Side-K
久々の連休に浮かれて、オフに入る何日も前からリカさんに連絡入れてみてるのに
まだ予定がわからないの、と返事待ち状態で5日も過ぎた。
お互い仕事が忙しくて、もう何ヶ月もずっと逢えないでいたから
どうしてもどうしても逢いたくって。
次のオフだっていつになるかわかんない。
だから約束もないままだけど、東京へ来てみた。
『時間とれたら連絡ください』
もう・・・東京にいるんです。
とは書けなかった。迷惑がられたくないから。
って、すでに逢いたいって焦らせてる時点で迷惑なのかな。
少しずつ 陽が落ちるのがはやくなってるんだって
窓の外をぼんやり眺めてて気が付いた。
空もいつのまにか高く感じる。
秋の気配。
それは少し、寂しさに似てる。
落ちかけの太陽が目の奥に白い残像を残す。
顔を少ししかめながら振り返ると、暗い室内のベッドに投げたまましていた携帯のランプが点滅している。
あっ
やば 気が付かなかったっ。
慌てて手に取り受信メールを確認する。
『で、今どこにいるの?どうせもうコッチ来てんでしょ?
まだ少し時間かかるから、場所メールしといて』
あたしの行動なんてすっかりお見通しって感じ。
いつも聞いてる口調で、当たり前みたいに返ってくる言葉、
たったこれだけで、やっぱりあたしでいいんだって、自惚れてしまいそうになる。
あと何分?あと何時間?考えるだけで体温が上がる感じがする。
でも、最初に感じてたドキドキほど強くないのは
余裕が出来たんじゃなくて、待つことに慣れたってだけ。
寂しさに 慣れたってだけ。
BGM替わりにつけてたテレビの音にチャイムが重なる。
ぼんやりとしてた頭がイキナリ覚醒する。
もつれるような足でドアへ向かい鍵を開ける。
「・・・寝てたね・・・?」
強い眼差しのリカさんが、至近距離で顔を覗き込みながらそう言った。
「・・・だって、待たせるんだもん」
嬉しさを裏返しして拗ねてみる。
つれない顔をしてみせても あ、だめ。揺れる瞳に見つめられてドキドキが強くなる。
目線をはずさないまま、リカさんがじわりとドアの内側へ身体を滑らせる。
ゆっくりと後ろ手で静かにドアが閉められる。
閉められたドアの鈍いパタンという音と同時に、リカさんの両手があたしの頬にあてられ
唇を奪われる。
まるで噛みつくような強いキス。急な行為に驚いて開いたままだった眼をどうにか瞑り
なすがままに愛を受ける。
「・・・んん・・・っ」
長いキスに我慢出来なくなって無理矢理唇をずらした。
離れた唇、不満気にリカさんの手から力が抜けた。
逃げようとするその手をぎゅっと握ったまま、はあ と大きく息をはいた。
「あ、あんまり久しぶりのキスだったから、息きつぎの仕方、忘れちゃってて・・・っ」
「はぁ?何言ってんのよ」
「苦しかったあ」
「ばっ・・・かじゃないの」
あきれた口調の中に滲むほっとしたような声色。
ふわりとあたしの肩にリカさんの頭が乗せられる。
頬にかかる髪、いつものリカさんの匂い。
両腕を背中に廻して、リカさんをきゅっと抱きしめる。
「すごく逢いたかったの」
「・・・それは私のセリフ」
ぽつりと耳元で囁かれる。
「来てくれてありがと・・・」
「・・・それも私のセリフ」
顔を上げたリカさんが、少し照れたように笑った。
手を繋いだままソファーに寄り添って座る。
髪を指に絡めながら、胸の鼓動を聴きながら、
内容なんてない他愛もない会話を囁くように交わす。
リカさんを見つめる。
見つめ返される視線にもう動けなくなる。
近づくその瞳がすっと閉じられる。唇が重なる。
優しく甘いキスを何度も何度も繰り返す。
交じり合う吐息に、時が淡く染まる。
熱の冷める余韻を感じながら、手を繋いで眠る。
忘れていたまどろみに身体ごと沈んでいく。
ずっとこのまま こうしていたい・・・
声になる前に、唇を噛み締めて叶わぬ欲望を胸にしまい込む。
触れる温もりがあまりにも愛しくて、寂しさがまた押し寄せる。
たった今、こんなに傍にいるのに、切なくて苦しくて。
優しく撫でられる手に、強がりも壊れてく。
慣れたと思ってた寂しさは
ただ、
慣れたふりをしていただけ・・・。