冬のエトランジェ 1
それはあの夜と同じでした。
冷たくなった唇が重なりあったとき
わたしはそれまでずっと押し隠して来た感情を抑えることが出来ませんでした。
あなたと初めて出逢った日も、雪の降る寒い夜でした。
母が死んで身寄りのなくなったわたしは
理由も関係もわからないまま、この町に連れてこられました。
まだこの国の言葉もわからない
幼い子供でした。
明るい髪に薄色の瞳
ただでさえ目立つ異国の子供は
小さい町では充分すぎるほどめずらしい存在だったようでした。
たくさんの見知らぬ大人たち
まるで汚いものでも見るかのように、いやらしい視線に囲まれ
怖くて、寂しくて、震え泣ていたわたしに
最初に微笑みかけてくれたのはあなたでした。
繋いでくれた手は温かくて
優しく語り掛けてくれた言葉の意味はわからなかったけれども
覚えてもいないけれども
救いを求める迷い子のように、この手を離してはいけないと
そう感じたのは今でも覚えています。
わたしを見つめる真っ直ぐな眼差しのなかに見えた光に
これからのわたしの道筋を、見た気がしたのです。
大人たちの視線をよそに
あなたはいつもわたしの傍に居てくれました。
わたしに優しくしてくれたのは、あなただけでした。
「ゆ う が」
「ユゥ ガ・・・?」
「そう、悠河。俺の名前だよ、リカ」
それが、最初に覚えた言葉でした。
慣れない生活、
干渉されないという束縛はとてもつらく惨めなもので
屋敷の一番奥の部屋をあてがわれ、学校へも通わせてもらえなかったわたしは
あなたのいない昼間の時間をとても長く感じていました。
独りがたまらなくなるときは人目につかないよう抜け出して、
町のはずれにある、もう誰からも忘れ去られてしまったような小さな礼拝堂に隠れ、
小さなマリア像に薄れゆく母の面影を重ね見て
早くわたしをここから救い出してください、と
祈りを捧げていました。
でも、マリアさまは
あわれな魂を救ってはくれませんでした。
幾つもの四季をここで越えられたのは
あなたが傍にいてくれたからでした。
何かあるたびにわたしをかばい、優しく努めて、
出来る限り傍にいてくれるあなたしか頼れる人はいませんでした。
優しく強いその瞳に、心を許し身を預けていました。
わたしの傍にいてください
わたしを嫌いにならないでください
わたしにはあなたしかいないのです。
あなたさえいればそれでいいのです。
縋る思いはいつしか違う想いに形を変えました。
まだ、恋という言葉を知らないまま。