Side-K
ケータイ握り締めて、ソファーの上で正座。
三度目の正直にかけて
履歴辿って発信ボタンを押す。
「りかさん?
お疲れ様です。かおるです」
「うん?何?どうしたのー?」
ちょっと弾んでるようなりかさんの声。
いいことでもあったのかな?
「あの、今週の金曜って
夜、時間空いてます?」
「金曜〜?
ダメー空いてないー」
「あ、そう・・・ですか・・・」
「だってその日、もう香港だもん」
「えっ?」
「りかさんと行く香港ツアー。
ファンクラブのイベントで行くからねって
こないだ言ったじゃない」
「あ・・・それ今週末だったんだ・・・」
「んもー、私の話なんて聴いてないんでしょっ」
「あ、いえ!・・・はい、ごめんなさい・・・」
「折角東京公演中でこっちいるのにねー
こないだもその前もダメだったもんねー
全然タイミング悪いんでやんの。ついてないねーかおるは」
ころころと笑うようにそんなこと言うんだね、りかさんは。
って、ついてないのはあたしだけなの?
オフの日も用事が詰まってて、このごろやけに忙しい。
時間をどうにかやりくりして
このへんならりかさん大丈夫なんじゃないかなって
デートの約束、これでもう今月三度目の電話だったのに
またフラれちゃうし。
これじゃあ三度目の正直どころか、二度あることは三度ある だよ。
「まあまあ、イイコで待ってなさい。
あ、私が居ない間に浮気しちゃダメよ」
自分はたくさんの彼女達と楽しんでくるくせに。
「はぁい・・・」
なんて会話してたのがもう一週間前。
出発前に電話するから、なんて言ってたのに忘れたまま行っちゃうし。
ドキドキして待ってて、がっかりして、つまんなくて、
なんとなく心がぽっかりしたまま週末も過ぎちゃって
休演日前だってのに、なにもかもつまらない。。
あ、
そういえば帰ってくるのいつ?って聴くの忘れてた。
いつだって逢えないのに
たまにしか声だって聴けないってのに
いつも通りなのに
なんとなくすごく寂しい。
「早く帰ってこないかな・・・」
思わず声に出た独り言。
それが子供のような拗ねた口調に聴こえて、また悲しくなった。
楽屋から出て、皆に見送られて、愛想浮かべて手を振って、
ふう、とシートの背もたれに寄りかかる。
膝の上のバッグの中の、小さな振動に遅れて気が付く。
期待しないでケータイを開くと
ディスプレイに待ち焦がれてた名前。
『ただいま。今度いつ逢える?』
聴きたかったメッセージ。
四度目のナントカってのはないんだっけ。
履歴を辿って発信ボタンを押す。
今日はあたしが弾んだ声で
おかえりなさい、って
りかさんに言うの。