Side-K
体当たりするだけじゃダメだと気付かされて、
若いからっていうのも、言い訳にならない学年になった。
ふと横を見たら、
凛とした姿で立つリカさんが、自信に満ちた微笑みをあたしに向けていた。
もっともっとしっかりしなくちゃと
思えば思うほど空回りしているようで
いつもいつも、胸がざわついていた。
急いでオトナになりたくて
甘いアタマ、切り替えたくて
アロマテラピーよろしく
変えた香りは ブルガリ。
「ふうん。タニってこーいうの好きなんだ」
首元にあたるリカさんの唇が、くすぐるように囁く。
「えっ・・・」
「香水。変えたの?」
「あっ・・・はい・・・」
「・・・もしかして、メンズ・・・?」
「ブルガリ・ブラック・・・なんですけど・・・」
「ふうん」
つれなそうな言葉とは逆に、手際よくブラウスが脱がされてゆく。
細い指が肌を滑り、舌を舌で絡め取られ
いつもと同じだけの愛を刻まれる。
今度の移動で
離れ離れになってしまう リカさんとあたし。
いつもあたりまえのように包まれていた
優しい香りから離れたくなくて、こっそりとティファニーを買った。
お守り代わりにとか言って
肌にしみこませたかったけれども、それは無理だから
それなら違う自分を作っちゃえ!なんて
気持ち強めの香りで暗示をかけた。
おびえてる自分を隠してしまうように
一人でもしっかりやれるように。
「こないだまで使ってたの、好きだったなー・・・」
「イヴ・サンローランの?」
とろんとした瞳で見つめられる。
「タニらしくて、ね」
髪に指を絡められる。
「なんで変えたの?」
「限定品だったらしくて、もう売ってなくて・・・」
「そっか・・・」
鼻先をこすりつけるようにして、胸に顔をうずめる仕草。
深い深呼吸と少しの静寂。
「キライじゃないわよ」
「えっ・・・?」
「ブルガリ」
「・・・ほんと?」
「うん」
「それもアリかなって」
「?」
「もうひとりのタニって感じ?」
ぎゅっと抱きしめられて
耳に寄せられた唇から、しびれるような声。
「それでガードしてて」
「えっ?」
「あっち行っても、誰にも触れさせないで」
「あっちって・・・どこ?」
「ソラ」
「リカさ・・・」
「私に触らないでって その香りでちゃんと意思表示しててよ」
「どこにいても?」
「誰といても」
繰り返すキスに離さないでと願いを込めた。
「イン・ラヴ・アゲイン」
「へえ〜、いいですね。それ」
「何年か前、使っててね
その年だけの限定品だったのがまた発売されたって
こないだ読んだ雑誌に載ってて」
あ、欲しいなって思ってたら
カードも何も添えられてない小包に入っていたこの香水。
宛名には久しぶりに見る恋人の名前。
あたしあのときこの香水の名前、言ってないよね・・・?
誕生日プレゼント、とか
こじつけないスタイルは変わらないんだね、リカさんって。
嬉しくって
もういいかなって思って
ブルガリをやめた。
ねえ
あたし、この香りが似合う大人のオンナになれたかな?
もう無理して背伸びしなくてもいいくらいになったって言えるかな?
それとも・・・
独占欲の意思表示?
ねえ そうだとしたら
うれしいわがままだね。