男の味
「豊漫」第14号〜第16号に連載 (全3回)  1989年〜1990年

物語
 昭和四十年春、「私」が晋三さんの整骨院の受付をするようになってから一年になる。晋三さんに拾われるまで、四十以上の職を転々として、ちゃらんぽらんに生きてきた「私」がやっと腰を据えて働く気持ちになれたのは、晋三さんの男としての魅力に惹かれたのが最大の理由だった。
 梅雨の終わる頃、晋三さんの奥さんが子宮癌でなくなった。晋三さんは心血注いで奥さんの看病をしながら、その一方で若い女を連れ込んで抱きもする男だった。そのくせ実は男好きではないかと思えるふしもある。
 奥さんの野辺送りをすませ、整骨院を再開してしばらくして、「私」は客の一人である元田さんから求愛される。それを知った晋三さんは「私」に対して、初めて本心をうち明け、それから、二、三日が過ぎた夜、二人は固く結ばれた・・・・。
 

登場人物

晋三さん
 六十歳。北九州市で五十五歳まで働いた警察を辞めて整骨院を経営している。警察官当時から体重が九十キロあり、柔道は三十五歳の時六段をとっている。それに丸い顔が童顔で愛嬌がある。その顔に歳をとるにつれて渋味が加わり、そんな彼の風采が整骨院の人気を盛り上げている。


 四十四歳。 パチンコ屋の店員を振出しに、寿司屋、自転車屋、薬屋、鰻屋、鍍金工事屋から露店商やぜげんの真似事など一年前、ひょんな事から晋三さんに拾われて整骨院の手伝いをするようになるまで、四十以上も職業を変えながら、世間を渡り歩いてきた。

元田さん
 六十九歳。小太りで愛矯のある童顔。

野島医師
 中肉中背でよく見ると品のある老人。

鶴田静夫(鶴さん)
 六十五、六歳。元中学校の校長。

北島さん
 電力会社社長。
抜粋 「男の味(上)4」
 その夜晋三さんの提案を断ることも出来なかった。それどころか閉院後の受付室で散々愛撫され彼の陰茎を握らされてすっかりその気になってしまったのは、むしろ私のほうだった。食事をすました後私は診察室のベッドの上に仰向きに寝ており、晋三さんは私の足のほうに位置して私の股間を両手で愛撫している。

 太平洋高気圧が日本列島に本格的に居座って、日中三十五度もあった気温が夜になっても中々下がりそうになかった。しかし冷房は昼と違って部屋の隅々まで冷やして窓やカーテンをしていても少しも暑さを感じなかった。二人は最初越中ふんどしだけの裸だったが、何時の間にかその褌さえ外して真っ裸になっていた。

 私の体は仰向けになり尻がベッドの縁から外に出るような位置に調節され、肛門の中には晋三さんの中指が一本根本まで入っている。『体を固くしないでだらりと力を抜けば痛くないよ』彼はそんなことを言いながら中指に添わして人指し指も中に入れようとしている。一本だけならそう痛くないのに二本にすると錐でも刺されたような痛さが走る。

 彼は私が遠慮深く『痛い』と言っても一度入れてしまったものは決して抜こうとはしなかった。抜く代わりに彼は私に自分の勃起した性器を握らした。不思議なことに私が痛いと言えば言うほど彼の性器は一層固くなるのだった。過去に私は年令が彼と同じくらいの男と付き合った事があるが彼ほど頑丈な性器ではなかった。

 それをじっと握っていると肛門の痛みが事実遠ざかるような気がした。しかし二本の指が完全に入ってしまうと強い痛みが襲って思わず涙が出た。それを見た晋三さんは太鼓腹を私の太股に擦りつけて私の陰茎を銜えた。彼の性器は私の口の中にあり、彼の口は私の性器を銜えており、更に彼の中指と人指し指は私の肛門の中にぴたりと入っている。

 彼はそうしながら私の快感をどんどん追い上げる。私の下半身が自然にくるくると動き肛門の痛みが全く無くなっている。一年間も恋い焦がれていながらじっと耐えてきたので晋三さんに抱かれるだけで気をやってしまうのに、抱かれて股間の前と後ろを同時に愛撫されて空中を飛びながら彷徨っているような気がした。

「洋平よ、今日はどんなことがあってもおまえを女にしてやるぞ。いいなあ」

 晋三さんが私の性器から口を離して言った。興奮した声である。

「こんな大きなものが入るでしょうか。それに肛門性交なんて不潔です」

「何が不潔なものか、おまえはそんな面白みのない男なのか」

「違います。私は先生が好きでなりません。だからそう思うのです」

「おまえは偽善者だ。ほんとに肛門性交が不潔だと思うのか。馬鹿なことを言うな。男同士が好きあったら肛門性交なしで長く続くわけがない。俺の経験では百パーセントそうなんだ。それほどいいもんだ。それにしてもおまえは四十四歳まで処女だったのか」

 私は黙って晋三さんの性器を棒握りしている。それだけが私に出来る唯一の晋三さんに対する愛撫である。男同士が好きあえば肛門性交以外にないと晋三さんはいうのだが、お互いに性器を舐めあうだけで満足する愛もあれば、相手の体全体を心ゆくまで舐める愛もある。ただ黙って抱き合うだけで満足する愛もあるのだ。

