴染まない。
私は両手で菊地さんの睾丸の下で膨れている瘤を愛撫しながら、亀頭を口一杯に頬張って次第に宇宙空間を彷徨い始めていた。

 もう俊治のことなど頭にはなかった。外では春の嵐が吹き荒れていた。