Side-K
夢を見た。
リカさんが真っ白でふわふわのチュチュを着て踊っている夢。
あたしは部屋の隅っこのほうでその踊る姿を見ていて。
どこかのレッスン場みたい。板張りの床、壁一面の鏡、高くない天井、
少し古ぼけた感じがどこか懐かしい気持ちにさせる。
バーから離れた手がゆっくりと弧を描いて、つま先がふわりと浮き上がる。
羽が宙を舞うように、軽やかに身体を翻し踊る。
とても綺麗で、とても繊細で、
気が付くと誘われるようにあたしは踊るリカさんに近づいてて
ついと差し出された細くて白い手をとって一緒に踊りだしてた。
リフトする腕が震えてる・・・。
その不安定な腕でも軽々とリカさんの身体を高い位置まで浮かすことが出来た。
静かに床に降ろして、くるりと振り向き見つめあう瞳は澄んだ湖のような色。
うっとりとするような笑顔であたしの頬にキスをした。
「えっ?」
鏡越しに顔を覗き込みながらポツリとつぶやいた。
「だからぁ、リカさんって意外と可愛いですよねって」
「意外は余計よ。なによ、いきなり」
にへにへとしまりの悪い顔してるあたしのほっぺを、きゅうっとつままれる。
「いたーい」
休演日前日、
次の日に何も予定がない時の限定だけど、
仕事やお付き合いでどんなに遅くなろうが、リカさんは
あたしの部屋へ帰ってくるようになった。
「今朝見た夢でね、
リカさんがチュチュ着てバレエ踊ってたの」
ぶっ と飲んでたミネラルウォーターを吹きだしそうになるリカさん。
「な、なんつー夢を勝手に・・・」
「いやー、すんごい可愛くって、すんごい軽かった」
「軽い?」
「リフトしたんだもん」
「夢の中でも男役やってたの?」
「そうみたい」
「変なの〜」
目を丸くして肩をすくめて、リカさんちょっとだけあきれ顔で笑ってる。
「そうえいば昨日寝る前にロシアかどっかのバレエのドキュメンタリー番組やってたの
ちょっと見てたから・・・だからかなあ?」
「単純だね、キミは」
そんなことないもんって唇尖らせ、甘えた目で拗ねるフリ。
おぶさるように寄りかかってたリカさんの背中に体重移動しちゃお。
「あーもう、おとなしくベッドで待ってなさい!」
「ねえ」
「なに?」
セミダブルのベッドで向かい合って真夜中のお喋り。
「さっきの夢の話、
私が軽かったって言ってたけど、タニの夢って感覚とかあるの?」
「あるよ」
「ふうん すごいね」
「色だって付いてるし。
リカさんの瞳、グレイだったよ。外人みたいだった」
「ふうん」
「リフトする時なんか、匂いもしたし」
「何の」
「リカさんの」
「何それ!?おかしいよ 匂いとか普通しないって」
「いつものリカさんの匂い・・・だったよ」
そう言いながらあたしはリカさんの首筋に顔を埋めて、その感覚を思い出してみる。
甘くて優しくて、大好きなリカさんの匂い。
「リカさんの夢は・・・違うの・・・?」
唇を肌に付けたまま囁くように問いかける。
んっ という声と同時に小さく身体が反応して、あたしの肩に腕が伸びる。
「夢なんて・・・
最近全然見てな・・・い」
廻された腕に、きゅうっと引き寄せられて
まるで磁石のようにぴったりとくっついてみる。
あたしは赤ちゃんになったように
頬で鎖骨をなぞりながら、目を閉じたまま柔らかい胸を探す。
優しい匂いを深く吸い込んで、リカさんの鼓動に耳を澄ます。
「・・・夢は
誰でもいつも見てるんだって」
あたしの髪をすくようにリカさんが優しく指を絡める。
「だからきっとリカさんの夢にもあたしがいるはず・・・」
「わかんないよ・・・覚えてないもん」
「じゃあ、あたしがリカさんを探すから」
「私の夢の中で?」
「そ、
だから目印つけてもいい?」
白く柔らかい膨らみに
赤い跡を刻む。
「ちょっ・・・やぁだ
目立つじゃない そんなトコ」
上目で見つめて、ちろりと舌を出す。
「一つだけじゃ
わかりにくいかも」
花びらを散らすように跡を残す。
パジャマのボタンなんて最初から掛けてない。
やだって素振りも、もう意味ないよ。
夢でも逢いたいんだもん。
夢で待つリカさんに。
赤い跡を目印に。
そして昨日の続きを踊ってもいい。
・・・覚えてないなんて言わせない。
だから
手を繋いで眠ろう。
一緒の夢を見れるように。
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