Side-K
「うっそ だぁ・・・」
ケータイのバッテリー切れで
知らないうちに電源が落ちてたことに気が付いたのはもう夕飯も済ませた頃だった。
予定より早くマンションに帰ってこれて
ホテルから送った荷物はまだ届かないからとりあえず手荷物分だけ片付けて
思い出したように、ベッドに投げてたケータイを手にして唖然とした。
慌てて充電繋いで電源を入れる。
もしかしたらリカさんからのメールとかっ
・・・・・って
届いてない か。
あたしのスケジュール把握しててくださいなんて
そんなこと言えるわけないし
あたしと違う向こうの時間割りが読めなくて、電話もためらってしまう。
特出最後の出張公演。
仕事の充実感に慣れてくるのに比例するみたいに
寂しいなって、甘えたいなって気持ちが強くなるなんて身勝手もいいところ。
(お疲れさまです。今日は何してましたか?)
なんて、始まりはいつもおきまりの文章。
とりあえず今日の出来事をちょこちょこっと書いてみて
しつこいなあ、なんて
思われないくらいの間隔でメール送信して、期待してないフリして返事を待ってた毎日。
仲間と騒いで賑やかな時間に気持ちそらせてたのも、最後の休演日まででもう限界。
だから
ちょっとだけ催促してみた。
あたしにとって精一杯のおねだり。
してみたんだけどなあ・・・。
(リカさんの声、聴きたいな。)
はぁ、と溜息。
ぼんやりと見つめる手の中のケータイ画面に、見慣れないメッセージ。
録音メッセージ? 留守電?
めったにやらない操作を思い出しながらキーを押して、その留守電を聞いてみた。
「・・・・・リカです。」
「!!」
少しだけ照れたような、久しぶりに聴くリカさんの声。
あたしの名前を呼ぶ少しかすれた優しい声で、一気に胸が熱くなる。
嬉しくて嬉しくて
ほんとに嬉しくて。
馬鹿みたいに何度も再生して聴いてみる。
これって保存とか出来ないのかな?
周りがやけにざわついてるけど、屋外なのかな?
東京のどっかだよね?仕事中?
なんだか忙しそう・・・声も少し疲れてる?
誰かに呼ばれたみたい、振り向いたのかな?一瞬声が遠くなる。
これでもかってくらいケータイを耳にぴったりくっつけて
どんな小さな音でも聞き逃さないくらいの勢いのあたし。
あ、やだ 涙出そう。変なの、顔なんかにやけてるのに。
ん?
あれ?この「あとで」って
えっ?いつ?ちょっとまって今何時っ?
もしかして2度目の電話掛けてたりしてないよね?
着信あったかもなんてのも電源落ちてちゃわからないよー!もーなんで今日に限ってっ。
・・・・・でも
すごく得した気分。初めてだもん留守録なんて。
何だか、お帰りなさいのご褒美みたいじゃない?
今すぐにでも電話したい。ああ、だけどまだ仕事中?
ううん、もういい時間だもん。
今聴いたばかりだけど、リカさんの声、また聴きたい。
待ちきれない子供だと思われちゃう?
でも、もうそれでもいいや。
今夜こそ
リカさんに「おやすみなさい」って伝えたい。
いつもみたいに文字でなくて
声で。