フレンズ
気持ち悪いくらいあかく染まる空が広がる。
風もない夕暮れ。音も遠くに聞こえる。
こんだけ焼ければ明日は雨になるのかな なんてぼんやりと考えながら
視線を遠くに向けたままフェンスに寄りかかって座り、淳を待つ。
独りのときに頭に色々浮かぶことは
実体が存在しないものばかりだから、輪郭だってハッキリしてないし
水が流れていくようにサラサラとしていてつかめないまま。
だからいい。
どんだけ考えたっていいから。だってそこでは全部俺のものだから。
全部ここから外には出ていかないものだから。
揺れる水面のようにおだやかな気持ちでイメージを浮かべていれば
胸にあるこの感情も
痛まないし、
あふれないし。
だから独りがいい。
だけど
「悠っ」
肩がその声にぴくりと動いた。
「・・・おっそいよ、淳」
タイムアップ。
「どうだった?面談」
「圏内だからそのまま気ィ抜かずにがんばれって。
お前は?」
「・・・ギリギリだって言われた」
「そっか・・・。
でも、あきらめないんだろ?」
「あったりまえじゃん。
俺が淳のメンドウ見ないで誰が見るんだよ」
「バーカ。誰が面倒見てもらってるってんだよ。
悠の方こそ俺がいなけりゃ何にも出来ないくせして」
「そりゃ、アタマじゃかなわないけどさ」
「やっぱ、同じ大学行きたいよな・・・」
「うん・・・」
「悠と、あの夢、実現させたいしな」
「うん・・・」
「死ぬ気でやれよ」
「全力は尽くすよ」
「俺と一緒にいたいんだろ?」
いきなり顔を覗き込まれてドキリとした。
「ああ」
無理矢理笑顔を作ってそう答えた。
寄りかかられた背中、遠くを仰ぐように頭を肩に預けられる。
柔らかい髪が頬に触る。
心臓の音が身体中に響きだす。
あたりまえのように淳はいつも
完全無防備状態で俺に寄りかかる
空気のような水のような
いや、もっとあたりまえで近くて、なくてはならないもののように。
目を瞑るとまだあどけない瞼や
唇や頬が
胸の奥で感じる想いに触れる。
溢れそうになるその感情が「愛しさ」というのだと
だいぶ前に知った。
気付かないふりして、無理矢理に閉じ込めたまま、
あたりまえのようにただ側にいる。
そしていつものように穏やかな気持ちのふりをする。
ただ、側にいたいから。
立ち並ぶ建物ででこぼことした地平線に夕日が沈みかかる。
影絵のように黒く浮き出された街。
背後から紺色の夜が覆ってきて、あかい陽を押しやるように滲ませる。
そのグラデーションがこの世の終わりの色のように思えて
その紫がかったあかい空間にいる俺たちの、現実という形をぼやかした。
それはまるでいつも思い描いていた
独りの世界のようで
そしてそこに
俺のすぐ側に淳がいる。
寝入りそうになってる淳の肩を掴んで身体を起こし、俺と向かい合わせる。
夕陽に照らされるその憂いのある顔を正面からじっと見つめた。
妖しいくらいのあかい色に染められた淳はとてもきれいで
そのあかが俺の中での境目を消した。
重い鐘の音に似た振動が頭の後ろで響いて、朦朧とした感覚が俺を支配する。
止まらない思考、だんだんと大きくなる鼓動、
くすぶる感情が行動に変わる。
不思議そうに向けられた瞳をじっと見つめたまま
ゆっくりと顔を近づける。
今にも鼻先が触れるかというところで、淳の瞳がリアルな縁取りに変わった。
そのラインにぎくりとしてはっきりと覚醒した理性が俺の動きを止める。
言い訳のしようがないくらいの距離で淳の唇が動いた。
「・・・いいぜ」
何もかもを見透かすような瞳に俺が映っていた。
「お前となら いいぜ・・・」