Side-K









          「痛ぁ・・・」

 

          麻痺してる舌。気になってバッグから鏡を取り出す。

          「むらさきいろになってるよ・・・もぉ」

          予防はって風邪薬続けて飲んでたからかなあ

          ビタミン足りてないのかも。

          鏡に映して見てたら、余計に痺れが増したようで。

 

 

 

 

          何ヶ月ぶりかなんて数えちゃいないけど

          昨日、ホント久しぶりにリカさんと逢った。

          お互いめまぐるしく働いてる割にはフットワークも軽いままで

          電話もらって飛行機乗ってホテルの部屋で待ち合わせて。

 

          まるで毎日顔を合わせていた頃と変わらない雰囲気で「どうよ?」なんて声かけられて。

          澄ましてるフリして見せてるけど、

          わかっちゃうんだってば。すごく嬉しいっての。

          ねえ、嬉しいんでしょ?リカさん。

          あたしだって嬉しい気持ち、隠すつもりはこれっぽっちもなくて、

          どうやってうんと甘えようかとか、考える。

 

          ソファーに並んで身体くっつけて、

          持ってきたお土産やら、適当に頼んだルームサービスとか、

          口にしながら仕事のハナシ。

          だって他に話題なんて ないんだもん。

          勿体無い時間潰してるとは思うけど、側にいるだけでいいかな なんて

          幸せなアタマ、これ以上働かないや。

 

 

          柔らかいリカさんの唇があたしの唇に触れたから

 

          「今・・・少し風邪気味なんですけど・・・」

          上目で申し訳なさそに断りを入れてみる。

 

          「だから?」

          「だから。」

          「熱あるの?」

          「ううん」

          「喉は?」

          「痛くない」

          「・・・で、どこがだから?」

 

          期待通りに却下されて、また唇を塞がれる。

 

 

 

 

 

          温まった身体、暖かい部屋、

          落としたルームライト。

          肌に触れる手のひらの熱が心地よい。

 

          「寒くない?」

          「うん」

 

          優しい言葉。

 

          いま ここにあるすべてが、あたしを暖かく包み込む。

          抱きしめられるこの温もりが すき

          耳元でささやく声も すき

          このひとが 大好き・・・。

          こんなにも好きだということを幸せに思う。

 

 

 

 

 

          「ん・・・っ」



          纏う熱でふやけた神経をしめつけるように      

          絡め取られた舌を強く吸われる。

          い・・・っ・・・

          声も奪われ、痺れる感覚に身体をよじらせる。

 

          込められた愛情は痛みとなって

          あたしにその深さを刻む。

          ズキズキと疼くキスの痕。

          いつしかその痺れが全身に巡り、ほどなくつま先まで到達した頃には

          溢れる愛をこぼさないようにと、重なり合った身体をそっと

          そしてぎゅっと抱きしめられる。

          目眩を覚えながらも愛されてるって実感する。




          それはいいんだけど。







          「あっ・・・もぅ、またぁ」

          腕時計をしようとして、手首にある赤い痕に気付く。

          「りーかーさーんー

           目につくところはやめて下さいって言ってるでしょお?」

          「時計するから見えないでしょ?」

          「なんか、いつもより色が濃いんですけど」

          「それだけ愛が深いってことでいいじゃない」

          うふふって顔して頬をすりよせてくる。

          「服、皺になりますよ」

          「あ、素直じゃなーい。嬉しいくせに」

          「嬉しいですよ。好きだもん」

          「なにが?」

          「りかさんが」

          「よろしい」



          飽きるということを知らないあたしたち。

          縺れるようにしてソファーに横たわったまま、キスを繰り返す。







          悪戯に微笑むあの顔に弱いあたし。

          逆らえるはずもなく容赦なく愛されて、

          一人ぽっちになった身体に残る痕。

          ディープキスっていったって、あんなに強くやんなくってもいいのに

          舌に残る痺れで、あの温もりを反芻してる。

          手首の痕もまだ赤いまま。

          困り顔で笑う。





          あたしの想いの痕も

          あの人の胸に、まだ残ってるといいのに。














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