冬のエトランジェ  6

 

 

 

 

 

        抱きしめられる悠河の腕は痛いくらい強くて

        わたしは離れないようにしがみついているだけで精一杯でした。

        愛を教えてくれるのなら、わたしのすべてを悠河に捧げます。

        心の奥の奥で、それをずっと望んでいました。

        その願いが叶って嬉しいはずなのに、

        涙が止まらないのは何故なのでしょうか。

        胸が張り裂けそうに苦しいのは、何故なのでしょうか。

        愛というものが

        こんなにも辛くて痛いものだとは

 

 

        わたしは

        知りませんでした。

 

 

 

 

 

 

 

               激シクウネル熱情ニ 一人身ヲ裂ク夜ガ明ケル

               生マレテ果テルソノ刹那ニ ドウゾ命ヨ 燃エ尽キテ

 

 

 

 

 

 

        眩暈のような感覚の中で

        わたしは悠河に初めて逢ったときのことを思い出していました。

        ただひとり、わたしの手を取ってくれたあなた。

        今、伝わってくる悠河の体温、

        そのときの温もりと同じ。

        暗闇の中でうっすらと見える悠河の瞳、

        そのときと同じ、真剣な瞳。

        だけどその瞳が今、とても悲しげに見えるのは何故?

 

        あの日、わたしにしてくれたように

        あなたが幸せになれるように

        あなたに伝わるでしょうか?

 

 

 

 

               男達ハ刻ヲカケテ 揺リカゴ探ス

               女達ハ時代ヲカケテ 揺リカゴニナル

               語リ継グモノ クチヲツグムモノ

               オロカデショウカ?

 

               フタリキリ・・・

 

 

 

        何度もの高まりを越えて、それでもまだ足りなくて、

        俺は口づけを繰り返す。

        辛そうに硬く閉じていたリカの瞳が、薄っすらと開かれる。

        縋りつくように廻されていたリカの両腕が、俺の背中を包む。

        ゆっくりと やさしく その胸に抱き寄せられる。

        少し速く波打つリカの鼓動を感じた。

        雪が溶けるように

        ゆるゆると俺の身体から力が抜けていった。

        俺はこの優しさをずっと欲しかったんだと気付いた。

        暖かいものが込み上げてきた。

        それは涙となって、いつのまにか俺の頬を伝っていた。

 

 

 

 

        ただひとり、愛してくれた人。

 

 

 

 

 

 

 

 

               ユライデユレル恋心ニ 遠クデ月ガ鳴イテイル

               ユライデユレル恋心ニ 祈ル言葉モ忘レマシタ

 

 

 

 

 

 

 

        どれくらいの時間が経ったのだろう。

 

 

        朦朧とした意識の中で見たリカの顔は、とても穏やかな顔をしていた。

        天使のような笑顔で見るから、俺も笑ってみせた。

        いつのまにか暗闇に目が慣れていたのか

        唯一の明かりであるストーブの火が消えていたのに気付かないままでいた。

        凍えるくらい寒いはずなのに

 

        なにも感じない。

 

 

        抱きしめたままの身体、

        絡み合った指も、もうほどけない。

 

 

 

 

               ユライデユレル恋心ニ 二人静カニ呼バレテル

 

 

 

 

 

        ゆ う が 

 

        そう、リカの口がささやくように動いた。

        それは俺が最初にリカに教えた言葉。

 

 

 

 

 

               ユライデユレル恋心ニ 時折雪ガ降リ注グ

 

 

 

 

 

 

 

 

        そしてゆっくりと、リカが瞳を閉じた。

 

 

 

        それが俺の・・・最後の記憶。















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