 そんな私の考えを否定するように晋三さんが言った。

「どうだ、まだ穴が痛いのか。ええ、どうなんだ、この指と俺のマラを変えるだけで少しも痛くない筈だ。それにおまえが俺に少しでも惚れていれば、どんなに大きなものでもずるりとはいるものなんだ。そして今まで痛かった場所が皆反対に気持ちがよくなるよ」

 晋三さんはそういいながら私から体を離して本格的に性器を挿入しはじめた。

「ある人間はマラの太いのが好きでたまらないのに、マラの太い奴は横柄だからあまり太いのはげっぷがでる等と言うのだが、大体男が好きだというのはマラの大きいのが好きだということなんだ。洋平もそうだろう、黙っていても俺には分かる」

 晋三さんはマラとか尻というような下品な言葉を平気で使用する。過去の彼は絶対にそんな素振りさえみせなかったので私は思わず彼の顔を見た。何時もは色白の顔に血が巡りぽっと赤くなっている。顔全体は少し怒ったように見えるのだが、目尻だけが下がって見えるので何ともいえない色気がある。

 何時の間にか晋三さんの二本の指が抜かれて私の肛門にぺたりと彼の性器の先が密着して、尚も奥のほうに押し入ろうとしてプレッシャーがかかる。前以て軟膏のような油が塗られているらしく滑りがよくてすぐにでも入ってしまうような気がする。晋三さんの上半身は前屈みになっているのだが、下半身はぐっと反っている。

 下半身と同じように彼の性器も又こちこちに固くなって太鼓腹のほうに向かって反っているので安定感がないように感じるのだが、こんなものが私の中に完全に入ってしまった後はさぞぴったり噛み合うだろうと思う。そして晋三さんも又男として最高な形となるだろう。私は彼が言うように全身の力を抜いて晋三の動きに体を委ねた。

「洋平もいいマラを持ってるなあ」

 彼はそう言いながら仰向いている私の性器をねろねろと揉んだ。体液なのか精液なのかよく分からないが、分厚い彼の手はどろどろに濡れておりそんな手で愛撫されると、思わず声がでる。その愛撫は誰よりも上手だった。あまりの快感に夢中になっていると肛門にぴたりと密着した彼の性器が少しずつ入ってくる気配がした。

「ええか、おいええか。いまおまえは俺の女になっているのだ」

 彼は『いいか』といわずに『ええか』と言う。そう言われるとほんとに彼の女になっていくような気がした。しかし、心の奥ではあんなものが肛門の中に入る筈がないと思った。晋三さんは『俺の女になる」等といいながら快感の為すっかり濡れてしまった雁の周辺をずるりずるりと分厚くて柔らかい手で揉みながら少しずつ挿入してくる。

 よもや入るものかという否定の後から、何だかずるずると入ってくる気がする。それよりも私の肛門が晋三さんの愛撫を受けて完全にゆるんでいるのだ。遊んでいる二本の腕が宙に泳いでいるが、何かにすがりつきたくて思わず半身を起こして晋三さんの太鼓腹を掴もうとして滑って後に転がった。

 その直後に彼が私の体を抱きかかえた。

「どうしたのだ。おい、洋平。雁がやっと入ったぞ」

 肛門の括約筋の周辺がひどく痛んで、私は顔をしかめた。

「ここまではいれば、もうこっちのものだ。根元まで入れるぞ、ええなあ」

 彼はそう言ったが雁まで入れただけでそれ以上中々挿入しようとはしなかった。しかし雁だけ入れたままやっとそれと分かるような動きで私の肛門を刺激した。びりびりと振動するバイブレーターのような動きだった。そうしながら私の性器をべとべとに濡らして扱き上体を屈めて口で吸った。

 私の尻は完全にベッドの縁の外にあり晋三さんの性器と繋がったまま、彼の動きに従って上下左右に動く。その尻が彼の意志ではなくひとりでに動き始めた。何だか空中を飛んでいるようで声を出したくてたまらない。ひどく恥ずかしいことになるような気がするので、出来れば先に進みたくないのにどんどん追い上げられるような気持ちである。

「気持ちがよくなったのだなあ、おい、洋平、そうだなあ」

「はい、先生。あーあー……」

 それ以上如何なる言葉も出なかった。ほんとは『入れてください』と言いたいのだがその言葉をぐっと噛みしめて晋三さんの体に抱き付いた。

「うーう、洋平いくぞ」

 晋三さんは私を力一杯抱きしめると腰を一杯に突き出した。私の下半身が海老のようにまがった。彼は更に私を抱き締めた。彼の性器がずるずると私の体の中に入ってくるのが分かった。胃が突き刺されているような気がした。腹全体に空気が溜まって何処かに押しこめられて気持ちが悪い。このままでは耐え切れないような不快感を覚えた。

「根元まで入ったぞ。どうだ、苦しいか。なーにすぐよくなる。それまでこうしてじっと待ってやるからなあ、気持ちがよくなれ」

 晋三さんはそんな呑気な事を言いながら顔を私の真上に近づけた。彼の顔は私が想像していたよりずっと真剣だった。顔が真っ赤で頬の筋肉が内部から盛り上がっている。私の後頭部に回した腕の筋肉が丸く盛り上がっている。それ以上にやんちゃな童顔が恋に燃えてとても六十歳を越えた男には見えなくなっている。

 その顔を見たとたん私の体の中の何かが音たてて崩れたようだった。こんな筈ではないと思いながら、体の内部が想像さえしなかった何かに目覚めたのだ。