Side-K
意識して手を繋いだことよりも前に
口づけを交わしたような気がする。
「好き」と伝えるよりも前に
その手が頬に触れていたと思う。
はじまりは突然のようで
でも
想いはずっと心のどこかで渦を巻いていたのだろう。
リカさんの唇はとても柔らかくて
温かくて
優しくて・・・
繰り返すキスの感触がたまらなく気持ちよくて
何度もせがんでしまう。
そしていつか
気が付くとリカさんの手があたしの頬から首へ
首から鎖骨をなぞるように肩へ
ブラウスのボタンに手がかかり、
一つはずして素肌に触れた指に
隠しきれない胸の鼓動を感じとられてしまう。
俯くあたしの耳元でリカさんが囁いた。
「・・・いや?」
あたしは小さく首を横に振った。
口づけのその先はどうなるかなんて、知らないわけではなかったけれど
一番最初のその時
あたしの身体はわずかに震えてた。
爆発しそうなくらいドキドキしてるあたしの心臓。
聴こえないフリして唇を重ねられる。
壊れものを扱うように皮膚の上をそっと手が滑る。
すこしだけ戸惑いが残る指が輪郭をなぞる。
すこし 怖い
でも
もう 戻れなくても いい・・・。
あたしはとても不器用に
でも精一杯の気持ちでリカさんに答える。
波が寄せるように
熱いうねりに飲み込まれて
あたしがあたしでなくなるような感覚に溺れて
頭の中が真っ白になって
混ざり合う吐息がやけに耳に響いて
胸の奥から溢れ出してくるものを押さえきれなくなってしまって
知らないうちにそれは涙となって頬を伝っていた。
「ごめんね・・・」
「なに が、ですか・・・?」
「戻れなくして ごめん・・・」
ぎゅう、と強く抱きしめられたリカさんの腕も少し震えていた。
ううん、と首を振る代わりに残っている力全部で抱きしめ返す。
どこまでがあたしでどこからがリカさんとの境目なのか
もうわからない。
この想いが間違いなんかじゃなくてこの瞬間が永遠であればいいと
あたしは祈るようにリカさんを抱きしめた。
「好きになって ごめんね・・・」
風もない真夜中
初めての夜に見たのと同じ赤い月が
疼きの止まないあたしの影をぼんやりと映し出す。